*Book review

■ 西加奈子
「しずく(光文社)」 評価:★★★★★
Date:2012.12.17
短編集である。帯には「女どうしを描く初の短編集」とある。そう、女どうし。

幼なじみ、三十女と恋人(バツイチ)の娘、老婦人と若い小説家、旅行者と嘘つき女、二匹の雌猫、母と娘。

それぞれがその組み合わせの短編だ。
正直、オチらしいオチがある物語という感じでもない。でも・・・なんだかほんわかする。どこか切ない。独特の感じ。

みんな悲しい過去をかかえていたりして、でもそれを普段は出さないで頑張って生きてきていたりして、それがその出会いでふっとゆるんでこぼれてしまったりするような・・・。どれもこれもそんな感じの。

中学以来ご無沙汰していた幼なじみとばったり出会って、意気投合して海外旅行に行って、ちょっと相手がぽろっとこぼした言葉でほんとはつらいんだ、なんて気づいてみたり、恋人に嫌われたくなくて無理して娘を預かったらクソガキでむかつくんだけどこちらも本音でがばっとぶつかってみたら案外いい関係になれてしまってみたり、年代のギャップで理解不能で苦しんで話を聞いてるうちに実はつらい愛情をかかえて心細いところが同じだと気づいてみたり、嘘ばかりつく少女の嘘をつく原因となった事故のことを知って惹かれてみたり、恋人の浮気疑惑に不安なのを隠して同棲することになった強がる心が少女のような母と会話するうち氷解、さまざまだ。

中でも異色で、実は私が一番好きだったのは、やっぱりタイトルにもなった「しずく」という二匹の雌猫の絡みを書いた一編。
男性に飼われていた猫。女性に飼われていた猫。二人が結婚したから猫たちも同居することになって。でもいつも喧嘩してばかり。それでも実はすごく気があっていて、それがやがて離婚によって引き離される顛末が書かれている。

作者はよく猫のことをわかってる人だなという描写で、読んでてところどころ笑ってしまう。笑ってしまうのだが、どこか悲しい。引き離されてもすぐ忘れてしまう猫たちなのだが、でも・・・しずくを見ると思い出す。この水滴でたわむれて遊んだ友達がいつも隣にいたんじゃなかったかしら?って。

短編だと侮るなかれ、結構泣かされる一冊だった。

no.685
 

■ 西加奈子
「こうふくみどりの(小学館)」 評価:☆★★★★
Date:2012.12.12
「こうふくあかの」と対なんだけどストーリー的には全く独立したもので、片方しか読まなくても全然問題がないように構成されている。が、リンクしているような感じの・・・。

辰巳緑、14歳。おじいちゃんは失踪したまま、不思議な予言の目を持っているおばあちゃんと、妻子ある男を愛して緑を産んだお母さんと、子持ちで夫と離婚協議中の藍ちゃんと、藍ちゃんの娘で4歳なのに口をきけずいまだおっぱいを吸っている桃ちゃんと、5人で暮らしている。

幼馴染みで男の子との交際が派手な明日香とよくつるんでいる。
明日香は美人で派手だが、緑は地味な女子だ。
そんなある日、ハラダケンという男子が転入してくる。原田犬、と書くんだと。父親と二人暮らしで、あまり学校にこない一匹狼。明日香は熱をあげた。緑も・・・気になる。一度緑の家に来て、料理の上手な藍ちゃんの手料理をがつがつ食べたハラダケン。

でもハラダケンの様子がおかしくなる。全く学校に来ない。どうやら誰かと恋をしているようだ・・・一体誰?明日香でも緑でもない・・・。驚愕の相手とは・・・!!
藍ちゃん!!いいにおいがして料理が上手で、太ってて、ちっとも美人じゃないのに何故かきれいやなぁって思わせる藍ちゃん。4歳の子がおるのに14歳のハラダケンと。

そして、緑のおじさんのシゲオという人は喧嘩っぱやくて結局酔った挙句の喧嘩で刺されて死んだのだが、その加害者のことも微妙に出てくるのだった。加害者の男とその妻は猪木ファンだった。妻は夫を愛していたが、服役中に別の男と恋愛してしまう・・・でも本当はやはり夫を愛しているのだと、強く気づかされるのだ。そして・・・夫の犯した罪と・・・子供時代に実は自分が犯した罪と・・・おびえて震えて被害者である辰巳家の前をうろうろしていて緑と会話するのだ。

