*Book review

■ 太田忠司
「金木犀の徴(しるし)(実業之日本社)」 評価:★★★★★
Date:2013.03.06
副題に「探偵・藤森涼子の事件簿」とある。そう、これは藤森涼子という40歳の才色兼備の女性が所長を務める探偵事務所の事件簿なのだ。女性だけの事務所には個性豊かな所員たちがいる。還暦を迎えてなお活躍する季理亜、パソコンやネット、サイバー系は大得意の美紀、ゴスロリファッションで変わっているが推理や洞察力がものすごい若者の綾。今までも難事件、殺人事件までもに巻き込まれては解決の一旦をかつぎ、警察にも多少名前が知られている。

3つの章で成っている。
「石楠花の詞」「金木犀の徴」「夾竹桃の焔」。
それぞれ花が関わっている事件・・・。花言葉だったり香りだったり・・・。そこが女性好みな設定。
事件自体が凄惨な感じは一切ない。だからこそリアル。ほんのちょっとした日常の不穏を切り取る感じで、ああこんな事件なら実際あるんじゃないかって、そんなリアルさ、だから面白い。

ある工場の社長が自分を落としいれようとしてると、娘婿の調査を依頼。洗ってみてもどこにも相手に非はなく、結局そのワンマン社長が探偵たちを翻弄させて楽しむという厭な事実がオチだったりするんだが、最後に涼子が、その娘婿のあまりにできすぎた感じにふと、うすら寒い真相を見抜いたあたり、ちょっとリアルで(笑)。なかなかいい毒の効き方だったりする。
「石楠花の花言葉は、威厳、俺の一番好きな言葉だ、と北江は言った。北江は知らなかったのだろうか。石楠花には別の花言葉があったことを。それは〈警戒心を持て〉そして〈危険〉。」

涼子が通うボクシングジムの選手、茉莉花から兄を捜して欲しいとの依頼。茉莉花の兄は両親の離婚で離れ離れとなりメールでのやり取りが続いていたのだが、8年前の夜道を歩く女性の髪の毛を切る通り魔事件の容疑者にされ、それから行方を絶ってしまっているのだという。調べてもみな一様に口が重く家出の先はわからぬまま。その兄のかつて友達だったという男を訪ねたとき、涼子はその男よりその妻が何か言いたげなのが気になる。そしてその妻が8年ぶりに発生した髪きり魔の餌食になる。さあ、ここから涼子の行動力綾の推理力が冴える。兄の行方の真相は。そして・・・8年前の髪切り魔の真犯人は。ちょっぴり悲しい終わり方。

さて、ラストは涼子の姪の静子からの依頼。静子の部屋に盗聴器が仕掛けられており、その出所を辿るうち、静子の先輩の加奈が本当はその盗聴器のターゲットだったことに行きあたる。そこから涼子譲りの好奇心と怖い物知らずで静子が独断で捜査を続け・・・夾竹桃の毒、という言葉に出会い、そして・・・・。思わぬ犯人。思わぬ真相。事件の解決としては尻切れトンボだが、まぁそこもリアル。こんなもんだろう、現実はって思う。誰も死ななかったのだし。しかし女って怖い、というオチ。

なにがいいかってね、これ、舞台が名古屋なんだよね、作者が名古屋の人だから。
平針まで出てきちゃう。平針の救急病院なんて、記念病院だろうってなもんで、そこもリアルなのだ。桜通り、栄、昭和区、その他もろもろ、出てくる地名が全部わかり、その地理もわかっちゃうんだから名古屋がわかる人にはよりリアルに、面白く感じるのだろう。
ほんとに・・・覚王山あたりに涼子が出現しそうな(笑)。

続編出ないかなぁ・・・もっと読みたいなあ。

no.695
 

■ 歌野晶午
「コモリと子守り(光文社)」 評価:☆★★★★
Date:2013.02.26
タイトルのコモリは引きこもりの由宇くん、子守りは父の再婚相手が産んだ赤ちゃんモッチーの面倒見ながら勉強してるひとみちゃん、共に17歳・・・のことを指している。どうやらシリーズものらしい。
この子守りの方のひとみが子供時代から見事な名探偵っぷりで事件を数々解決しては叔父の刑事の手柄をたてていたらしい。
で、由宇はひとみの幼なじみというか、小学時代からの同級生というか、そんな感じの仲らしい。

事の発端。引きこもりで高校にも行ってなくて離婚してしまった母に携帯もエアコンも小遣いも取り上げられた由宇は窓から見える向かい側の団地のある家でポニョによく似た幼女が虐待されているのを目撃してしまう。でももともとメンタル面が弱い由宇は行動できないまま、助けられずに悶々としてるだけ。
ところがある日、ふと通りがかったパチンコ屋の駐車場で真夏の車中に置き去りにされて死にかけているポニョを発見して思わず連れ帰ってしまう。
ぐずるポニョに困った由宇は、子守りに慣れているひとみに助けを求めに走る・・・。ひとみと戻った由宇の家からポニョが消えていた!!!

