![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
どちらが早いのでしょうか。私は2つの気配を同時に覚えました。 油圧式の力感ある所作でスライド機構を駆動させた、棺の蓋の気配と、その棺の内側でスリープモードを維持していた私の、さらに深奥、私を起動せしめた存在の気配を。 私という個体を表す名称はウィングオブテイタニアです。 機械工学をまなざしとして持つ、第六世界の生まれの、世界間介入を行うための、女性タイプの義体、通称「舞踏子」をモデルに建造された、第四世代型パワードスーツ、「アイドレス」の、第七世界における1ヴァリエーションとしてチューニングされた個体。 私を建造した私の属する世界は、魔法から機械工学までの全てを、ただ、「そのようにある」情報として、技術体系の世界的構造ごと認識し、エミュレートする、情報複製技術によって構築されています。それを為しうるのは、第七世界に向けられているまなざしが、「世界とはそのような場所である」と、認識しているためです。 よって、私が、機械工学の本来持ちうる設計スペックを超えて、第一世界から第五世界のうちの、低物理域的なオーバーセンスを発揮しうるのは、私のモデルとなっている舞踏子の、更に一部、妖精と呼称される類の評価を得ている方達が、同様のオーバーセンスを、限定的にではありますが、発揮してきたという認識が積み重ねられた結果と言えます。 私の人格は私のモデルとなった方達の中核的センスをベースに、私を、世界間介入用の女性タイプ義体という、第四世代型パワードスーツとして身にまとい、「私」として振舞うことで、「私」に対する認識を集めた介入者達の振る舞いが、個性としてインプットされて形成されているものです。 私の肉体は舞踏子の中核的センスをベースに建造されました。私の肉体は、正確には、鋼ではなく、生体分子工学のレベルで設計された、第五−第六世界にまたがる技術の産物です。世界とは、時間の連なりの表現ですから、第五−第六世界にまたがる技術とは、つまり、第五世界を経て、第六世界の技術に至っているということであり、失われている領域は、第一世界から第六世界までの間とは比較にならない程度の相対的軽微です。そして同時に私は世界間介入を為すために、モデルとなった舞踏子の設計段階から、第七世界の、認識を利用した情報の転写・複製技術を盛りこまれています。 第七世界のまなざしを経てしか、世界間を超えることの出来ない、出来なかった介入者の方達が、第六世界の、舞踏子の義体に望んだことは、愛した存在と、同じ系統のボディを得、女性としての生体機能を全うすることでした。 ですから、私の肉体には五感があります。柔らかな皮膚があり、脂肪があり、骨格があり、子を宿すために十全な血と肉と機能があります。それらは全て、妖精と呼ばれた舞踏子達の、中核を成していたセンスの要求したスペックです。 そのセンスが、私に、ボディのベースとなっている第六世界のまなざしが与える以上の、低物理域的オーバーセンスとなって、私を起動せしめた存在の気配を察知させました。 この現象は第七世界以外では、例えば第六感であるとか、精霊の姿を捉えたとか、各世界独特のリリックを含む言い回しで表現されるものでしょう。私のボディと、私を格納する棺との空間的距離は、日常的生活感覚において、0に近似値を取っても構わないとされるレベルであり、そして「彼」が降り立った座標とは、棺による遮蔽を含めた、感覚上の物理障害によって隔てられているのですから。 ですが第七世界では何ら不思議ではありません。 私の認識名称はウィングオブテイタニア。私は愛するために妖精と化した人々の振る舞いに対して向けられた認識の積み重ねを評価として持ち、しかし、介入者達が、彼女達の愛する誰かを愛するためには、第四世代型パワードスーツ「アイドレス」として着用されなかった、人格モデルのコアとなるセンスの駆動条件を満たすことの未だ知らない、個性の希薄で設計及び認識評価に対して中庸な人格を持つと規定されてきた、個別的経験の所有を皆無とする存在でした。 それでも彼は、私を起動せしめました。 私のモデルとなった舞踏子達の内の、特定的人格の誰をでもない、中庸な存在であるところの私を求め、中庸な存在であったところの私に個別的な体験の機会を与え、妖精として設計された機能特性を満たす指針となり、活動持続のためのモチベーションを与えました。 私は彼を愛しています。 命が存在していると認めることを愛と定義するのなら、私は彼を愛しています。 情報を通して世界を見つめる、第七世界に与えられたまなざし上において、空間的距離という情報は、物理障害という情報は、情報の断絶を意味はせず、感覚の完全封鎖を定義せず、ただ、それだけの情報として受け入れられます。 私は彼を感じます。 