「おばあちゃんがもう大丈夫やでって言うてはりました。大丈夫」

・・・なんだろうなぁ・・・。

なんだかじーんときちゃうなぁ・・・。
辰巳家の女は実はみんな誰より強いきりりとした女ばかりなんだと感じる。いくらほわっとして現実離れしてようと。いくら男に惚れると年齢問わずの突っ走りだろうと。

だっておばあちゃんの血を継いでるんだもの。一番強く継いだのはおそらく緑なんだろうな。

私はこうふくあかのより、こちらの方が好きだったかな。

猪木の引退の時のセリフは有名だろうけど、なんかあらためて心に響いてしまった。

「この道をゆけばどうなるものか。
 危ぶむなかれ。
 危ぶめば道はなし。
 踏み出せばその一足が道となり
 その一足が道となる。
 迷わず行けよ。
 行けばわかるさ」

no.684
 

■ 大島真寿美
「ゼラニウムの庭(ポプラ社)」 評価:☆★★★★
Date:2012.11.29
オカルトではないし、ホラーでもないし、ファンタジーというのとも少し違う。でも怖い。怖さを感じる話だった。

小説家になったるみ子は世間に発表しない手記を遺した。それはひっそりと人目に触れることなく引き出しの奥に眠っていた。
それを紐解いたのが嘉栄。嘉栄はるみ子の祖母豊世の双子の姉妹。
でも一族から完全にその存在を無視されている。昔から・・・今も・・・。
その秘密を豊世が死ぬ前にるみ子に語ったのだ。それをいつか書き残したい・・・と思ったるみ子、その思いが彼女を小説家にしたのだった。

そう、この家には秘密がある・・・・。
嘉栄にまつわるものだ。豊世は80歳くらいで亡くなったのか・・・。でも葬式に現れた嘉栄はどう見てもせいぜい中年くらいの外見・・・るみ子の母親より若く見えるのだった。双子?そう見えるわけがない。でも事実なのだ。
嘉栄は何故か、歳を取るのが異様に遅い。成長も遅かった。豊世が年頃の娘になってもまだ外見は小学生程度。折りしも時代は戦争の頃で、要らぬ醜聞や噂を恐れた家族は嘉栄を外国へやってしまう。いなかったことに。存在を隠す。

不幸な宿命だ。女としてどうなのだろう。永遠の若さ・・・女としてはうらやましい。しかも双子の豊世は普通に歳を取ってゆく。嘉栄だけがその半分くらいの歳の外見で、いつまでも若い。
世間から隠す一方ですべての生活の面倒は家が見る。長生きする嘉栄なので、被祖母から祖母の豊世へ、そして娘の静子へ、そしてるみ子へと、その責任と義務は秘密と共に継がれてゆく。
誰でも歳は取りたくない・・・・でも人は時間の流れに乗って等しく年老いてゆく運命の存在・・・その時間の流れに乗れない不可思議な嘉栄。神なのか悪魔なのか。でも嘉栄は人間なのだった。

考えてみれば嘉栄のせいではないのに。そう生まれてしまったのは。なのに人を愛しても添い遂げることもできない。どんどん相手だけが老いてゆくのだから。赤ちゃんから見守ってきた孫すら、やがて自分より老いてゆく・・・。自分より先に死んでしまう。悲しくて孤独で・・・不幸な人生だ。でも嘉栄は雄雄しくたくましくしたたかに生きぬいてきた。まだ進行形だ。

るみ子の手記のあとに嘉栄がそれを読んで書いたとおぼしき付記がある。
それこそが私には衝撃的だった。
嘉栄もさすがに140歳にもなったから70歳くらいの外見の老女にはなった。
でもあとまだ20年くらいは生きるようだ。そして・・・孫の彼氏と肉体関係を持ったことなども付記には書かれていて、そこらへんがなんというか・・・女としてぞっとした。齢は70でも見た目は35歳くらいなのだから、十分熟女好きな若者と恋愛だってできただろう。
そして・・・嘉栄は生理が全く訪れないままだった。子供は成せない。それものろわれた宿命か。