さて、ポニョは見つかるか。これが思わぬ誘拐事件に発展してゆき、最後はひとみの見事な推理と行動力で真相は解決したのが・・・後味はあまりよろしくない真相ではあったし、ポニョにはあまりに可哀想な結末ではあったが、一応解決・・・・・したかに見えた。由宇の心に傷は残したが・・・。

で、こっからまた別展開(というか、繋がってはいるのだが)。そう、由宇がひきこもりになったそもそもの原因、ぐれてしまった由宇の兄がさっきの事件で一度ポニョ誘拐の嫌疑がかけられていたのだが、それはひとみが晴らしたのだったけど、またまた別の事件の重大な容疑者に・・・。しかも今度の兄の容疑は殺人だという!!!

これもひとみが解決してくれたのだったが・・・次は兄貴は脱法ハーブの売買に舞い込まれて警察に追われる身に。行方をくらました兄貴。
ひとみと捜す由宇。

なんていうかね・・・このひとみの行動力と思考力のすっぱ抜け感というのかな・・・すかっとまっすぐ、しかし頭脳的で、実にかっこいいんだな・・・。
度胸もちゃきちゃきした口調もものすごく魅力的。
由宇のうじうじ感と対象的。
つまり、この二人はまるで男女が逆みたいな(笑)。ロマンスは全くない。ないのになんだか絆の深さっていうか・・・感じちゃう。

由宇の成長ぶりもなかなか心地よい。
だから読後感は、多少知りきれトンボだけど実に爽快。

ひとみのかっこよさを垣間見るセリフたちを少し羅列しておこう。

「愚か者の愚か者たるゆえんは、愚かな行為に手を染めてしまうからではない。人は誰でも過ちを犯す。それを繰り返すことが愚か者なのだ。」

「君の兄貴の心はまだ馬場家に残っている。そうであれば兄貴を落とすことは加納。落とすというのが聞こえが悪いのなら、心を溶かすと言い換えようか。ただし、誰もが兄貴の心を掴めるわけではない。あたしには無理。警察も偉い先生も及びじゃない。それができるのは家族だけなんだよ。だから君が立ち向かうしかないんだよ。」

no.694
 

■ 椰月美智子
「かっこうの親もずの子ども(実業之日本社)」 評価:★★★★★
Date:2013.02.18
帯に子育てのすべてを描き切った感動作、なんてあるし、子育てしたことのある人にはオススメなんて感じの書評だったりしたから借りた本であり、正直あまり期待しておらず、序盤も読ませる筆力ながら、なんだか私の好みの系統じゃないような・・・とどこか入り込めずに読んでいた。(失礼!)

統子はシングルマザーで智康と暮らしている。保育園に預けて編集者としての仕事をしているのだから、くたくただ。理想どおりにはなかなか育児できない。でも智康はかわいい素直な子、母とは確執があるものの智康をべた可愛がりしており助けてくれるので助かる。シッターの神田さんもとてもよい人で智康もなついているし、突然のお願いでも飛んできてくれる統子の母より母らしく支えてくれる人だ。
でも・・・夫と智康は似てない・・・。
実は夫の阿川は無精子症だった。子供はできない。でも阿川も統子も子供を欲した。そして阿川の提案で冷凍精子を統子の卵子に受精させ、智康が授かったのだった。阿川とはそれからうまくいかなくなり・・・やはり離婚となってしまった。
統子の中で、愛してやまない最愛の智康なのに、神に背いた手段だったのではないかとの罪悪感もあって胸を痛めて生きている。

保育園での子供同士のトラブル、ママ友との付き合いの大変さ、思いがけない子供の優しさや成長ぶり、などなど、子供がだいぶ大きくなってきた私にとっても懐かしさで胸がいっぱいになるリアルな描写がなかなかよかった、が、それだけだったらラストまで読みきれたかどうか・・・。

そう、統子は智康の遺伝子学上の父親、精子の主に会いに行こうと捜し始めるのだ。
そして、これは現実離れしているご都合主義だとは思うけど、智康と瓜二つの双子の少年と巡り会う。彼らの父は他界しており医学生だった・・・・ということは、そう、まさに智康の父だった。そして双子は智康の兄弟!!
ここら辺もあまりの都合よい偶然の連発に、読みながら鼻白むところだ。
でもね・・・。統子の学生時代からの親友で3人の子持ちの朝子、彼女の長男が突然病死してしまうんだ。

