*Book review

■ 行成薫
「名も無き世界のエンドロール(集英社)」 評価:★★★★★
Date:2013.06.08
親がいない生い立ち。どこか空虚で欠けているキダ、ナオト、ヨッチ。中学で出会ってからいつも一緒だった。ナオトはマジックを交えたいたずらが大好きでそのころから自分をドッキリストと言っていた。
キダもナオトもヨッチが好きだった。ヨッチは2人とも大好きで、だから先に告白してきた方とつきあうって決めてて、ナオトがタッチの差で先だったというわけだ。

さて、大人になった。自動車整備工場で働くナオトとキダの前に現れた金持ちのわがまま娘、リサ。犬を轢きCENSOREDしまった車を内緒で修理してと金を積んでやってきた。ナオトはキダに告げる。

「あのオンナをものにする。世界は一日で変わるものだ、世界を変えてやるぞ」

そう、ドッキリストとしてナオトはそのために長い年月をかけて金をかき集め、貯めて、企業家になり、成功してみせるのだ。
キダは殺し屋?いやいや、そのガタイのよさを活かして交渉人、といえば聞こえはいいが、ちょっとやばい世界の・・・まぁ脅すに近い交渉屋。
ナオトの「プロポーズ大作戦」とやらに加担することになり、リサに近づく男はことごとく裏から手をまわし撃退する。
そして、リサは本当にナオトの恋人に。

最高のシチュエーションでプロポーズ大作戦を敢行する。

ずっと読者はドッキリストのナオトがリサという金持ちの女をものにする過程だろうと読んでいる。
ヨッチは出てこないけど、頭の良い女子だったし、きっとそれなりに彼らと離れた別の人生を歩んでるのかな、とも。

ところが本当に。驚きの展開、真相、まさに本当の意味でのドッキリ。そして、プロポーズ大作戦の言葉の真の意味・・・・。
わかったとき、驚きの悲しみと切なさが。

明るく軽快に読み進めてきたがゆえに、その衝撃は大きく、そして再び前の方からページを読み直すと、ああ、と伏線とも取れるような、本当の意味が次々と判明して、・・・胸がじんと痛む。

うん、ヨッチ、あなたはナオトのおかげで永遠に残ることになったと思うよ。そしてナオトと共に。どうか指輪をあちらの世界でもらって、幸せになって。ラストでキダもそちらに行くような気配を感じさせるんだけど・・・もし本当に悲しいことにそうなったら・・・今度は三人絶対離れないでね・・・なんてね、願わずにいられない。

油断して読むとやられちゃう。そんなすごい一冊でした。

no.706
 

■ 川村元気
「世界から猫が消えたなら(マガジンハウス)」 評価:★★★★★
Date:2013.05.18
本屋大賞ノミネート作品、というのについ惹かれて借りたのだが・・・。

複雑さの無い哲学めいたファンタジー、なのである、が。
ある意味ベタな感じがしないでもない展開なのだ、が。
ライトでコミカルな悪魔のアロハには笑ってしまった、が。
不覚にも泣いてしまったのは何故だろう。
しかも、本の帯にある通り、183ページの8行目、からの言葉で、言われた通りに泣けてしまったのだから、ちょっと悔しい(笑)。

主人公の30歳の郵便配達人の男。脳腫瘍末期で余命わずかと医師から宣告される。その夜現れた自分と同じ姿をした男。彼は悪魔だという。そして余命を一日延ばす引き換えに、世の中のモノを何かひとつ消し
るという契約を持ちかけるのだった。

悪魔はまず携帯を、次に映画を、そして時計を消すという。主人公はそれを受け入れた。
携帯。思えば今の人はいつでも携帯をいじっていて、無かったら手持ち無沙汰ではないだろうか。無いなら無いなりに、もっと周りをよく見たり静かに独りで考えたりする時間が増えるように思うな・・・。主人公は最後の電話を昔別れた恋人に決めて何十年?ぶりに再会するのだった。
映画。これは無かったらつらいな。でも主人公は最後にライムライトを見たら消そうと決意する。昔別れた恋人も映画が大好きだったよな、彼女と見ようと主人公は思う。
時計。時間って概念は人間が決めただけに過ぎない。時間に縛られ支配されている人間、時間という概念を奪われたら・・・今休職してる主人公には却って穏やかな気持ちになり、のんびりリラックスできるようにさえ感じる。
でも・・・。悪魔が次に持ちかけた、猫を消す、という提案。
主人公は悩む。
亡き母が可愛がっていたレタスという猫、その猫の死んだあとに来たキャベツという猫。こいつがいなくなってしまう?母が溺愛した猫。いつでも家族と一緒にいたキャベツ。
彼は決意する。

そして、悪魔は退散していく。キャベツは残った。つまり猫は消せなかった。主人公は自分が死ぬことを受け入れることにした。
ただひとつ・・・母が望んだ、父との和解。それだけは、し残してはならないと、これも決意する。母が元カノに託した手紙を見てから。
そして父に遺書のような手紙を書いて、配達人の制服を来て父の住む町へ向かうのだ・・・・。

