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アウ=ルは一人、事務所で図面を引く。 メイは、いない。現場第一主義の、め組の大将は、一人、 荒れ果てた市街の中で、地ならしを行っている、らしい。 『風呂だよ、風呂。 くそ暑くて、イヤんなる位、ぼっこぼこにされたんだ。 まず、休みてえじゃねえか』 言い出した案に、なるほどとアウ=ルは頷かされた。 聞けば、単純に、このドワーフ型オヤジは、自分が風呂に入りたかったらしい。 『んでもよう、おめえさんのアイデアも、いいじゃねえか。 取り入れよう。 水回りの中心になる、銭湯を作るんだ。 今みてえな状況に、誰もが安心して使えるような、水の供給源よ。 湯も沸かせる施設がありゃあ、そりゃ、火の自由に使えない間は、えらく重宝するぞ』 だから、おめえ、図面を作れ。 四都分、入ってて、すげえくつろげて、すげえほっとするような銭湯を、 デザインしろ。 「……ああー、くそ、絡む! 地下の配線構想がまとまらねえ! まともに電気も来てないのに、紙資料だけで仕事出来るかよ!」 簡単に言ってくれる、と、言われた直後は顔がひきつった。 実際、着手してみて、想像以上に難航するのが、目に見えた。 そもそも一人で手掛ける作業量では、ない。 ブレーンストーミングをするスタッフも、 役所と折衝する事務員も、データを手配する資料係も、誰一人、いないのだ。 大学で学んだことは、もちろん知識だけではない。 各員の長所を把握し、チームを組む、リーダーシップやマネジメント能力、 突発的アイデアをむりくりに形にする行動力、そういった、 実践的なレベルでまで、取り組んできた。だからこその、首席だ。 だが……。 どんな時も、仲間がいた。 一人、一人、一人一人一人……! そのことばかりが頭に渦巻く。 一人で仕事が出来りゃあ、苦労しねえよ! 「くそっ、混浴風呂に入りてええええええええええ」 苛立ちに任せて煩悩を叫ぶ。 「あら、そいつは随分熱烈なお誘いだねえ」 ぴた。 「こんなお婆ちゃんでよければ、ご一緒するよ?」 しっとりと低い、年かさの女性、ならではの声色の響きに、 振り返る。 「ちゃあんと仕事してくれたら、だけどね」 そこには、め組、唯一の事務員にして副社長、 メイロード=”ザ・レイディ”=ブラスフィールドが、 風呂敷包みを背負い、立っていた。 年輪が皺を刻み、皺が歴史を刻み、歴史が気品を刻み込んだ、 兄・メイとは裏腹の、エルフの老貴婦人のような、あでやかな老獪さが、 地にまで届く、長い長い、灰髪にも、漂っている。 「いや、その、今のはですね……」 「はいはい、慌てんじゃないよ、ぼっちゃん。 あたしがわかるかい?」 「ザ・レイディ……メイロードさん、ですよね、社長の妹さんの。 灰のラプンツェル」 「ははあ、うれしいね。まだまだこの髪も、見紛うことなく、 私を伝えてくれるか」 そう言って、アウ=ルに向けて、自らの髪を手ですくって見せるメイロードは、 どさりと風呂敷包みをアウ=ルの着座している机の横に落とした。 「なら、これが何かもわかるだろう? あんたの仕事に使う、ありったけの最新の地図と、製品カタログと、書類の写しをかき集めてきたよ。 金は、気にしなさんな。おえらいさんからの判子、もらってるからね」 ぺらり、風呂敷の中から取り出しかざして見せた、 猫と蝶の絡み合ったイグニシアが表紙に踊る書面は政府の認可状。 署名は丁寧に、政府職員一同、と記載されている。 「は、はは……。 あらゆる現場の裏方を、たった一人でこなせる灰のラプンツェルの名前を、 知らない学生はいませんでしたよ。 ついに誰も射止めることの出来なかった、伝説の土木姫君、ザ・レイディですからね」 「よしとくれ。仕事に熱中して行き遅れただけのことだよ」 血が、騒いできた。 建築家は、大工でも、土木作業員でもない。 意匠を行き届かせるために現場を手掛けることもあるが、基本的にはデスクワーカーだ。 自然、大学での、学生たちからのネームバリューは、現場主義のメイよりも、 メイロードに集中していた。 曰く、ペイパー・ガール。 曰く、デジタル・ウェイトレス。 曰く、ウィングオブ土木テイタニア。 補佐という補佐をこなし、 仕えた人間の作業効率を何倍にも引き上げるという、 忍従のベテラン、艱難辛苦のプロフェッショナルが、 メイロード=ブラスフィールドという存在なのだ。 戦後の混乱も著しいというのに、これだけの資料を揃えるのに、 一体、どれだけの労力がいるというのか……。 想像しただけでも伝説が真実であったことを実感する。 早速、ひらり、眼前に提示された資料の内容一覧に目を通し始め、 すぐにアウ=ルは首をかしげた。 「メイロードさん……なんですか? この、人材リストって」 「あん? 決まってるじゃないか」 「作業スタッフ、全部あんたが決めるんだよ」 この仕事は、あんたのものなんだからね。 そう、当たり前のように告げたメイロードに、 アウ=ルは二の句が継げなくなった。 「そ……そんな、無茶苦茶なー?!」 どんだけ俺に仕事させる気ですか、あんたら兄妹は!! 頭の中でだけ、叫びつつ、 ふと思い出した異名は、灰燼のブラスフィールド兄妹。 なるほど。 これは確かに、関わってしまっただけで、灰燼だ!! /*/ [No.6787] 2010/07/07(Wed) 03:46:53 |