子供を亡くした母。その壊れ方、何故か理解できてしまう。そしてその壮絶な痛々しさに泣けてしまう。

途中出てくる逸話にも涙が止まらず困った。ぼろぼろ、なんて感じじゃなくて、ぐじゃぐじゃに泣いてしまった。

「こどもたちは胎内に宿る前のことまで当たり前みたいに話していた。
『お空にいたら、おかあさんが来てっていうから来たの』
『おとうさんがぼくを呼んだの。大好きだよって。だから滑り台でおりてきたんだよ』
『おかあさんが悲しそうな顔をしてたからここにしたの』
『神様がこのおうちはどう?って聞くからいいよって言ったんだ』
『雲の上から見たらおかあさんがかわいかったからトンネルくぐってきた』
子供は親を選んでくるのです・・・。産婦人科医のコメンテーターは言った。
『ある子供が話してくれた話が忘れられません。その子は先天性の疾患を抱える子で親はほとんどネグレクト。福祉の手が入った時はかなり危険な状態でしたが今は落ち着いています。あるとき胎内記憶、またその前の記憶についてその子に訪ねてみました。○○くんはどうしてパパとママを選んだの?そう聞いたらなんて言ったと思いますか。パパとママのためになるからって答えたんです。ぼくは最初からパパとママに意地悪されることをちゃんとわかっていた。身体が弱いことも知っていた。神様にそれでもいいのかって聞かれて、それでもいいって答えた。全部わかってて全部承知でそれでもパパとママが好きだから、自分で選んだんだってそう言ってました。ぼくが来ることでパパとママは成長するんだって』」

自分が母親じゃないほうがこの子は幸せなんじゃないだろうか、私は今でもよくそう思い悩む。だからこれには泣けた。選んできてくれたんだろうか、私の息子を。私を。

他にも、母親に対する複雑な思いとか、子供を持つと女性は子供を守るために鬼より強くなれるけど、逆に言えばそれほど大切なものができてしまうということはそれが弱点にもなるということなんだなぁって、そんなことも書いてあり、ほんと共感しすぎて泣けて仕方ない一冊だった。

子供がいる人もいない人も・・・一読する価値アリ。ほんと。オススメ。テーマは深い。

no.693
 

■ 角田光代
「月と蕾(中央公論新社)」 評価:☆★★★★
Date:2013.02.12
どうにもやるせない思いで終わる感じの物語だ。
未来に明るさとか希望をあまり感じられないラストで、それでも心が凍えきって終わる感じではない訳は、ひとえに主人公たる
泰子が吹っ切って自分の意志と足で一歩踏み出したからだろうか。

本人は至ってピュアなんだけど、世間的にみて全然まともじゃない人生を送っている智。彼にはやっぱりいかれた母親がいて、彼女はいつも様々な男の世話になってはふいにそこから理由もなしに逃げ出すような女だった。それでも何故か男からいつも手は差し伸ばされて面倒を見て甘やかしてもらえるのだった。
智はその度にいろんな土地をいろんな男を見てきたので、それが異様な生活だとずっと気づかず育った。ただ、今でもはっきり覚えていて懐かしいのは、小学生の時の母の恋人だった辻井さんだ。辻井さんは智の母直子のせいで妻に出て行かれ、娘の泰子といる家に直子と智を呼び寄せた。泰子と智は学校にも行かないで(怒られなかったから)いつも二人で密着して遊んでた。大好き同志。でもやはり直子はまた別の男の元へ智をつれて出てゆくのだった。別れたくない二人はそれっきり。お互い30歳過ぎてどうしているのだろう?
智は泰子をみつけだした。泰子は昔の家にまだひとりで住んでいた。そして・・・泰子は過去のトラウマから抜け出すため懸命に生きていた。結婚も控えていた。
泰子は恨んでいたのだ。自分の人生がこうして捻じ曲がったのは直子と智のせいだと。だから智が来た時、逃げたかったが、何故か逃げられなかった。そしてどこか懐かしく居心地がよく、智とずるずると関係をもって挙句妊娠してしまい、家に智と直子まで転がり込んでくる。堕ちる。堕ちてゆく。当然結婚は破談。直子は智の子供を身ごもってしまい、シングルマザーになると決意する。のに、智が父親面してくる。