結局嘉栄の時間が何故遅く流れるのかはわからないままだが、テーマはそこじゃないからいいのだ。理由とか原因とか、それを解明するとかそういうのは関係ない。嘉栄にとっても。

でも私がこの一族の家族だったら、確かにこの秘密を知ってのち、嘉栄に会ったらどこか嫌悪するだろう、畏怖するだろう、尻ごみするだろう・・・。

そういうそら恐ろしさが、読み手をひきつける不思議な小説だった。

「どれほど長く生きたからといって、所詮人は人です。人は龍にあらず。どれだけ長く生きたからとって、神にはなれません。不自由な人生でしたが、多かれ少なかれ、人は皆不自由。自由な人生などありはしません。そんなものがあると思っているのならそれは大きな勘違い。孤独な人生でしたが、それもまた皆同じです。孤独でない人間などどこかにいますか。いないでしょう。そう考えると案外平等な気がします」

no.683
 

■ 平山瑞穂
「僕の心の埋まらない空洞(新潮社)」 評価:☆★★★★
Date:2012.11.25
これは何とジャンルづけたら良いのか…私にはストーカー男が相手の女殺害に至るまでの道のりや心情を、理詰めでいかにもな話術でもって、延々と言い訳をしているようにも、あるいは男女間の愛憎や一種の腐れ縁のような複雑怪奇な絆の恐さを感じさせるような、少し理解し切れない空気の一冊ではあったが…。

鳥越昇と言う被疑者は、妻子ある身でありながら職場の後輩であった松谷紗菜絵に執拗にストーカー行為を働き、挙げ句、口論の末に橋でもみ合ううち二人で川に落ち、紗菜絵は死亡した事件に於いて、過失致死か殺人か、はたまたウツ状態で審議が問われており、検事の荒城倫高が拘留中の鳥越に話を聞きながら起訴状作成に取り組んでいた。野中瞳という女性立会事務官と組んで仕事をしている。

荒城自身は清廉潔白な堅物の愛妻家との呼び名も高い通り、女性と問題を起こすなど夢にもありえない男である。かつて律子という荒城も妻ちづるも良く知る女性が精神不安定になっていた際、具体的な過ちは全く無かったのだが二人きりで会って相談に乗ったことがあり、嫉妬で疑心暗鬼になったちづるが壊れかけた過去があるため、荒城は尚更用心深くなったのだった。

ただ、初めは身勝手と憤り聞いていたはずの鳥越の供述に、何故か否定し切れない共感のような感情が沸き起こり始める荒城。折しも荒城は北海道への異動が決まり、野崎瞳と別れがたい対話を重ね合ううち、そこに恋愛感情が萌芽したことに気づいてしまう。

妻がいて満たされている。妻を心から信頼し愛している。でもその妻でどうしても出来るほんのちょっとの空洞。そこを満たしてくれてるのが彼女。彼女だけ。他の女ではダメ。妻と彼女、二者択一の問題ではなく、両者が揃って初めて自分が完全に満たされ、意味あるものとなるのだ……

こんな男の身勝手な自己正当化の弁があろうか!
でも荒城は今の自分がまさにその状態だと思い至り、否定すればするほど深みにはまる苦しみを味わい、鳥越の呪縛に絡められるように突き進みそうになる…………

拘留タイムリミットの頃。最後の供述で鳥越ははっきり自らの口で
「僕は松谷紗菜絵さんを殺しました。N歩道橋の手すりから突き落として」
と語った。ので、荒城は殺人と起訴状を作成した。
が、その時も荒城は本当はまだ迷ってはいたのだ。紗菜絵も鳥越をまだどこか離れたいと思いながら忘れ去れなかった、末の、心神耗弱状態でもあった紗菜絵からの心中、もしくはCENSOREDだったのではなかろうか、と。
だとしたらCENSORED幇助罪ではあるまいか、と。