母の残した手紙で泣いてしまったのだった(笑)。
そして、悪魔のいたずらで人間の言葉を一時的に話したキャベツが言った言葉にも泣けてしまったのだ。

当たり前だと普段思って過ごしていること。全然当たり前じゃないのかもしれない。そして・・・。ほんとに大切なものってやつのことや、愛するって気持ちのことなどを、しみじみと考えさせられてしまった。
・・・うん、これは哲学書だ。
とびっきり感動的な。

さらっと読めてしまうし、これはオススメである。

「携帯はその登場からたったの20年で人間を支配してしまった。なくても良かったものが、たった20年でなくてはならないものかのように人間を支配してしまっている。人は携帯を発明することにより、携帯を持たない不安も同時に発明してしまった」

「恋には必ず終わりがくる。必ず終わるものと分かっていて、それでも人は恋をする。それは生きることも同じなのかもしれない。必ず終わりがくる、そうと分かっていても人は生きる。恋がそうであるように、終わりがあるからこそ生きることが輝いてみえるのだろう」

「目の前のことに追われれば追われるほど本当に大切なことをする時間は失われてゆく。そして恐ろしいことにその大切な時間が失われてしまっていることにまったく気づかないのだ。そして目の前に迫ってくる無数の本質的ではない物事に追われ続けた結果、人生の最期にこんなはずじゃなかったと嘆くのだ」

「母さんの言う通りだ。猫が人間を必要としているのではない。人間が猫を必要としているのだ」

「母さん、死にたくないよ。死ぬのは怖いよ。でも母さんの言う通りだ。何かを奪って生きていくのはもっとつらいよ」

no.705
 

■ 初野晴
「空想オルガン(角川書店)」 評価:★★★★★
Date:2013.05.10
チカとハルタは幼なじみ同志の高校生。共に弱小吹奏楽部に所属し、顧問の草壁先生に恋してる(注:ハルタは男子です、念のため)。
チカは健康的なはつらつとした少女、ハルタは複雑な事情を抱え一人暮らししてる頭の良い美少年。
草壁先生は元有名な将来を渇望されていた天才音楽家だったのだが、ある日突然行方をくらまし、挙句高校の音楽教師に素性を隠してなった経歴の人だ。
弱小吹奏楽部が東海地区の大会出場レベルまで来れたのは、ひとえに草壁先生の指導と、ハルタとチカ(ハルチカコンビ)の先生の復帰を願う愛の力と努力、そして、他の部員の実力とチームワークによる。

その大会の会場で起こる小さなミステリーのドラマ。部員たちの抱える秘密や、草壁先生の秘密を追う自称フリーライターの渡辺という男、などなどに絡めて5つの章が載っている。そして最後まで読めばすべてが組み合わさると言った感じ。
特に最後の「空想オルガン」の章は、ちょっと泣きそうになったし、意外な真相が明かされて油断してたので思わぬ驚きにのけぞらされたり、とにかく面白かった。

ハルタとチカの腐れ縁コンビなやり取りが実に軽妙で心地よい。会話のかけあいがすごくいい。どうもハルタは女性が嫌いなようなので、ロマンスには絶対ならないのだが、まぁそのハルタの女嫌いの原因もハルタの家族事情と大いに関係あるのが判明するわけだが(笑)。
ハルタの姉は3人いるが、「ヴァナキュラー・モダニズム」に出てくる南風(これでみなみ、と読む)というハルタの姉のかっこいいこと。ほんと惚れてしまいそう(笑)。でも同時に、ああ、これでハルタは女がいやんなっちゃったんだな、と分かる気も。

オルガン、てね、臓器って意味があるんだね。知らなかった。単なる吹奏楽を巡る高校生たちの青春ものって思って読んでたから、(それはそれで結構面白かったわけで)最後に泣かされると思わなかった。実は重く深いテーマを持っているなんて。

「大人になることは、必ずしも年齢や経験によるものではないんだ。当たり前のように受け取ってきた無償の愛を、次の誰かに捧げることができるかどうか。」

no.704
 

■ 米澤穂信
「リカーシブル(新潮社)」 評価:☆☆☆☆★
Date:2013.04.29
リカーシブルとは、形容詞リカーシブから取った言葉リカーシブの意味は再帰的な。自分自身に戻ってくるような。プログラミング言語に於いては処理中に自らを呼び出すような処理を言う。

タイトルとストーリーが最後まで私の中ではカチッとはこなかったのだけど、まぁだいだいそうかな、と思うような(笑)。

主人公のハルカは再婚した父が会社のお金を横領したらしき後に姿をくらましてしまったので、継母とその連れ子のサトルと暮らしている。そして生活に困った母がかつて母が暮らしていたという過疎化の町に越してきたのだ。
するとサトルが突然妙な予知能力を発揮し始め起こる事件など予言したりするようになる。ハルカはこの町に伝わるタマナヒメなる転生を繰り返すという伝説の女の話を聞き、徐々におかしな出来事に巻き込まれていくようになる・・・・。この町は何かある。何か変。何か不気味・・・・。