いつだって私の人生を狂わせるのはこの母子だ。

そう思うのに離れられない。いなくてもいいけど、いると拒めない。
どこか幸せな気もしてしまう。
でも泰子は直子に疑問をぶつける。アル中の直子が応えようもない質問を。
それで直子が家を出て、泰子は明日香を産んで、智がまたふらっと突然行方不明になって・・・。
でも泰子は変わった。なぜなら直子が死ぬ間際にあの質問の答えをもらったから。直子から。はっきりと。
それで・・・吹っ切れた。泰子はそう、強くなったのだ。

そんなラスト。父親になれないであろう気質の智、突然帰ってきた智に呼ばれ東京に行くことになった泰子と明日香。でももう不安じゃない。そういう意味では光みたいなものを感じるラストだ。

複雑な読後感。自分の人生の未来にそこはかとなく不安を抱いたことのある人は読むととっても考えさせられる。

泰子は直子にこう聞いたのだ。
「(男から男へ転々とする前の、一番最初の男だった)智の父親と、もし籍を入れてもらえて一緒になっていたらこんな風じゃなかったって思うことある?」

直子が死ぬまえにようやく答えた答えは。

「もし、とかね。あのとき、とかね。いくら考えてもどうしようもないだろ。だったらそんなこと考えないで、今日一日をなんとかして終わらせるんだ。そうすっと明日になるからね。あんたね、何かが始まったらもう、終わるってこと、ないの。はじまったらあとはどんなふうにしてもそこを切り抜けなきゃなんないってこと。そしてね、あんた、どんなふうにしたって切り抜けられるものなんだよ。なんとでもなるもんなんだよ。」

そう、泰子はラストで思う。
「直子は最初から直子で、そして、どんどん直子になって、たったひとり、直子の完成形で死んだのだ」と。

no.692
 

■ 七河迦南
「空耳の森(東京創元社)」 評価:☆★★★★
Date:2013.02.07
短編だと思って読んでると、最後の一編で、ああ何となく全部繋がってたのかなと気づく、そんな作りになっている一冊。

ああ、でも一編だけ、全く繋がってなさそうな別ものとして在る一編がある。それが「冷たいホットライン」。このホットラインってのが結局最後に言葉としてリンクするんだけど、内容は全く関係ない。
でもミステリータッチで、読者をラストで驚かせるオチがあるって意味ではこれが一番面白かった。騙されたなぁってなもんだ。恋人と冬山で遭難した恋人同士、しかも離れ離れの場所で、二人をつないでるのは無線機だけ。その二人のセリフのやりとりで、読者もすっかりヒロインと一緒に騙されちゃうわけだ。そう、男が裏切ったのだ。これはちょっとひねってあってなかなか短編なのにすごいなぁって思わされた。

幼い姉弟が二人きりで孤島に暮らしている?!親は出て行った。だから野獣を上手くかわしながら二人で生きている・・・・{アイランド」。でもこれも最後にああ、そういうことなのかと二人の子供の不幸がわかる作品なのだが、ラストの章で立ち直った二人がちらっと出てくるのがちょっと憎い。

「It's only love」はまぁちょっとしたロマンスもの、かな。年上の女を恋する美形の男、なんてなかなかそそる設定だが、読者には最後まで女の正体がわからない。なるほどね〜って感じ。この恋どうなってくの?!ってとこで終わるんだけど、それもラストに答えらしき場面がちらっとね(笑)。

父と母の間で二重人格のように心が引き裂かれて苦しむ少女の姿を書いた「悲しみの子」、この夫婦の間には一体娘がいるの?息子がいるの?二人いるの?ってのが最後にわかる。この子、大丈夫よね・・・?って心配で胸が痛むけど、まぁこれもね、この子のその後ってのがあとから出てきてて、なるほど〜って感じ。

幼なじみの少女が強盗の濡れ衣を着せられたのでその疑いを晴らそうとかつての少年探偵団の団長だった少年が奮闘する「さよならシンデレラ」。こんな風に書くとまるで明るくほのぼのした感じに聞こえるけど、最後はなんとも救いようがない感じで終わっちゃう。リコの将来大丈夫なのかって、なんか北風を感じて寒くなる感じ。リコを唯一理解してた親友のカイエが、ちょっとしたメールのやりとりのすれ違いでそれっきりになってしまうくだりが切ない「桜前線」。想い合ってる二人なのに、人の心って難しいね。

「晴れたらいいな、あるいは九時だと遅すぎる(かもしれない)」なんて長い名前の一編はある刑事が飲み屋で出会う女性の推理力を見込んで、ある女性との行き違いをふと話して、その女性が鮮やかに見事に氷解させるストーリー。これは・・・どこか他の作品と繋がってるのかな???よくわかなかった。この刑事、他の作品に出てきたかしらん?これはいい感じのラスト。