真相はわからない。鳥越の願いのままに、同調しかけた荒城がそう感じ、そう思いたかったのかもしれないし、実際鳥越が突き落としたのは事実かもしれないが、どのような紗菜絵の気持ちがあったものか知りようもない。

ただ、事件は上訴されず第一審通り殺人罪で懲役10年になり、荒城も野沢瞳とも連絡を絶ち北海道で妻と仲睦まじく相変わらず生真面目で堅物な検事として仕事をしているラストである。

ただし…鳥越の供述に浸かり、あるいは瞳との事で、恐らくもともと存在はしていただろうが気づかずいた空洞…一生気づかずいられたら平穏なままだったであろう空洞、に、気づいてしまった今は決して一生その虚無感を無いものにできないだろうと欠落感に耐える荒城の暗い描写で終わるラストに、なんとも言えない空寒さを感じた。

正直、女性は嫌な気分の読後感だろうなと思う。
あっという間に読めてしまう不思議な吸引力はあるのだが。

no.682
 

■ 湊かなえ
「白ゆき姫殺人事件(集英社)」 評価:★★★★★
Date:2012.11.22
とても怖かった・・・ホラーとかいう意味じゃなくて・・・リアル過ぎる怖さと言おうか・・・。

日の出化粧品会社の美人OLが惨殺死体で発見された。容疑者として浮かび上がったのは同僚の同期のOL。
と言う流れの小説で浮かぶのは刑事が出てくるミステリーなのだが。
この小説の凄さと怖さはそこじゃない。

まず、B級週刊誌の契約記者(というかフリーランスというか・・・その雑誌でラーメンのコラムを書いている男)が、元同級生の女性から電話をもらうところから始まる。理紗子は赤星に「しぐれ谷OL殺人事件の被害者は自分の尊敬する先輩で、とても人から恨まれる人じゃなかった、今日刑事から事情徴収を受けたけど計画的にめった刺しされて火もつけられて死んでいたらしい」と興奮して電話をよこしたのだった。赤星がそれに食いついて、ネットでその話題を持ちかけ、そこに大勢が群がってくる。

白ゆき、という商品名の石鹸が爆発的にヒットして売れた日の出化粧品会社。ネット上ではそこから、被害者の三木典子を「しら雪姫」と呼ぶのだった。そして理紗子がほのめかした、犯人は城野美姫ではないかということもそれとなくネットに乗せてしまう。
ネット炎上の経緯。やがて赤星がネットのそのサイトから去るまでの流れなど、すごくリアルで恐ろしい。
無責任な人々の推理思惑、勝手な煽り。

そして赤星は三木典子や城野美姫の周囲の人に聞き込み取材をして、事件の構図を作り上げ、それが週刊誌に記事になったのだ。

すなわち、見た目は麗しくても実は計算高く負けずきらいな三木典子が、つまらないことで地味な城野美姫に腹をたて、城野の恋人を奪ったものの、それを恨んだ城野に殺された、というストーリー。

なにしろ目撃証言やら城野の過去やら、何もかも城野犯人説を裏付けるようなものばかりで城野に不利なのだ。それをネットでも週刊誌でも暴かれ、それきり城野は行方不明。
ネットで勝手に口コミで広がる事件の話・・・相当に恐ろしい。そして本当にありえるリアル感が更に恐ろしいのだ。

真犯人は・・・意外といえば意外で、なるほどといえばなるほど一番この人だろうな、という人物。
ただ、そのサプライズがメインではなかろう。それ自体はたいした衝撃ではないのだから。

勝手に一人歩きして犯人として扱われている理不尽な恐怖。
噂、ちょっと個人的見解に走った意地悪な見解による推理、まことしやかに語られて、噂がまるで真実みたいになってゆく。

これ読んだらネットのブログなんかで本音をぼやいたりするのすら怖くなる・・・そんな、今のこのネット時代に切り込む感じがさすが湊かなえ!って感じの一冊でした。マスコミも信じたくなくなるな・・・。

no.681
 

■ 初野晴
「カマラとアマラの丘(講談社)」 評価:★★★★★
Date:2012.11.13
動物に心があるか・・・。人間のように、感情や知性ある思いがあるか・・・。