序盤は不幸な少年少女、主にハルカ目線で書かれてるから、不幸な少女かな?が、継母に気を使い、新しく慣れない生活にも気を張って、線の細い臆病な弟にいらいらしながら面倒を見る、そんな日常が書かれているのだが・・・。高速道路誘致運動と反対派が対立しているらしいという話や、その昔その道路誘致のためのデータを外部の学者に依頼したのだがそのデータが学者の事故死の際に紛失され、その学者の名前を取って水野報告と呼ばれ、まるで徳川埋蔵金のように、もし探し当てた者がいたら懸賞金が法外な金額でもらえる噂がある、なんてことも徐々に耳にするハルカだった。
クラスのリンカという活発な少女と仲良しになってきて、一見順調な滑り出しだったように思えたのだが・・・。

ヨソ者の教師、三浦がタマナヒメのことをハルカに色々教えてくれる。タマナヒメはこの町のために身を捧げて守ってはCENSOREDし、その記憶を持ったまま転生して、再びタマナヒメとなって同じことを繰り返すのだと。
そのことをリンカに話すとリンカは一蹴する。タマナヒメは祭りの際のお飾りに過ぎないのだと。そして今のタマナヒメだというユウコという女性に会わせてくれる。ごく普通の少女。ね?とリンカは笑い、ハルカもうなづいた。

のだったが。

その後、三浦が交通事故にあう。お見舞いに行くと三浦は声をひそめて実は殺されかけたのだと打ち明ける。これは事故ではない。殺人未遂なんだと。タマナヒメのことを知られたくない町民たちが命を狙うのだと。ハルカも気をつけろと。

そしてその数日後、サトルは行方不明になった。なのにあわてる気配もない母。ハルカは・・・・一世一代の行動に出る!!!

ここら辺から超クライマックス。ハルカが実はめっちゃ頭のよい少女だったのだと思い知る。
そして今までのあらゆることの伏線がすべて当てはまり驚く。

ハルカはもっと前に気づいてたみたいだよね、すごいな。何にって?サトルの予知能力の謎や、リンカの演技、ユウコじゃないタマナヒメの本当の正体、町ぐるみの罪・・・そして、水野報告の隠し場所もね。そしてサトル奪回のための切り札を切るのだ。かっこいい。

すべて解決したって感じではない。
だってサトルもハルカも親に見捨てられた悲しい子供だってのは変わらないし、ついに離婚が決まり、中学卒業したら追い出されることを母から宣告されたハルカの絶望は同じままだし、町民に息子を売った母との生活はまだしばらく続くわけだし、そう、サトルも本当の愛には包まれてなかったのがわかってしまったのだし。

それでもきっとこの二人は・・・血は繋がってなくても一生助け合って、強く生きてくことになるだろうなと。
そこだけは確信した。

そこだけはなんて清らかなんだと。
この尻切れトンボ感がまた良さなのかもしれない、と思ったりもした。

何故か印象に残る小説だった。

no.703
 

■ 葉真中顕
「ロスト・ケア(光文社)」 評価:★★★★★
Date:2013.04.18
この物語は一応ミステリー形式である。殺人事件、意外な犯人、そして裁かれる・・・という流れで、犯人の意外性には読者騙し的な趣向もあって、そう、そういう意味ではミステリーなのだ。
ただし、ミステリーとしてはあまり高レベルじゃない、とでも言おうか。犯人の白髪に関しての描写や設定など、多少ご都合主義的な感じもするし、秀逸というわけじゃない。けど。

この作品のすごいところは、そのテーマにあると思う。
命の尊厳、人間の善と悪。高齢化社会の現実の問題を、真正面から斬りつけた設定には、思わず目をそむけたくなるほどのリアルさがある。でもそむけちゃいけない。だって本当にある問題なのだから・・・。他人事じゃない問題なのだから・・・。

大友は検事である。父をフォレストという高級老人ホームに入居させることにした。佐久間という高校時代の同級生が勤めているいる有名な大手で、佐久間の奨めもあって決意した。
しかし、介護の法律改正などで介護業界も赤字で、フォレストも経営上の違法などが発覚し、経営破たんしてしまう。佐久間と連絡が取れなくなった。佐久間は大友のかざす正義と倫理観が実は大嫌いだったのだが、大友は一人よがりに友情を感じている。佐久間は裏社会の男と老人相手の詐欺を働くようになるが、調子に乗りすぎて殺されてしまった。

その頃、フォレストでの要介護の老人たちの突然死が相次ぎ、調べていくうち、実は自然死でなく事件(つまり殺人)であることが浮かび上がってくる。
犯人は?