「発音されない文字」は実はこれも独立してる感じがする作品なんだけど・・・。登場人物がイニシアルで出てくるので、実を言うとよくわからず、あまり好きではなかった一編(失礼!!)。この一人称がカイエ・・・なのかしら???読み取る力不足ですみません。

さあ問題のラストの一編、「空耳の森」は本のタイトルにもなってるね。その児童養護施設の隣にある森には噂があって、体の弱かった永遠子ちゃんて少女の霊だか、たまにこの子の声が聞こえるって。それを施設の亜紀って子が聞いたという。てっきりオカルトがかったファンタジーかなって想いながら読んでいたら、これが意外なタネアカシ。そしてそこからぐいぐい今までの他の一編一編に出てくる女性、男性、子供たち、みんなのことが出てきて繋がる繋がる。そうだったんだぁって。
そしてきれいに大団円。希望を感じるラスト。

だから読後感はやわらかく優しい。

no.691
 

■ 東野圭吾
「禁断の魔術(文芸春秋)」 評価:★★★★★
Date:2013.01.28
ガリレオシリーズの8冊目。
「透視す(みとおす)」「曲球る(まがる)」「念波る(おくる)」「猛射つ(うつ)」の4編。

巷のニュースで知ったのだが、また福山雅治が湯川演じるドラマシリーズが復活するらしい。そのネタ貯めとも取れてしまう連続出版って感じもしちゃうけど、でもまぁ福山の湯川や、柴崎コウの内海刑事なんかを想像しながら読むことはなかなか楽しめたからよしとしよう。

ある高級クラブのホステスが殺された。そこは実は草薙の行きつけで、そのホステスは特技としてなんと透視ができるという。湯川を連れていってその腕前を披露させた草薙だったが、そして一瞬はほんとに騙された湯川だったが、その後草薙はそのホステスの殺人の謎のことを湯川に相談するはめになるのだった。もちろん透視のトリックは見抜いていた湯川。しかしそこから犯人をも絞り込んでゆく。そのホステスのアイちゃんが自分の母親にした透視マジックのエピソードは切なくてちょっと残る一編だった。(透視す)

曲球るはある盛りを過ぎた年齢のプロ野球選手の話。妻が殺されたのだが、その犯人自体はあっけなくつかまった。それより妻が残したあるプレゼントの包みと、ホテルで男と一緒だったという事実が男を苦しめた。妻は浮気をしていた??それを鮮やかに湯川が解いてゆく。そのプレゼントの中身を見ただけで。プレゼントの中身は置時計だったのだ・・・。理系だけじゃない博識さが光るかっこいい湯川学!!

念波るは、双子の妹が姉の死を予感して騒ぎ、見に行ったら本当に殺された死んでいたというもの。双子の間には不思議なテレパシーがあるというが本当だろうか?興味を持った湯川は脳波を調べたいと言い出し・・・・大掛かりな実験を・・・??そしてとんでもない真相、真犯人を言い当てるのだった。なぁんだ、やっぱテレパシーなんてないね、科学で説明できるものが真実・・・と思いきや、最後にオチがあってひっくり返される。面白い。

たぶん、これが一番メインだろう「猛射つ」。湯川の高校の後輩、同じ帝都大学にやってきた優秀な古芝伸吾。ところが姉が死んでから突然大学を辞め失踪してしまう。そのしばらくあとにあるフリーライターが絞殺され、そこに大物政治家が絡んでいるとわかる。その政治家の愛人だったのがどうやら伸吾の姉のようだ???
伸吾がその政治家に復讐しようとしているのではないかと草薙は必死で行方を追う。
湯川は伸吾のことをとっても理解しているから、その真相、事件の展開がわかるのだが、そのことでものすごく胸を痛めていて、最後自分を投げ打った賭けにでる・・・。これは湯川があまりにかっこよくて、その優しさと人情味溢れすぎる行動に涙が出そうになった、惚れ直した。

ああ、この猛射つって章はドラマになったら是非見て見たいなぁって思った。

no.690
 

■ 道尾秀介
「ノエル(新潮社)」 評価:★★★★★
Date:2013.01.19
久しぶりだった、本を読んで泣いちゃったのって。
なんだか泣かせようとして書いた作者の意図が感じられるので、ちょっと悔しかったりもしたけど、まんまと道尾マジックに乗せられて涙がぽろっと落ちてしまった。

「ノエル」と「暗がりの子供」と「物語の夕暮れ」の三章で成っていて、それぞれ独立したストーリーとなっており、でも全部がリンクしていて繋がっていてなんと最後ひとつになる、的な。