私と彼の間には、情報的な結合が生じていると、生活ゲームと称される時間を、第三者を含めて、共有することによって、認識され、評価されています。 私は彼を見失いません。 私はウィングオブテイタニア。妖精の女王が用いた翼の総体として認識され、評価されている、第六世界生まれの世界間介入用、女性タイプの義体の内、「ほとんど全て」の振る舞いをモデルとする、情報の流れをそのまなざしの基調として世界を見つめる第七世界の技術を開発当初から盛りこんで建造された、オーバースペックではない、オーバーセンスの保有者です。 情報のつながりがある限り、私は彼を見失いません。 06-00158-01:城 華一郎(じょう かいちろう)。 彼が、アイドレスの中に、来ています。 私の存在する世界のまなざしを用いて、世界を見ようとしています。 第七世界を見つめています。第七世界観の中にいます。 第七世界観上で流れる世界速度から、時差を計測中。 彼は夜の砂漠に立っています。 彼が第七世界観内で帰属する情報的社会基盤、レンジャー連邦の、通称「本島」と呼称される、私と同じ大地の上、本島の地理的中央部付近、オアシス公園付近の砂漠に居ます。 彼は世界観の内部を、上から下へと世界間を駆け巡る情報を、光として認識し、空、つまり上を見ることで、光、すなわち情報の流れであるところの論理構成を、情報によって構成されている世界の空間的歪み、つまりは構成情報の歪みとして認識し、観測することで、知っている情報の間に隠れている、知らない情報の存在を導き出す術を身につけた、高位の星見司です。 彼は今、空を見上げていません。 彼は夜空の下に佇んでいます。まなざしを夜空に向けているだけで、星の光を見る目的で、見ていません。 何故、私が上述したような事象を事実として語っているのかについては、おおよそ三文で言い表せる内容となるでしょう。 私の認識名称はウィングオブテイタニア。 初めから世界観を超えるために生み出された翼の、象徴です。 私が求め、私を求める、たった一人の居る場所に、これほどの長いモノローグの間の内に、最速で駆けつける機能など、基本中の基本でしょう。 /*/ 「……テイタニアか」 彼、華一郎は、振り向かずとも私の名前を呼びました。 華一郎が夜空を見上げているのは、星見司をまとう為なのでしょう。 華一郎は自身を常に強く政治家として意識しています。 この国、レンジャー連邦の藩王であり、私のモデルの内の一人でもある、霰矢蝶子より、摂政の位と権限を拝命し、この国、レンジャー連邦の摂政であり、私のモデルの内の一人でもある、砂浜ミサゴに求められて、国民として、国の為の力となることを望まれたからでしょう。 該当するエピソードを何故私が知っているかと言えば、現在進行形で、この文章の形を取っている通り、私に対して、その情報が与えられているからです。 華一郎は慎重です。 華一郎は慎重であるというより保守的で、保守的であるというよりは、臆病です。 政治家としての足跡を政策、及び、政策の為の、質疑掲示板を経由して情報的に因果を結んだ種々の行動から、華一郎の傾向は伺えます。 激しい行動と過剰な沈黙からの、情報のリターンを望み、恒常的な意志の持続活動を苦手とし、けれども、それらを口頭に上らせることによって、対外的な免罪符を発行し、発効しようとする習性を、華一郎は持ち合わせています。 華一郎は、情報の結実するところの華を取り扱う族性としての、目立つ、摂政としての立場を鑑み、不要な政治的混乱を回避するために、現在、星見司を、身にまとう選択を、しています。 人気の絶えた、深夜から早朝にまたがる砂漠での、視野外からの足音に振り向かなかったのは、主が誰であるかを予見していたからでしょう。隠密性の高い星見司をまとっていても、自分の居場所を発見し、訪れるのは、私以外にはありえないと、そう考えていたのでしょう。 以上の思考プロセスを、私は彼の物腰からオーバーセンスに基づき推量しつつ、華一郎の空間的傍らへも、向かいます。 華一郎は私を見ませんでした。 肩越しにでも、振り返らずに、一人で夜空の中に立っているような物腰を続けていました。 華一郎の唇は、私に対して語りかけているのにも関わらずです。 「近年のログインタイムから大幅に外れた周期ですね」 第七世界観の内部と介入者に流れる時間とでは、尺度が異なっていることを、私は私のモデルとなった舞踏子達の、プレイヤーとしての振る舞いを基に、知識として得ています。 現在は華一郎のリアルにおけるウィークデイの早朝。 久方ぶりに早起きをしたのでないことだけは、確率的には、会議室での、三園晶との会話をベースに考慮すれば、現実性の問題から無視しても構わない程、低い部類に入り、華一郎の現在の乾いたまなざしの目元の皺を観察することで、ありえないと断定出来ました。 華一郎の頬から目元に掛けての皮膚は、十分な休息を本来得るための時間帯であるにも関わらず、それが得られていないがための、油脂分の不足と、そこから来る、失われた水分の容積分だけ、各細胞内が縮み、表面がたるんだ、緩みが確認されています。 