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何しろ疲れた。 国元が戦場になり、日常という日常が破壊し尽くされ、 それがもう、1年ばかりも続いたのだから、 やっと解放された故国に思うことは、誰もが、その、一言に尽きた。 砂塵舞う光景に、荒涼を覚えても、だから、それは仕方ない。 住まう者を持たぬ家たちは、荒れ、 整備されぬ街並みは、戦災の傷跡も生々しく、破壊という大巨人の足跡で、 平らかに、平等に、等しく、砕き上げられている。 「ひっでえなあ。なあ?」 メイが傍らで、身も蓋もなく口にした感慨に、 アウ=ルは、再び胸を切り裂かれた心地になった。 藩都大学、建築学科。前々年度・首席。 前年度の首席は、いない。戦争の最中にも学業を続けられるほど、 この国は、武闘派でもなければ、肉体派でも、ないのだ。 苦々しい面持ちになる。 高位の建築士としてアウ=ルが就職するはずだった会社は、 もう、営業していない。主だった社員たちが、国外に避難したまま、戻らないからだ。 去年、勇んで作った名刺に踊る、自分の名前についた、デザイナーとしての肩書きが、 アウ=ルには、とても虚しい。 だから、メイから、デザイナー、デザイナーと呼ばれるたびに、 身が縮む。 何故、俺なんだ。 早速測量を開始したメイの、かがんでまで、デカく、太い尻を、 見つめながら、思う。 避難先で会社を立ち上げるからと、戦時指定解除の報に、 国元へと戻ろうとしたアウ=ルを、同僚となるはずだったみんなは、 一様に引き止めた。 ある社員は、アウ=ルに、こうも説いた。 「これが商売なんだ。 生きるために、やっているんだ。 今、レンジャー連邦に戻ったって、まともな仕事なんか、当分来ない。 僕たちだけじゃない、みんなそうさ。 だから、戻るな、アウくん。ここにいよう。な?」 鳴り物入りの新人デザイナーとしての、厚遇を蹴ってまで、 アウ=ルが帰ってきたのは、ただ単純に、もう一度、見たかったからだ。 生まれ育ち、慣れ親しんだ、故郷というものを、見たかったからだ。 その時も、今と同じ光景が、目の中に、 胸の中に、イヤというほど、ぐりぐりと押し込まれて来て、 とても、痛かった。 何の虚栄か、よすがにしたか、 懐に仕舞い込んでいた名刺を破り捨てたのは、その時だ。 そして、破る途中で投げ捨てた名刺を、 今、瓦礫を拾い上げた手つきと同じように拾ったのも、 やはり、同じ、メイだった。 『これ以上、汚すんじゃあねえよ』 どうせ一緒だろうと反駁しかけた口が、その後に続いた言葉で、 閉ざされた。 『誇りまで、汚すこたあねえ。 まだ、まっさらじゃねえか、この名刺はよ』 来い。 そう、有無を言わさず襟首をつかまれて、引きずられるままに見知らぬ男の事務所に泊まったのが、 昨晩のことである。 雑草の茶を、雑穀のかゆにぶち込んだ、粗末なメシを食わされ、 今朝、やっと互いに名乗りを終えたばかりの間柄だ。 それが何故、国の復興などというデカい話に駆り出されることになったのか。 そうこうアウ=ルが追想している間にも、 メイは、手際よく測量を終えると、大きく頷いて、こちらを振り返る。 「いけそうだぞ、あんちゃん」 「はあ……でも、何がですか?」 「おめえさん、土木地図もちゃんと見てねえのか? 感心出来ねえな、デザイナーっつっても建築家の端くれだろうがよ」 む、とアウ=ルに反感がこみ上げる。 仮にも首席卒業の自分は、ここ、藩都どころか、レンジャー連邦の地理なら、 諸島に至るまで、すべて把握している。 反論しようとして、今、自分たちが立っている場所の地図を思い起こし、 ふと、気付きが脳裏に閃いた。 「水ですか」 「おお、なんだ。わかってんじゃんよ」 「そうか……国の復興は、まず、水回りからだ。 生活用水を整備しないことには、どうにもならない。 メイさん、新しい水路の敷設ですね?」 MEIDEA建築、通称め組の仕事はアウ=ルも聞いている。 今はすっかり産業となった燃料生産地を、拳一つでボウリングして掘り当てたという伝説が、 学科の中でも伝わっていたからだ。 そうか、オアシスの水脈を掘り起こすんだな。 でも、既存の井戸は? 農薬の汚染を危惧しているのか、いや、でも手間的には……などと、 アウ=ルが瞬時に考えを巡らせている間にも、 「いや、違うよ」 と、メイは、あっさり否定する。 「違うんですか!?」 「そんな基礎工事だけやっても、国は元気にならねえよ」 「でも、必要じゃないですか!」 ち、ち、ち。 ころんと、フランクフルトを思わせる、太く、日に焼けた人差し指が、 妙に愛嬌のある仕草で横に振られる。 その指が、ドン、と、アウ=ルのど真ん中を指した。 「デザイナー。おめえさんの仕事が必要なんだよ、この国にゃあ」 言葉に、ちくり、胸の中で、 悲しみとは違う痛みが走った気がした。 この痛みは何だろう? /*/ [No.6786] 2010/07/07(Wed) 02:55:00 |