どの章にもちょっとミステリー風味な、最後に読者をあっとのけぞらせるドンデン返しが仕込まれているが、それ自体は高度ではない。初歩的なものだ。
それでも「ノエル」のドンデン返しには驚いたし、「物語の夕暮れ」はあまりにほっとしてしまって涙が出た次第(笑)。

特にノエルはとても好きだった。
いじめられて家庭でも居場所がなくて、心をCENSORED生きてきた圭介が、クラスメイトの弥生に誘われて、一緒に絵本を作るようになって救われる。それはやがて初恋となり、でも高校時代のある事件によって二人は離れ離れの人生を歩み始めるように・・・。圭介はその後、童話作家として成功、14年ぶりに同窓会のため故郷を訪ね、そのとき突如、あの高校時代の事件の真相に思いあたってしまったのだ!!ところが・・・。圭介!!!死なないで〜!!(ネタバレ)と思ったらのドンデン返し(笑)。ちょっとご都合主義過ぎる流れのラストだけど、でもほんとほっとした。

「暗がりの子供」はこれもちょっとある意味、いい意味でのドンデン返しが仕込まれてるけど、ほのぼのした気持ちになれてなかなかよかった。物語の真子と会話するうち莉子が二重人格症状になってきてるような不穏な感じがすっきりときれいに収まる。そう、その真子が出てくる物語を書いたのが、ノエルに出てきた圭介なのだった。

「物語の夕暮れ」は、元教師の老人が、妻に先立たれ、身辺整理してCENSOREDしようとしてる物語だ。物語を作って児童館の子供に聞かせて喜ばせていたけどそれも終止符。もうそろそろいいんじゃないか。何もない。子供も残せなかった。月桂樹の葉を児童館の子供たちにすべて配って、飼ってるインコを逃がして自分の逝こう・・・。かつて自分が住んでた家に今住んでいるという童話作家とやらに電話して祭囃子を電話口で聞かせて欲しいというぶしつけなお願いをしたら引き受けてくれた。それを聞きながら逝こう・・・・。せつな過ぎて切なすぎて、泣けてしまった。

そう、ここから奇蹟のリンクが始まる。
圭介は弥生という妻と暮らし、童話作家をしている。その童話を読んだ莉子には大好きだった主人公と同じ名前を持つ妹真子がいて、その真子もまた物語が大好きで児童館でおじいさんの物語を聞くのが大好き。圭介がそもそも物語を紡ぐようになったのはかつての教師のある言葉がきっかけだったのだ。その教師が児童館のおじいさん・・・。
おじいさんが逃がしたインコ。真子は公園で見かけて、追いかける。そのインコはおじいさんがいる部屋を目指して飛ぶ・・・。圭介はその老人がかつての自分の恩師だったと気づいている。祭囃子が終わったらそのことを老人に伝えようかな、なんて迷っている・・・。

パタパタっと。すべてが噛み合わさって。奇蹟は花開く。

私は、ほんとにほっとして、ほんとにうれしくてほっとして涙が出た。ラスト。

ノエルというのはもともとはラテン語で誕生という意味を現すそうだ。ああ、そうだな、みんな生まれなおすみたいな物語だったから・・・。

思ったよりぐっときて、すごく好きな一冊になった。

no.689
 

■ 小野不由美
「残穢(ざんえ)(新潮社)」 評価:★★★★★
Date:2013.01.17
書き下ろしの長編ホラーと帯にある。ということはこれはノンフィクションの小説ということなのだろう。とてもそうは思えなかったが。
ドキュメンタリーのようだった。だからものすごく怖かった。なにしろ主人公たる一人称の私、も、小説家なのだから。作者がそのまま現実を語っているようにしか感じられなかった。

作家の私は友人のライター、久保さんから自分の部屋のマンションの怪異をふと相談され、そこからすべてが始まる。
それ自体はよくあるような怪異だ。久保さんが夜、一人で部屋で仕事をしてると背後で妙な音がする、というもの。畳を擦るような音が左右に繰り返し聞こえるという。
一度振り返ってみたら一瞬帯のようなものが見えた、と。
このマンションには人が居つかない部屋が他にもあり、その部屋の住民は越す前にそのうちの幼い子供が部屋の和室を見上げ、何を見てるの?と聞くとブランコ、と答えたという。

何かが上から下がって揺れている??帯??そこから想像するのは、そのマンションで首吊りCENSOREDをした人がいたのではないか、という憶測。でも管理人は一切今まで本当にないと言い切り、嘘ではなさそうだ。
他の退去者も調べてゆくうち、不審な死を遂げていたり行方不明になっていたり・・・不幸な末路を辿っている人が多く、詳しく聞けば精神的に異常をきたした末の一家心中や放火などもあったと言う。
そして共通するキーワードがそろっていくのだ。

