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「適当な話をしてもいいかい?」 「いやぁよ、息抜きならもっと真面目な話、して頂戴」 ちえっ、と城 華一郎は舌打ちを零す。 愛佳は病院勤めになってから、大分変わったと思う。 それこそネコっ可愛がりに猫士たちを面倒見ていた頃に比べれば、 今の時代は鋭くなった。 もっと、丸くなってほしいなあ。ネコだけに。 「感動がさ、足りないと思うのよ」 「仕事しなさいよ、文族さん」 このミルク色の髪をした猫士は、最近この呼び方ばかりをする。 ある、フィクショノートの娘の名を戴いた彼女は、 由来の通り、佳き愛の結晶として生まれ育つところから、 どうやら生み、育むところへ至ったらしい、と、 華一郎は微妙な笑い方をして考える。 命を相手に日々を営んでいたら、こうも育つのかな、と、思う。 愛らしい、少女としての振る舞いはなりを潜め、 愛しげに時々刻々を過ごす、佳い女になった、そう思う。 女とは、つまるところ愛だから、 ああ、愛佳は愛佳になったのだな、 華一郎の主観からすると、そう、感慨に耽ったことになる。 「俺さ、取材を頼まれてるのよ」 「よかったじゃない。妄想だけを書き散らすよりはずっと健全よ」 「きっついなあ。尖るなよう」 愛佳、嘆息。 腰に手を当て振り返る姿は、目がキツい。 「みんなが大変な時に、身内相手に笑っていられるほど、 優しくなんてないんですよー、だ」 そういうのは担当してるアイドルさんに求めなさいな、と、 これまたキツいことを言われる。 まだ、身内として見てくれているのは、すごく嬉しい反面、 確かにこんなこと、してる場合じゃないよなあと現実に帰らされる。 ゲームしてるのに現実に帰らされるって何よ。 それだけアイドレスが俺にとって現実として認識されているのか、 と、喜ばしくも思えるが、それはそれで、人間として、いいのか、 そう思う。第七世界人だって、生きているのだ。 何しろここは市民病院の裏庭で、 華一郎は、玄霧藩国から来てくれた、藩王率いる医療部隊の、 顔ぶれ含む、人間的主観の混じったデータを渡した後であり、 愛佳は白衣のまんまで、つまりは勤務時間の途中なのである。 渡した相手が愛佳であり、 渡された相手がデータを読む、片手間に、世間話に応じてくれているのだから、 問題は、ないといえば、ないのだが。 「自信、なくなるねえ」 「こういう時ほど燃えるんじゃなかった?」 ほら、あの頃みたいに。 誰だったっけ、今でも時々、義腕のメンテナンスに来る、 ナイスミドルの彼。 「なくなるものさ。 結局、文族ってのは現実に対する無力感で一杯の奴がなるもんだ。 威勢がいいのも、全部、文章のためだけだからな」 「クラシックな作家っぷりね。明治時代の文豪じゃないんだから」 「あぁ? でも、黒霧さんなんか、結構同じタイプだと思うぞ」 「腕が違うじゃない。向こうの方が立派よ」 「俺は摂政だぞ」 「彼は作家よ、この上もなく」 「……言い負かされるよなあ」 結局、俺にとっちゃ、 華族稼業ってのは、挫折した結果に行き着いた先だからなあ。 そう、独りごちる華一郎。 「無力感に打ちのめされていた頃よりは、ずっと行動出来てるんじゃない?」 「作家としては堕落だろ」 「人間としてはマシになったかもしれないのに」 くすすっ。 この会話が始まって以来、初めて愛佳が、瑞々しくも、 微笑みの華を咲かせた。 それは髪色と相まって、白百合が揺れた様にも似ていたと、 華一郎は述懐する。 「戦わなきゃ、現実と。なーんて言葉、あるけどさ。 手段が違うだけなのはわかってるよ。 華族としての充実感にも、浸っちゃいる。時々ね。 だから、俺が今、もやもやして、煮え切れないのは、 単純に、何やってんだよ、自分、そう思ってるからだ」 「愛しい彼女が待ってるんじゃないの? そろそろ行ったら?」 「愛しくはないさ。愛しているだけだ」 「おお、ごちそうさま!」 「……割と、愛っていうのも、どうかと思うぜ、最近。 それこそいろんな愛があるんだ。いろんな命があるように。 俺の、彼女に対する愛は、誉められたもんじゃない」 「向こうがそれに気づいていても、面と向かって、そう言える?」 「わからん。言える気もするし、言う、間柄になった時点で、 ずっと現実的なステージに進んだとも感じるようになると思うが」 華一郎、立ち上がる。 「私小説も、ほどほどにしないとな。 こちとらエンタメ稼業が本業よ!」 「ぷろでゅーさーさん、スーツがお似合いよっ!」 「ばーか」 そう言って、愛佳の頭を、 それだけは昔と何も変わらないかのように、ポンと撫でるように叩いて、 華一郎は歩き出す。 「今の俺ゃ、法の司で、ハッカーよ」 「どうだかね、スターファイターで猫妖精2さん」 「あばよ、またな」 「元気でやれよ、フィクショノート」 軽口と、挙げた手を、ピシ、パシ、叩きあって、 愛佳と華一郎はすれ違った。 愛佳は中へ、華一郎は街へ。 動乱、未だ続く、5月21日の朝の光景であった。 [No.6572] 2010/05/21(Fri) 08:40:11 |