不思議なファンタジー仕立てになっているが、そのテーマは重い。

ある都市伝説的な噂があった。廃園となって荒れ果てている遊園地。夜に訪れると守人である青年に巡り会えることがあるという。彼は人間の言葉も動物の言葉もあまねく理解し、その遊園地の奥に秘密の動物の墓場を管理しているという・・・。彼に嘘はつけない。そして彼は嘘がきらい。彼の意にそぐわない者は彼と邂逅した記憶を消されてしまうという・・・。

噂を信じてすがる思いを胸にそこをおとなう者たち・・・。
そこには不思議な青年・・・自らを森野と名乗る美しい青年・・・墓守がいた。
彼は昼には決して訪れることができない不思議な丘を管理する。そして誰しもが彼に会えるわけではないのだ。
その丘は神話などになぞらえて、「カマラとアマラの丘」「ブクウスとツォノクアの丘」「ヴァルキューレの丘」「シレネッタの丘」と名づけられており、それぞれ墓守がそこに合うものを埋葬する墓なのだ。埋葬の方法は花葬・・・・花に埋もれて眠る動物たち・・・。

リサはハナの遺骨を持って訪れる・・・。ハナをここに埋めて・・・と。ゴールデンリトレバーと人間の悲しい絆。そして・・・読みながらわかる驚くべきどんでん返し的真相。読後涙がこぼれた。リサの思いに胸がふさがれた。犬だって・・・こんなに人間と同じ知恵と心があるのだ、きっと。本気でそう思えた。

そして刑事が訪れる。天才インコを捜してる、ここにいるはずだ、と。その刑事は息子を事故で植物人間にしてしまい、妻とぎくちゃくしている。そして、最後の仕事と追っている強盗殺人事件・・・唯一の目撃者の生存者は被害者の飼っていた人間の言葉を理解し、人間の言葉を使って会話できるという天才インコのリエルだった。ところがリエルは現場から逃げ去ってしまっている。なんとしても見つけたい。刑事の執念の単独行動だった。これもちょっと悲しくも驚きの事件の真相が。インコを実際飼っている身として、ちょっと胸打たれる感じがした。

そしてビッグフットという幻の動物を埋葬してくれと遺体を運んできた夫婦・・・。化け物は人間の臓器移殖のためだけに生み出された声帯も持たない動物・・・。でも最後に墓守が彼の心があることを、夫婦に告げて・・・化け物であるビッグフットは初めて意志を見せたのだった・・・。

ある浮浪者がクマネズミの遺体を持ち込むのを尾行して一緒に墓守の前に辿り着いてしまった若き弁護士・・・。ところがここでも驚くべき真相を知り、弁護士の気持ちに変化が・・・。

最後、少年はかわいがっていた犬を求めて墓守の元へ・・・。両親に内緒で保健所で処分される寸前のライカという犬を盗みだした。両親に内緒だから飼えないで、空き地でこっそり面倒を見ていた・・・。挙句自分が大事故にあい、犬を放置せざるを得なかった・・・。謝りたかった・・・。挙句死なせてしまったライカに。墓守は、かつて少年が保健所であった耳の不自由な青年だった。何故あの人が墓守になっているのだろう・・・。少年は天才インコを捜して訪れた刑事の事故にあった息子だった。墓守の森野は少年に諭し、少年は父の姿と本当の思いを見て・・・自分の体に帰ろうと決意するのだった。

それにしても・・・ほんとに森野がどうして保健所職員から墓守になったのか経緯も何もわからないため、非常にそこが知りたくて気がかりなんだが・・・わからないまま終わるからミステリアスでいいのかもしれないな・・・。

動物だって人間を凌駕するほどの知恵や、そのくせ無垢な魂が、ある、と私も本気で思う。だからこの物語がこんなに心を打つのだろうと思った。

「人間も動物も同じ生き物だよ。肉を覆う皮が違うだけで」

「動物は宗教を持っていますか?動物と人間ほど怖がりじゃありません。飼いならされたペットは論外ですが、それ以外の自然動物はたとえ理不尽な運命でも受け入れるしかない過酷な環境で暮らしているのです。人間だけがあがいて、なんでもいいから生きる理由を必死で探しているんですよ」

no.680
 

■ 朝倉かすみ
「幸福な日々があります(集英社)」 評価:☆★★★★
Date:2012.11.01
森子46歳。祐一49歳。子供はいない。結婚生活十年目の元旦の日、突然森子が祐一に告げる。
「夫としてはたぶんもう好きじゃないんだよね」でも親友としてはすごく好きだよ。