ぶらさがる首吊り死体(女性)、無数の赤ん坊の泣き声、あるいは壁から湧いてくる赤ん坊の姿、黒こげの呻く無数の人の姿、床下から聞こえる声・・・・・。

このマンションの前はここには何があったんだろう?そうして調べてゆくうちに怪異の歴史的経緯というか、何がどの幽霊?で、どういった呪い?なのかがじわじわわかっていく。その過程がものすごくリアルで本当に恐ろしい。

結局、この怪談の発端はなんと北九州のある一家にまでさかのぼる。それは戦前まで。
でも、なにが怖いってそのルーツというより、この怪談というのか呪いというのか・・・それが伝染するということなのだ。
まるでリングみたいだけど、どうにもリアルで恐ろしい。

つまりそのいわゆる穢れは、全く無関係の第三者であってもその場に来て、その穢れに触れてしまったら伝播するのである。うつるのだ。一度うつってしまったらその土地を離れて引っ越してもついてくる。家族や身内にもそれは及ぶ。もちろん元の土地にも残ったままなのにも関わらずだ。

そしてその第三者がまたその穢れによって死んだり殺されたりすると、また二重三重の穢れとなって上乗せされたまま、また新たなその家もしくは土地に住みついた者に伝播する。
仮にお祓いをしても残る残滓は効力をもつ。

なにが恐ろしいって、だってどんな人だって住んでる土地ってのがあってマンションだとしても一軒家だとしても。その土地の昔昔大昔の因縁や事件や歴史なんて、知るよしもないのだ。
だから多かれ少なかれみんな穢れには触れているのだろう。
よほどたちが悪い穢れに触れた者に、触りが出てしまうのだろう。

リアルなことに、ものすごく中途半端に終わるラスト。そこも怖い。

ほんとに・・・これ、フィクションだよね???耳袋を読んだ時以来だ、こんな背筋がぞっとしたの。
この話を読んで知ってしまったことで、穢れに触れてしまったことにはならないよね??本気で不安になる一冊だった。

完全フィクションだとしたらおそるべし、小野不由美!!

no.688
 

■ 東野圭吾
「虚像の道化師(文芸春秋)」 評価:☆★★★★
Date:2013.01.07
ガリレオシリーズの7冊目。4編入ってる短編集。

「幻惑す(まどわす)」は、カルト宗教の信者が突然CENSOREDをしたのだがその教団の教祖が自首してくるところから事件が始まる。教祖の連崎は自分がその男に強い念を送ってしまったせいで彼が飛び降りてしまったので自分が殺したのだと主張。そこで草薙が湯川に相談したのだが、そこから一気に神掛かった空気が一変、物理化学的な推理が成されてゆくと言う展開だ。
相変わらず、ちょっとしたことからあらゆる観察、科学的根拠に基づく思考で推理と的確に進めてかためてゆく湯川の姿はカッコいい!!オチもちょっと笑えていい感じ。

「心聴る(きこえる)」は草薙が病院で錯乱した男に突然刺されるところから始まる。同じ頃、その草薙を刺した男と同じ会社の別の男がCENSORED、やはり同じ会社のOLが同僚に幻聴を訴える話も耳に入る。さて、それだけの情報を草薙から得れば湯川の独壇場、見事幻聴の原因を探り、草薙刺傷の犯人もCENSOREDした男も幻聴のためノイローゼになっての行為だと突き止める。そして・・・幻聴の原因および犯人までも突き止めてしまうのだった。ストーカーとか偏執的な人物というのは実在し得る不気味さがひしひしとある作品。

「偽装う(よそおう)」はこの中で私は一番好きだったかも。ある別荘地の一軒で散弾銃で撃たれた男の遺体と絞殺された妻の遺体が発見される。第一発見者は赤いアウディに乗った美女。殺された夫婦の娘だった。殺された男は有名な作曲家で、元弟子と盗作問題で揉めていたことからその男が犯人かと思われたが・・・。現場写真を見て湯川はすぐ何かに気づく。真相は少し悲しい。ただ、湯川は理系頭脳だけど決して冷徹な非情人間じゃないのだとあらためて感じさせる結末。そこがこの一編が一番好きだった理由かもしれないな。