犯人は意外な人物。しかも、犯人は罪悪感を感じるどころか、これは正しい行為だったと言い張るのだ。死刑は覚悟しているが、これは間違いではない行為だったと。自分もかつて父の介護で潰れそうだったことから、介護している家族の疲弊、磨耗、そして介護されている老人の人間的尊厳、それらを解放して救った行為に他ならないと。そして・・・それに反発する大友に、殺された老人たちの遺族は・・・犯人を恨むというより、ホッと安堵している気持ちを告白し、大友を愕然とさせる・・・。

そう、みんなつぶされそうだった。痴呆が始まり、人格が変わったように暴れる母の介護で、疲れ果ててまだ幼い息子に手をあげてしまう洋子も。母が死んでくれて、ようやく再婚も叶うこととなり、幸せを感じるようになったのだと。

なんて重いテーマだろう。そして、誰もがもしかしたらそうならないとは限らない恐ろしいテーマだろう。
大事で愛おしい親なのに、死んでくれた方がましだと思わないでいられるだろうか・・・。そうなったときに。

犯人は言う。
「そうです、CENSOREDことで彼らと彼らの家族を救いました。僕がやったことは介護です。喪失の介護、ロスト・ケアです。」

「たとえ歳老いて身体機能が衰え自立できなくなっても、たとえ認知症で自我が引き裂かれても、人間は人間なのだと。人間ならば守られるべき尊厳がある。生きながらえるだけで尊厳が損なわれる状態に陥ってるなら死を与えるべきだと」

「生きていてこそ?善性?なんて素晴らしい模範解答だ。検事さん、そんなことが言えるあなたはやっぱり安全地帯にいるんですよ。豪華客船の上から、寄る辺無く溺れる者に命だ善だと説教してるんですよ。」

「この世には罪悪感に蓋をしてでも人をCENSOREDべき時がある」

no.702
 

■ 湊かなえ
「望郷(文芸春秋)」 評価:★★★★★
Date:2013.04.09
白綱島という過疎化が激しい田舎の島・・・。橋を渡ると街に行けるので若者はみんなそちらか、あるいはもっと遠くの東京などの都会に出てしまう。でも事情があったりしてそこに残る者ももちろんいる。そんな田舎の島・・・。
そこに残り生きている、あるいは生きてきた人々の人生が書かれている。

短編だ。でも舞台は同じ。そして登場人物の抱える苦しみや軋轢、も、それぞれ違うのだけどどこか似ている。閉ざされている感じ。閉塞感と諦念と疲弊。
だからどの物語もちょっと息苦しく、悲しい。
そして、ここが湊かなえさんぽいのだが、そこにミステリー要素がすべて絡められている。それらがみんな過去、なのだけど。ちらっと、さらっと、ずぶっと、絡められている。

「みかんの花」も、主人公の女はもう中年。父が亡くなってから母が女手ひとつで姉と自分を、みかん畑と共に見てきたのだから当然貧乏だったし、姉などはいじめにもあっていたらしい。そして姉は突然男と駆け落ちして出て行った。消息を絶った。やがて姉は東京で作家として大成功し、島の式典に突然戻ってきた。主人公はどこか許せなく思っている。姉の身勝手さを。自分だって本当は出たかった、島を。できないまま歳をとり、姉は大成功して意気揚々と何事もなかったかのように少し認知の始まった母とも再会している。
ところが。何かひっかかりを覚える。そして・・・最後、姉の口から聞いた、駆け落ちの本当の真相。どうして式典にかこつけていまさら島にやってきたのか。ちょっと驚いた。こんなオチをもってくるとは。そして姉がただのわがまま奔放じゃないそれなりに苦しい人生だったのを知り、私も愕然とした。

「海の星」は、少年時代に突然父が蒸発した過去のある男が、かつてのクラスメイトに何十年ぶりかにハガキをもらい、そこに父のことが書かれていたので、自分の息子と共にふるさとの白綱島を訪れるところから始まる。父が突然失踪し、母は周りが父はもう生きてはいまいとあきらめてもずっとずっと島中を夜、歩き回って探してた。生きてると、いつか帰ってくると言い張って。あるとき、オッサンと出会う。オッサンは母に気がある、と思った主人公は、せっかく懐いたオッサンだったが、許せないと思った。母に父はもう死んでるのだと言って泣かせたオッサン。でも・・・クラスメイトの父親だったオッサンの、本当の秘密を、そのクラスメイトから何十年ぶりに聞いて・・・涙を流す。オッサンは母に気があったわけではなく・・・もっと重くつらい秘密を抱えていたのだった。オッサンと主人公が、もう一度友情?をあたためなおしてくれると思わせる、少しほっとするオチだった。

「夢の国」は作中ではドリームランド、と語られているけど、明らかにあれだ、東京ディズニーランドのことを言ってるだろうなって思った(笑)。そう、夢の国。主人公だって少女時代行きたかった。夢見てた。なのに祖母が。封建的でかたくなで、母や跡取りの男の子で無い孫の主人公に最後までつらく当たった祖母が。いつも邪魔をして行けなかった。でも・・・。今の夫と娘を連れてようやく叶ったドリームランド。祖母が死んだとき涙は出なかった・・・いや、なにより、思い出すのは祖母の死んだとき・・・。ほんとは見てた。知ってた。その罪と共にドリームランドでアトラクションに並ぶ主人公。