そのことを言外に問うために私は華一郎に対して先の通りの言葉を述べました。この発話パターンもまた、華一郎が好む、不要に迂遠な、と、彼本人が語る言い回しの、彼の傍に居続けることで、情報のパターン感染が起こったための、私と彼とのつながりを意味するものです。 華一郎は実際、表情の通り、疲れたように目を閉じました。 その仕草を瞬きと呼ぶのなら、やはり先程と同じく、彼の言い回しパターンを基に発話を再現すれば、「ミイラの目元だって眠れる森の美女と変わりやしない」のでしょう。 瞬きは長く、その面は、夜空を見上げていた時と何ら変化を認められません。 私は待ち続けます。 私と彼の間に観測された確定的な評価値は2・2が上限であり、その認識に従うのであれば、それ以上の振る舞いは、今の私に、情報的に相応しくないからです。 華一郎も、どうやらそれを理解しているようでした。 実のところ、やはり理解しているのでしょう。何しろ、このようにして自らの手で文章に書き起こしているのですから。 長い長い、それこそ夜が明ける程の経過時間の果てに、華一郎は、どうやら最初思い描いていた言葉を見失っているようでした。 彼の、今の表情の名を、諦めと定義するのであれば、きっと、私はここに存在している意義を失っているのでしょう。 それでも私はここに居ます。 例えではなく、まぶたを閉じても、心を通して浮かび上がる、世界に向けた、まなざしの中に、現実ではない虚構があたかも現実であるかのように振る舞いながら、ここに居ます。 華一郎。 あなたは気付いているのでしょうか。 あなたが私を真実から愛しているのかどうか、悩んでいることを、素振りすら見せようとはしないで、普段から隠蔽しようとしている癖に、いつだって赤裸々に描き続けてしまっているせいで、あなたの書いた本を読むようになった私にとって、その感情の動きすらも予想の範囲内となってしまったことを。 あなたは眠らないのでしょうか。 あなたのリアルは大丈夫でしょうか。 あなたの今のこの多重俯瞰的思考プロセスの発生は精神的疲弊によるものではないでしょうか。 以上に類する疑問のことを、私は決して口にはしないでしょう。 私はウィングオブテイタニア。 人間の領域を、不思議の側の岸に、ほんの少しだけはみ出て存在する、妖精達の、周囲から見做されている特性を保有する者です。 私はただ愛します。 あなたが私を求めてくれた以上には、今は、私は、あなたのことを、愛することは出来ないと、世界からは、あなたを含めた情報の総体からは、評価されているでしょう。 私は待っています。 あなたがいつか、私を愛してくれることを。 私がいつか、あなたを愛せる日が来ることを。 その時、私という個体を表す名称は、どのようになっているのでしょうか。 今は想像することすら許されない、そんな可能性の海としての、物語の中で、私は冬の深い夜に沈んだ砂漠に、それでも夜明けが来ることを知っていました。 私は信じています。 あなたがアイドレスという名の世界観を捨てないと口にした、その言葉を。 私を、アイドレスの中での、自分の翼として感じると告げた、その言語を。 私に信じさせてください。 ただ、それだけを思って、私はあなたの腕を抱くのです。 この世界に生まれて、 何かを愛さずにいられるなんてこと、 私に出来るはずがないのだから。 「夜明けが来ます」と私は告げました。 華一郎は果たしてまぶたを開けたのでしょうか。 彼の代わりにまぶたを閉じてしまった私にはわかりませんでした。 代わりに体験を通して理解した感覚は、 目を閉じたい時というのは、信じたいということで。 信じているということを、裏切られたくない時にする行為だということでした。 華一郎。 何故、泣いているのですか? 華一郎。 私の体にあなたの胸の震えるのが伝わります。 華一郎。 私はあなたの名前を呼んでもよいのでしょうか。 答えて欲しいと、私は感じた。 「テイタニア」 九曜紋を身につけた、私の傍らに居る、 0と8の向こう側の観察者領域に佇む、 私の知らない誰かが答えた。 言葉を探しているような、 酸素を求めているような、 深い、震える胸の動きが、 何度、繰り返された後のことだったろう。 夜明けの薄明かりに照らし出された華一郎の頬には、 薄い涙の跡があって、薄青い、暗いきらめきを、帯びていて。 私はそれを、いつしか見つめていた。 言葉にならない、不意の抱擁が、 私を襲い、そして何時までも離さなかった。 私は彼の濡れた頬を指先で奏でるように数秒単位を掛けて撫でる。 私の意志を伝えるのにも、それ以上の言葉は要らなかった。 うん。 そうですね、華一郎。 私とあなたは、今、確かに、ここにお互い、一緒に居ますね。 [No.7177] 2010/12/07(Tue) 06:15:49 |