きらいじゃない。でももう一緒にいたくない。一人になりたい。だから別れたい。
森子の気持ちはもちろん祐一に届くわけもない。納得できない祐一。
そして・・・話し合いは平行線のまま、森子は家を出て一人暮らしを始める。別居したのだ。

大学教授の祐一。性格も穏やかで、経済的にも苦労はまったくない。夫としては森子も百点満点だと思う。
でも、一緒にいたくない。もう。
きらいじゃないんだけど。

きっと誰にも理解できない。別れたくない夫と別れたい妻。平行線。結局別居は一年にも及ぶが、状態は変わらない。
帰ってくると信じてる夫と、もう二度と戻る気は無い歩き初めてしまった妻と。

でもタイプはきっと正反対だった。だから惹かれたのかもしれないし、だから息苦しくてイヤになってしまったのかもしれない。

森子の気持ちは私にも理解はできない。

でも森子の気持ちは森子のものだ。そして・・・どこか理解できないながらもどこか共感してしまうような気にもなるのだ。

この小説は新婚時代の森子が祐一が好きでラブラブだった頃と、今現在の森子の生活の様子とが交互に書かれている。

つまり。森子はとっても無理をしてたんだってこと。喧嘩もしたことないってのは、仲がよかったんじゃなくて、森子がいつも祐一を喜ばせたくて、祐一が幸せそうに心地よさそうだとうれしくてたまらなくて、気づかず懸命にあわせていたからじゃないか。
ラブラブな新婚時代は、それがまた幸せだったろう。とっても満足感があってよかったんだろう。
でも・・・もう十年たった。これがずっと続く。

疲れたんだよ、きっと・・・。

ちょっとした価値観の違いとか、相手の言動に感じる不快感とか、その場で出せていたら違ったのに・・・。

好きだから我慢して、それでよかった。
今も好きだよ、でもね・・・。

「初めて一人暮らしをしてみて、こんな生活がしてみたかったと気づいた。だれかに寄りかからないと食べていけないし、そのほうがらくだと考えていた。そうだ、わたしは自立したかったのだ。」

「わたしは確かに結婚したかったし奥さんをやってみたかった。あちらは申し分のない相手だったし、総じて気も合った。わたしとあちらは、幸福な物語の主人公だった。毎日ハレの日みたいで、わたしはたぶんちょっとずつ疲れたのだ」

「一緒に暮らしていくほど好きじゃなくなったんだよ。たまにどうしようもなく苛立っちゃってさ。とにかく離れたくなったんだよ。ひとりでのびのびやりたくなったんだよ。我慢できなくなって口に出したら離婚って話になって、自立って方向になったんだよ。」

結局、ラストまで落ちはない。二人が歩み寄るとか、ついに離婚するとか、全くない。まだどうなるかぜんぜんわからないままで終わる。

どうなるだろう・・・。
なんだか胸の遠くのほうがちりっと不安で痛くなるような読後感であった。

no.679
 

■ 近藤史恵
「シフォン・リボン・シフォン(朝日新聞出版)」 評価:★★★★★
Date:2012.10.21
さびれた田舎町の商店街。そこに突然開店したかわいらしいお店はなんとランジェリーショップ。輸入もののレースの優雅な下着や、カラフルで少しカジュアルな下着、そのまま外に出てゆくこともできそうなおしゃれなナイティ。場違いな店であったが、それでも惹かれるように訪れる客はいる。その人たちの人生模様は様々で、それが下着で何か変わる、そんなどこかふんわりした気持ちになれる物語。