「雲の糸」これは泣いた。父の暴力に耐え切れず刺CENSOREDしまった母。服役を全うして出てきた母とその子供たちに島の人たちは冷たかった。壮絶にいじめられて、主人公の少年は島を出た。そして歌手としてスカウトされデビュー。なんと売れて売れてスターとなった。過去を捨てて高みに昇る・・・それをばねにここまで来た。もちろんそれなりに苦労もしてだ。それなのに島で一番いじめをしてきた男が親友面して島に呼ぶ。母の名前を出され、仕方なく島へ・・・そして屈辱のパーティでの出来事・・・。彼は崖から・・・落ちた?自分で飛び降りた?重症・・・。悲惨だと思った。悲壮だと。でも最後はなんだかただ泣けた。母が父を刺した真相を姉から聞いたのだ。私は泣いてしまったよ。そして姉の言葉は思いの他、私の心を打った。
「人の成功を妬んで石を投げてくる人なんてどこにでもいる。母さんが殺人犯であってもなくても同じ事をしていたはずよ。でもねそんな人の投げる石なんてかすりもしないくらい、あんたは自分が思う以上に高いところまで行けてるの。それでも不安ならもっともっと昇ればいい。昇れば昇るほど石を投げてくる人が増えるだろうけど、投げ上げた石はあんたには当たらない。投げた本人に返ってくる。ほうっておけばいいんだって」

「石の十字架」も、都会で鬱病を悪化させてCENSOREDした父、そのため働かねばならず、娘の面倒が見れなくて白綱島の祖母に育てられた少女。親友ができたけど、それは家族のことで心に傷を負ったのが同じだったから・・・。その後島を離れ、やがて結婚し、自分も子供を授かったのに、娘が不登校になり、悩んだ挙句単身赴任という形を取ってまで娘と白綱島に住むことに・・・。そこで台風にあい、遭難していたとき、助けてくれたのは・・・かつての親友と・・・十字架だったかもしれない。

「光の航路」かつて教師だった父のあとを追うように自分も教師になった主人公の男。そしてふるさとの白綱島に希望を出して赴任した・・・のに、モンスターペアレントや問題児に悩まされている・・・。今の時代、妥協するしかないのか・・・いじめを何となくなきがごとく丸くおさめ、それでいいのか?いじめの被害者を見捨てることにならないか・・・。その煩悶を吹き飛ばしたのはかつて父の教え子だった老人。彼は・・・父がいかにしていじめと絶望から自分を救ったかを語る・・・。主人公の死んでいた心に、暖かい(いや、熱い)火がともる瞬間、私も熱くなった。

どれもこれも・・・胸に残る。私のふるさとはこんな田舎ではないのだけど、やはり過疎化っぽい空気があって、少し切なさが漂う。ふるさと、だから、忘れがたく大切にも思うし、ふるさと、なのに、どこか疎ましく憎く、きらいな気もする。

でも・・・。すべてそれでも。大切なものだった。思い出。つらくても。
そういった甘かったりすっぱかったりするものを思い出す一冊だった。

no.701
 

■ 光本正記
「紅葉街駅前自殺センター(新潮社)」 評価:★★★★★
Date:2013.04.06
世の中すべての人ではもちろんないだろうけど、多くの人があまりに苦しく思い悩んだりしたとき、ふとCENSOREDということが頭を掠めたりするんじゃないかな・・・。
命の重さとかそのことの罪深さとか、もちろん無論わかってる、わかってるのだけど、ふと・・・。

紅葉街駅前にそれは在る。CENSOREDしたい者が訪れる公的機関。国がそのCENSORED願望者の意志を面談の末に認定したら、遺産などのすべての後始末も失敗のない速やかかつ穏やかな死をも提供してくれる。
面接は五回。もちろんできるだけCENSOREDをとめるのが本来の役割なので、つまり思いとどまるチャンスが五回あるということ。認定が降りてしまったら、やはりやめたいと思っても、もう自死の道から戻れない。

主人公の土井、コピーライターの30代の男。まだ1歳だった息子を通り魔に刺殺され、その後、妻ともぎくしゃくして離婚、通り魔犯人が死刑施行されたとき、もう自分の見届けるべきものはないと思うに至り、生きてる意義を失う。そしてCENSOREDセンターへ。
一日も早く死にたくて、再三のセンターの面接官の説得にも耳を貸さず四回目の面接を終える。次にセンターを訪れたらCENSORED執行されもう二度と戻れない。
面接官も実は娘を殺された過去があると言い、決意が固いのなら・・・会いたい人にあっておけ、やってみたかったことをやっておけと言われ、自分の押さえ込んでいた過去とあらためて向き合うことになる。
母は幼い頃出ていき、今は再婚して里子をとり、幸せだという。父はパチンコ狂いでいまだに金をせびる。愛してくれたことはなかった。育ての親同然の大好きだった兄はCENSOREDしてしまった。やっと巡り会った悠里と結婚し、佑樹という息子を得たのに突然その幸せが奪われてしまったのだ。
悠里は息子を守りきれず自分が生き残ってしまった罪悪感、土井は実は妻と息子が襲われていたとき浮気相手とホテルにいたことによる罪悪感から、お互い徐々に壊れてしまった。
街では切り裂き連続殺人鬼の事件が勃発しており報道されているが、土井は近所の話だというのにぼんやり報道を見てるだけ・・・。