「演技る(えんじる)」は一種の読者騙しのテクニックトリック?かな?刑事コロンボよろしく、まず犯人と被害者の遺体ありき、のシーンからスタートするわけだ。殺されたのは小さな劇団の団長。胸にナイフを刺したのは元恋人で同劇団女優の敦子。彼女はそこから男の携帯を用いたアリバイトリックを使うのだが、警察はすぐそのトリックを見抜いてしまう。ただ、敦子が何故劇団の小道具のナイフを敢えて使ったかだけがわからず、決め手に欠け、容疑者として絞りきれないでいた。湯川はその携帯に残されていた写真を見てそのトリックの更に裏に隠された本当の真相に気づいてしまうのだった。見事。その冷静さ、まさに物理学者湯川学。

どの作品もそこそこ面白いけどな・・・という印象。インパクトはない。
けど、作中の湯川のこのセリフだけはなんか残ったので記しておこうと思う。

「人の意見に耳を傾け、自分のやり方や考え方が正しいのかどうかを常にチェックし続けるのは肉体的にも精神的にも負担が大きい。それに比べて他人の意見には耳を貸さず、自分の考えだけに固執しているのは楽だ。そして楽なことを求めるのは怠け者だ。違いますか?」

no.687
 

■ 近藤史恵
「はぶらし(幻冬舎)」 評価:☆☆☆☆★
Date:2012.12.24
鈴音は脚本家、賞を取ったりしてそこそこ活躍していて独身でも一人で暮らしていけるくらいの生活力を持っている。恋人と別れたばかりで、そのことにショックを受けるくらいは微妙な年頃、30代である。
そんなある日、突然高校以来数十年連絡すら取っていなかった水絵から電話をもらう。そして言いくるめられるように、彼女とその息子の耕太を居候させることに・・・。

旦那のDVから逃れてきて仕事もないので住む場所がないという。仕事が見つかるまでいさせて、と言うのだ。
一週間くらいなら、としぶしぶ引き受けた鈴音だったが、どこか常識がずれているような水絵にいらだちとストレスを感じ始める。耕太はかわいいし、かわいそうだと思うのだが・・・。

高校時代から仲良くしてる友人にそれとなく水絵のことを聞いてみれば、かつて万引きなどの前歴があったと聞いて、ますます水絵に対するひっかかりが増してゆく鈴音。でも耕太もいるし、どうしても断れない。いつも話し合いをすればどこかちぐはぐで平行線、結局水絵に言いくるめられて相手の言いなりな流れになってゆく・・・。

やがて水絵と口論となり、水絵が耕太を置いて飛び出してしまう。仕方なく水絵の実家に連絡をとり、耕太は父に引き取られることに・・・DVと聞いていたが、それも水絵の嘘だったようだ・・・??でも直接耕太を引き渡すため会って話してみると水絵の元夫もあまりいい感じではなかった。暴力はしなかったようだが、何か釈然としないまま耕太を引き渡す鈴音・・・。

・・・なんとも後味がすっきりしないままラストへ突入。舞台はラスト、いきなり10年後に飛ぶ。10年後、高校生に成長した耕太が鈴音を訪ねてくるのだ。
離婚して耕太を連れて、いろいろな知人の家を転々としていた水絵は、そのどの家からも必ず何かしら盗んでいたのだと、耕太は語る。でも・・・鈴音は。本当に何も盗られなかった。確かだ。高校時代に嘘つきとみんなに責められていた水絵をかばったことはある。そのことで水絵は鈴音を特別に感じていたのだろうか・・・真偽のほどはわからない。でも、何も盗まなかった、鈴音からだけは。それは事実。それを知った耕太はほっとして「やっと居所がわかった母と会う勇気が出ました」と。

そこで終わるのだ、この物語は。

タイトルであるはぶらし、は、水絵のことを象徴している。というのは、居候させていたとき、初日に鈴音からはぶらしを借りた水絵は、翌日自分たちのはぶらしを買ってきて・・・・そこまでは普通。しかし水絵は買ってきた新品のはぶらしを自分たち用におろして使い、昨晩鈴音から借りて使った使用済みのはぶらしをそのまま返してきたのだ。悪気はない。それがおかしいとも本気で思ってない。ありがとう、と。
水絵とはそういう女だった。

・・・確かにストレスだな・・・(笑)。

読みながら、心の中でずっと「水絵サイテー、大っきらいだわ、こういう女。私だったらとっととたたきだすのに」といらだちながら読んでいたが、最後に、少し悲しい女だと気づき、かわいそうになってしまう・・・。鈴音もほんと優しくていいなぁとかね。

なんというのか・・・不思議な話だ。おおまかな展開はありがちな設定なのに、どこか心に新鮮に訴えかけられるというか。

表紙のスカイエマさんのイラストも好きだった。

no.686
 

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