・・・などと言うとふわふわっとした乙女チックな優しい優しい物語みたいに聞こえちゃうけど、そんなには軽くない。

初めにそのシフォン・リボン・シフォンを訪れたのは30代で親の介護の生活に追われる佐奈子。大きすぎる胸を親は眉をひそめていやがった。学校でからかわれて恥ずかしくて、大きな胸を押しつぶすブラジャーばかりつけていた。
まだ結婚しないのと親戚中に言われ、それもつらかった。
・・・・そして・・・・その店で胸を美しく包むおしゃれなブラジャーを初めて買った・・・。親に見つかり淫売のようだ破廉恥だとののしられた・・・。佐奈子は初めて自分の意志が芽生えるのを感じるのだった。それのどこが悪いの?私を今まで押さえつけていた呪いから解き放って、と。そして胸を張って歩くのだった。

次に訪れたのは同じ商店街で米屋を営む主人、ひとし。同じ商店街で挨拶に行ってランジェリーショップ店長のかなえと会うのだが、色気のない品のよい女性だったのにも関わらずどうしても下着など売る店に理解の感情が湧かないでいる。するとある日、息子がその店に出入りしていることを知り驚愕する。まさかかなえと恋愛なんてこと?!あんな年上の女に?!ところがもっと意外な真相が隠されていた・・・。ひとしは息子のことをようやく理解できたことに、この店が大きく関わっていたと思って感謝するのであった。

そして・・・かなえ自身の人生。厳格な教職家庭で育ち、でもかなえは教師になる気はなかった。下着が好きで、そんなお店を持ち、親から独立したかった。がむしゃらに働いて、親の反対を押し切って、事業がようやく軌道にのって成功し始めたとき、癌を発病した。若い後継者に店を任せ、通信販売担当専門として、実家のあるこの街に帰ってきたのだ。そして一応店舗も小さいながら設けた。母の言った一言がトラウマになっており許すことはできないが、それでも倒れて介護の必要になった母に寄りそうのだった。

そして・・・最後の章は。上品な身なりの老女。資産家のようで、自慢話を優雅に語る。そして決して安くないかなえの店の下着やパジャマを注文しては、キャンセルする、を繰り返す。どうも昔は華族だったが今は落ちぶれて平凡なサラリーマンの息子夫婦と暮らしているらしく、あちこちで同じ問題を起こしているらしい。軽い認知症もあるようだ。かなえは自分の母を思う。そして自分が接客をする意義や意味を思い出すのだ。

命ってものだったり、親との確執だったり、実はテーマは重たい。重たいけど、美しいレースやリボンの下着を想像すると読み手はまるでそこを訪れた客たちのようにどこかほっとして、かなえの笑顔に癒されるような気がする・・・だから優しい一冊と感じるのだろう。

私もすっかり下着には構わなくなってしまったけど、またちょっと素敵な下着を自分のために買ってみたくなった。自分のために。きっとそれを身につけるだけで幸せを感じるだろううから。

「鏡を見ながら思う。どうしてきれいなものを身に着けると、少しだけ自分が大事にされてるような気がするのだろう」

「『ねえ、どうしてかしら。私きれいな下着を身に着けると、自分がとても大切に扱われてるような気がするの』
 『それは当然ですよ。だって、あなたがあなたを大事に扱ってあげているんだから』」

「許す許さないなんて、実を言えばそんなに重要なことではないのだと思う。人は縁がなければ生きてはいけないし、身内というのは一番最初で最後の縁なのだと思う。ただそれだけだ」

「一部のお金持ちや下着好きの人にとってはこの店にある下着も必需品で消耗品だし、その人たちがいなければ店はやっていけない。だが、普段はもっと手頃な値段の下着をつけている人が、たまにこの店を訪れて買っていくものにはもっと違う意味がある。男性のためやCENSOREDのとき見せるためだけだと思わない。官能的なだけの下着ならば、安く売っている。普段、下着を目にしていない男性にはたぶん違いはわからない。それがなんなのかは、長年下着を売り続けていても、わかるようでわからない。自分だけの楽しみだとか、女に生まれた喜びだとか、無理に名前をつけようとしても、大切なものはそこから零れ落ちていく。下着を見て、楽しんで帰っていくなら、いくら冷やかしでも構わない。」

no.678
 

■ 小池真理子
「二重生活(角川書店)」 評価:☆☆★★★
Date:2012.10.15
とどのつまり、ストーカーを文学的哲学的美学のもとに於いて目的などなく行っている女子学生が主人公の、なんというか・・・そういう物語なのだ、としか言いようがない・・・。