いよいよCENSOREDセンターで認定が降りて死ぬことになった時に(もう戻れなくなったときに)土井は悠里もまたCENSOREDセンターで死ぬ決意をしてることを知る。自分と同様、死ぬのを待ってる状態だと。

突如土井に湧き起こる感情。生きたい。悠里と話しあってもう一度やり直したい。悠里を死なせたくない。しかしセンターの薬剤投与担当の職員は薄ら笑いを浮かべその気持ちを却下するのだ。
せっかく・・・佑樹が死んで初めて生きる意志をはっきり感じたのに・・・。土井はそのまま目覚めぬ眠りにつく・・・・。

読者は(私は)土井に死なないで欲しくて悶えてしまう・・のだが、そこで奇蹟が!!

死んだ土井の意識は、兄の魂と対峙するのだ。そこで驚くべき真相を知る土井・・・。

最後に薬剤を投与したセンタースタッフ。彼が兄の父だったという。土井と兄は異父兄弟だった。そして・・・その兄の実の父こそが、今世間を騒がす連続殺人鬼だと。
兄も実はCENSOREDではなく、その男に殺されたのだと・・・。
佑樹が死んで、土井の魂は死んだも同然だった。そのため、死者である兄たちの、本来なら存在しえない世界に繋がってしまったのだということ。

扉をあけて、今からはじまるんだ、行けと兄は言った。そして悠里と二人で手を添えてその扉を開けた・・・・。

そう、奇蹟。死んだはずの土井は息を吹き返した。そして・・・代わりに犯人の男が死んだ。
土井は新しい日々をはじめるため、センター内のとこかにいるはずの悠里を救うべくその部屋を出てゆく・・・・。

どこで終わる。

でもきっと間に合う。悠里はまだ死んでなくて、きっと救われる。そう信じる。

絶望から這い上がってく姿が泣けるけど、ほんとにほんとに、生きることの大事さを、その尊さを感じる物語だ。

土井の悲しみなんて(そして悠里も)私ごときじゃわからないくらい深かったろう。だって1歳のかわいい息子を殺されたんだから。
でもそこから這い上がることができる強さがあるのも人間なんだ。
土井、悠里、どうか幸せに・・・。

ほんとそう願って本を閉じた。
じわっと泣ける。想像よりよかった・・・。いい本だった。

no.700
 

■ 伊坂幸太郎
「残り全部バケーション(集英社)」 評価:★★★★★
Date:2013.04.01
私のイメージ的には何だかとても伊坂さんらしさがよい意味で全面に出た感じの一冊だった。つまり、とっても面白い!(笑)
以前の作品の登場人物もほのかに感じられる(それもリンクっていうのかな?)作りもファン喜ばせ、その辺りも伊坂風味炸裂!

ベースは溝口という、悪いこと(主に犯罪にひっかかるものばかり)を引き受ける便利屋みたいな稼業をしている男なんだが、一応短編風に組み立てられている。
初めの章では、ある家族が離婚するになるのだが、溝口岡田と出会うことにより、何となく絆を取り戻す??みたいな(笑)でもこの章で溝口が自分のミスを岡田のせいにしたため、岡田が組織から命を狙われ追われるという・・・。きっと岡田は殺されちゃうな、という感じで締め。

次の章は時間が少しさかのぼり、溝口岡田コンビが健在の頃。ある虐待少年を父親から救うべく、正義感な若者岡田が行動を起こす。まぁ溝口は見て見ぬふりしながら何となく協力者の立場、かな(笑)。この方法が実に現実離れしてるようなファンタジーめいているような、荒唐無稽で破天荒なんだけど、ちょっといい。意表をついててなかなかいい。結構手の込んだ詐欺方法。溝口も岡田も実はとっても頭がいいのだ。

次、岡田を失った溝口が、役立たずの太田とコンビを組まされ、当たり屋を失敗して逆にほんとに事故にあう、ってなとこから始まる。実は当たり屋に狙った車には銃が山積みで、その頃組織のボスの毒島狙撃事件の犯人との関連が疑われたため目撃者の溝口が毒島に呼ばれるのだが。溝口はうっかり犯人を写したデジカメのメモリーを捨てちゃったという・・・。まぁ犯人はすったもんだの挙句全く別の存在だったことがわかるんだけど、このデジカメ紛失のくだりがねぇ・・・実はのちの伏線なんだよねぇ・・・。

