![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
7を、孤独の7つの集まりだと呼んだのは、いつの時代のことだろうか。 「おい! 1人多くないか?」 音。 絶え間なく耳元で唸り続ける獣の咆哮に、負けぬ位の声を張り上げて、振り返った白づくめの先頭が告げる。 獣の名を、風と言った。 アスファルトの戦場。 細く、しなやかな馬たちを駆る7人の騎兵は、馬上で互いに覇を競い合っていた。 それは自然の生み出した優美な肉量の流線にも負けぬ、人の手が育み育てた、人の足で走る現代の馬である。 ロードレーサー。 アマチュアの入門モデルでも僅か7キロ、プロモデルでは、さらに5キロ前後にまで、その金属の馬体は絞られる。かつての馬たちと比べ、凡そ100分の1以下という、恐るべき軽量化が施されている。食らう疾走源はただ一つ、人間の体力という名の情熱だ。 今、騎兵たちは筋肉のこぶを背中に作り、ジョッキーさながらに腹を折り曲げ、前屈し、握りしめたハンドルの、先の先まで顔面を乗り出して体重を前に掛けている。 頭には兜。 落馬では、自らや後続の馬に踏まれて命を危うくすることも多いが、この、婦女子でも片手で持ち上がるほど軽い、最新鋭の馬では、それ以上に、大地という巨人からの、天地を逆さにした踏みつけを、一番恐れている。 ことにロードレーサー乗りたちには、巨人の足裏に対し、最も不安な部位である頭部を晒しているために、専用のヘルメットで身を守ることが、半ば義務づけられている。 今、馬たちの輪状の足が、最新鋭のゴムの蹄鉄で、いかにもか細く地面を掴み、蹴立てて主と共に己が身を突き進ませている。 7つの音が折り重なる。 7つの異なるリズムが織り重なる。 金属の手綱を前後に食んで、二つの足で操る旋回の摩擦が、まるで、この金属製の馬たちの、呼吸の音であるかのように、響きわたっている。 肩と肩が触れ合うほどに密集した7人の騎兵たち。 風という名の獣の腹を、一塊の槍と化して貫くための、それは現代の馬上の槍術であった。 見ている間にも、先頭が次々と入れ替わる。 この獣は、前に進もうとする限り再現なく蘇る、気まぐれで不死身の怪物だ。 挑むにも、合戦の作法が必要なのである。 焔のように赤い鎧の騎兵が先頭に立つ。 この時代の鎧は極めて装甲が薄い。天に、地に、そこいらじゅうに潜む怪物たちの牙の攻撃を、受け流すために特化されているためである。 「入賞は、6人までだし。どのみち、じき、激坂だよ。振り落とされる奴が出るはず」 眼前で、大地の巨人は、その四肢を、見る間に細く、尖らせていく。 山岳という怪物の出現である。 この怪物、風とは異なり、数に限りはあるものの、屈強なこと、この上ない。 頑健な皮膚を貫き通すのに必要な膂力を持ち得る者だけが、挑むことを許される。 先刻と打って変わって、馬のいななきが息苦しい。 その上に乗る騎兵たちの顔も、ことごとくが歪んでいる。 風は顎を緩めたが、誰も脱落する者はいない。 「ああ嫌だ嫌だ最前線。食えないねえ、食えないよ。食えないコースはないって奴らが、一番食えないんだ、ほんと」 黄色の鎧の騎兵が肩をすくめる。 地獄の椅子取りゲームは、どうやらまだまだ終わりを告げないらしい。 「入賞と言わず、いつだって生き残るのは、たった一人――違うか?」 黒い鎧の騎兵が犬歯をむき出し、笑った。 全員つられてそれぞれに、煮えたぎった笑みを浮かべて呼応する。 違いない。 最早誰も身を寄せ合ってはいない。 肩と肩とをぶつけ合うほど、くつわを並べ、しかし、時に追いすがり、引きちぎり、そうしてすれ違う中での、対話である。 聞こえている声もある。聞こえない声もある。 どれも、風がその背に乗せ、耳元まで、運んでくるのだ。 このメッセンジャー、自身の唸り声がうるさすぎて、すこぶる向いていない。 それでも、お互いの意志だけは、感じられる。 確かに、そこに存在していることを、疑いなく信じられる。 「ッたく、お前らの顔なんて見たくもないッつーのによォ!」 緑の鎧の騎兵が忌々しそうにしながら先頭に飛び出る。 馬体が左右にふらふらと揺れ踊り、景観はじりじりとだが移ろいを重ねていく。 「山岳…賞!!」 橙の鎧の騎兵が、すんでで制した。 その横を一陣の青い閃きが滑り落ちる。 「――――後はただ、最速で、一直線に」 青い鎧の騎兵が鋭い槍の切っ先で挑む。 獣を貫き、疲労の鎖を引きちぎり、恐怖の雲を切り裂いて、その切っ先は、ただ一塊の小さな小さな刃となる。 連なる7つの疾走が、余韻をたなびかせて走り抜けた。 息。 ぜいぜいと激しく、しかし、生きづいて。 意気。 どこまでも終わりなく、伸びていく。 7つの騎兵は今日も行く。 命のペダルを踏みしめて、抜きつ、抜かれつ、 輝きて。 終わりなき、7つの競い手たちは、 明日もまた時間の競技を、魂の限りに貫くだろう。 [No.7493] 2011/07/07(Thu) 22:03:32 |