次は岡田の少年時代。少年時代から頭がいいのに一匹狼、岡田のすることは反社会的に見られてたけど、実はその行動には正義の理由があるってこと。担任の先生のストーカーをやっつけちゃったのは岡田少年だった。他のミステリーとも絡んでた。クラスメートの男の子のお父さんはスパイじゃなくて・・・実は・・・みたいなね。

次はラストの章。さあ伊坂マジック。ここいらで色々すべてのパズルのピースが合います!
溝口は自分のせいで岡田を失ったのにあんないいやつはいなかったと未練たらたら。きっと殺されてないとかたくなに信じて一生懸命捜してる。もちろん見つからないけど。で、どうもね、岡田は生きてるみたいなんだよ?そしてね、実はね・・・ネタバレになるから読む人は覚悟の上でね。先ほど捨てちゃったデジカメね、あのとき写した若者ってのがね・・・どうも岡田っぽいんだよね、はっきり書かれてないけどたぶん。だから毒島にばれたりしないようにその写真を溝口は速やかに消去したんだね。まったくねぇ(笑)。この章のラストはね、いよいよ溝口が命が危ないんだよね、毒島を裏切ったのがばれちゃったわけだから。そんで、その命運をわけるメールが届いたかどうかってとこでいきなし終わっちゃうのだ、いったいどうなった?!ってとこで。でもきっと大丈夫だよ、岡田だって生きてるみたいだから、溝口なら。そう思ってやまないラスト。

岡田も溝口もすこぶる魅力的。おそらく最後の章でコンビになった(役立たずの太田はすぐ首になったので(笑))男は、その前の章でのクラスメイトの少年じゃないかなぁ・・・。わからないけどね。

面白かった。あ〜またすぐ読みたくなるよ、伊坂さんの本は。また新作、出ないかな。

「それなら何か、自分探しの旅にでも行くのかよ」
「自分探し?探さないですよ、俺、ここにいますから」
「おまえの言う通りだ。自分なんて探すもんじゃねえよ」

「人を騙すには、真実とか事実じゃなくて、真実っぽさなんですよ」岡田はうなづく。人を陥れる仕事をいくつもこなしてきた経験からくる確信だった。

「とんでもない、とか謝るときに『とんでも八分、歩いて十分』って言っただろ?」
「言わないですよ」
「流行ったんだっての。韻を踏んでるわけよ」
「韻を踏むというよりも無理矢理くっつけた言葉でしかない。でもあまり変わらないですね、だって飛んでも八分で歩いて十分だとしたら、二分しか違わないですよ。近場ってことですかね」
「別にそんな深い意味はねえよ。八分も十分も」

no.699
 

■ 真藤順丈
「墓頭〜BOZU(角川書店)」 評価:★★★★★
Date:2013.03.22
彼は生まれながらに墓だった・・・。

この一文で始まる。これは墓頭、と書いてボズと呼ばれた男の一代記・・・とでも言おうか。
事の発端は物書きでスランプの主人公が、失踪した父親を捜しているうち、父の父がボズと呼ばれ数奇な人生を送った存在だったと知ったことから・・・。
自分のルーツを辿る旅。ボズを調べる依頼をした新美探偵と一緒に、ボズの生涯を知るという異国の養蚕家を訪ねるのだった。
その養蚕家が語るボズの人生は常軌を逸していた。

ボズは頭に墓を持っていた。双子の片割れの身体中のパーツがこぶのように醜くボズの頭にくっついていて、彼を異形の者にしていた。生まれた時に母は死に、そこから思えば彼の周りが死に満ちてしまう示唆であったのだ。
その容姿は人から忌み嫌われ、それでも友ができたりする。その友や、彼を救おうとする師はみんな死んでしまう。事故や病気で・・・。

やがて家族からも見捨てられ、ボズは白鳥塾という施設に行く。そこで運命的な出会いをするのだ、シロウとユウジン兄弟、そしてヒョウゴ。シロウは目を見張る美少年で弟のユウジンは幼い頃のトラウマから成長を止めてしまい車椅子でろくに話すこともできない。ヒョウゴはシニカルな天才肌でいつも毒を吐くのでみんなに疎まれている。ボズは何故か彼らと独特の距離を保ちながら付き合いを深めてゆくのだ。
ホウヤ舎監は実は危険な思想家で、子供たちを洗脳して利用しようとしていた。
知らずボズたちも巻き込まれ、命の危険にさらされ、ばらばらになってしまう。

そこから数十年を経て、ボズもいろんな女性と関係をもち孕ませては逃げ出して、シロウとユウジンは人身売買に巻き込まれ離れ離れになるも、やがて女性画家に拾われ一緒に暮らすことに・・・。ヒョウゴはやがて闇の帝王のようになってゆく。
かつて白鳥塾にいた生き残りたちが次々殺されてゆく事件が勃発。一体誰が犯人か?

やがて明かされる真相は、油断してたせいか、なかなかにショッキングでドンデン返し系で、涙が出そうだった。

シロウはとっくに死んでいたんだな・・・ヒョウゴはそれで白鳥塾の者たちやホウヤを次々に殺したんだな・・・復讐のために。では。ユウジンと共に女性画家のところにいたシロウは誰だったの?
・・・・ボズだったのだな・・・・。
どうしてユウジンが最後歩いて話したの?それはシロウがずっと声をかけ、話を聞かせ、心に働きかけたから。そのシロウがボズだったんだね・・・。

シロウの代わりにユウジンを。

そして、養蚕家は「俺が実はボズなのだ」という。言うが・・・・。

主人公はそのあとから姿を消した新美探偵こそが。失踪した父を救い出してくれたあの探偵こそがボズではないかと思う。
父も言ったではないか。あの探偵の帽子の下にはものすごく長い傷があったと。手術の跡の傷。頭の中の墓を出した時の。そうにちがいないと。
そして、あの養蚕家がユウジンだったのではないかと。ボズがいつも語り聞かせた自分の人生。それを毎晩聞いていたユウジン。だからこそあんなすべてを語れたのではないかと。

なんだか・・・すごいもん読んじゃったな、と思ったんだ、読後。
どこがどうって上手く言えないけど、なんだかすごいもん読んじゃったなって。
そんな一冊だ。
読んでいたら、ほんとにボズと共に生きたみたいな気がして、ボズを好きになってる自分がいて、そんな感覚を味わって欲しいから、やっぱり一度読んでみて欲しいなって思う。

no.697
 

■ 湊かなえ
「母性(新潮社)」 評価:★★★★★
Date:2013.03.12
母性とは何か。自身、かつて娘であり今は母である身なので、非常に身につまされるというか、何となく思い出したくないあれやこれやをふと思い出してしまったりして、重たいテーマであった。

初めにある女子高生がCENSOREDを図った事件のことを語り合う女性教師が同僚と語り合うシーンから出てくる。彼女はCENSOREDを図った女子高生本人より、その母親の供述に引っかかると語っている。
そこからは母の手記と娘の手記が交互に出てくるのだ。

母は娘を何より愛した。慈しみ育てた。でも母が本当に愛していたのは自分の母、娘にとっては祖母にあたる人だった。母が奨めるから父と結婚して、母が喜ぶから子供を産んで、母が喜ぶように立派に育てようと頑張り・・・。その愛してやまない祖母は、母に死に際に娘を愛して慈しめと遺言して死んだのだった。それからも母は、いつでも見えない祖母を思って娘を育て、姑や小姑のいびりにも耐えて微笑んでいつでも祖母のように頑張っていたのだ。
娘はただただ母に愛されたかった。だからやはりとても頑張って生きていた。
なのに思いはすれ違う。母は娘を理解できず、娘は母に素直になれず・・・。

挙句娘はある秘密を知ってしまいCENSOREDを図った・・・・。

・・・ん???・・・

読者はラスト付近でふと首をかしげることになるだろう。
あれ?確か、CENSOREDを図った女子高生は飛び降りCENSOREDをしたんじゃなかったっけ??
何故・・・庭の桜の木で首を括ったってことになってるんだ?と。

ラスト付近でなるほどそうだったのか!ってわかるオチがある。

まぁつまり・・・。先にCENSOREDと、手記のCENSOREDに至るまでの人生模様は・・・ネタバレになるが全く別物だったんだってことなんだけど。

でもそこを驚かせるってとこが重要なんじゃない。作者は飽くまで語りたかった。

母性のこと・・・・。
作中でこう語られる。

女性には二種類しかない。母か娘だ。言い換えれば、つまり、母性がある者と持たない者・・・。
祖母をずっと追い求める母は、娘に本物の母性を抱けないでいたのではないか。それが娘のCENSORED未遂によって、ようやく初めてそれに近いものが芽生えたのではないのだろうか。
子供を産めば母性が自然と備わるものではない・・・。

私も子供を産んだとき、まだ若かったせいもあるが、なかなかきちんとした全うな母性が目覚めてくれなかった経験がある。
母が可愛い可愛いと大喜びしてくれるから産んでよかったと思った。
母がとろけそうに孫である私の息子を見つめて微笑むので、息子を大切に可愛がろうって思った。
私も間違いなく、母性が欠けた「母」でなく「娘」の分類だった時代があった。

だからこそ・・・。理解できて、複雑な思考に囚われてしまった。
今は無条件に愛してやまない息子なのだが、私にもかつてそんなことがあったのだ、ということ。

そうだ、祖母が愛したリルケの詩が挿入されているのだが、なかなか美しくて結構気に入った。
このリルケの詩もキーワードだろう。
かつて祖母がそらんじるほどに大好きで、その影響で母もその詩集を口ずさんだ。そのことを覚えていた娘が大切にしたためた手記にリルケの詩を書いてゆくのであるから。

no.696
 

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