篠原教授の講義で、ジャン・ボードリヤールの書籍から、ある試みに文学的かつ哲学的に惹かれた珠という女子学生。親からの仕送りで仕事もせずに暮らしており、卓也という彼氏と同棲している。卓也はほんとはイラストを生業としたいのだけど、それだと収入が足りないのである大御所女優の運転手の仕事をしているのだが、マネージャーより頼りにされてしょっちゅう呼び出されている。でもやきもちなど焼かない。それがよい距離感で長続きするこつなのだ。
珠はかつて年上の妻子ある男と不倫して深く愛し合っていたが、胃癌で亡くなって以来、どこか心が空虚である。
それが、ジャン・ボードリヤールの「尾行」の哲学に触れて、それを真似たくなったのだ。

尾行のターゲットは誰でもよかった。たまたま珠の住むマンションの向かいの家に住んでいた40代の編集部長の石坂という男にふと目を惹かれ、気まぐれに突然尾行を開始する・・・と、すぐさま石坂の不倫相手との逢瀬に行きあたってしまい、尾行は深みを増してゆく。やがて不倫がばれて妻が飛び出してゆく様や、石坂が不倫相手と喧嘩しながら食事している様など、あらゆる場面を近くでこっそり尾行して記録する。

一方そうしているうちに、卓也が女優と異様に密接している気がして、もしかして男女の仲なのではと思い始める・・・そう気づいてみれば、今まで見ぬふりをしてきたあれやこれやがすべて腑に落ちるのだった。

やがてストーカー行為は終焉を迎える。なんと石坂にストーカー行為がばれてしまったのだ。
おかしな成り行きで石坂と食事することになった珠。

尾行はばれてしまった地点で意味を成さなくなる。だからもう、この行為はもう終わりを告げたのだった。

石坂との姿を見た卓也がやきもちを焼いてくれたのを見て、珠は自分の疑心暗鬼も幻だったことを知る。しかし・・・・。

珠の日常はやはりどこか空虚なのだった。そして・・・またぼんやり電車に乗っていたとき、ある美しい30代くらいの女性に心惹かれる。そして・・・尾行を開始するのだった・・・。

・・・と、まあ。こんな具合だ。端的に言ってしまえば。

私には何の関係もない、それまで何の接点もなかった人の尾行を、そこまで根気よくする心情が、いくら哲学的だ文学的だと大義名分を並べられても到底理解できないし、感情移入がうまくできなかったせいか、どうしても同調して入り込んで読むことができなかったのだが(だからどうもリアリティが感じられなかった)ただラスト近くの文章、珠の心情、には、少し何故か心が動かされたので書いておこうと思う。

「人は戻ることはないのかもしれなかった。戻ったように見えても、実際には、以前と異なった地平に向かって歩き出しているのであり、厳密に言えば、それは戻ったことにはならない。珠は自分の中に生まれた、そこはかとない虚無感のようなものが、日々時間を追うようにしてふくれあがってくるのを感じていた。何かが充たされなかった。すべてが退屈だった。実際にはすべては充たされていて、人生はまだ始まったばかりであるにも関わらず、珠は時折このまま何の秘密も持たずに、凪いだ人生に身を委ねて生きていくことは耐えがたい苦痛である、と感じた。それはある種の倦怠感に近い感覚でもあった。早くも珠の人生には、生きていく上で意外にも厄介な倦怠感が頭をもたげ始めているのだった。」

no.677
 

■ 西加奈子
「ふくわらい(朝日新聞出版社)」 評価:☆★★★★
Date:2012.10.11
西加奈子さんらしい不思議な味わいのある物語。

マルキ・ド・サドをもじって父が名づけた鳴木戸定(なるきど さだ)25歳の女性編集者。
紀行本作家で旅してばかりいた変わり者と言われていた父。都会ではなく未開の地を好んで、たまに学校を長く休ませ幼い定を旅に連れて行った。葬儀儀式で亡くなった人を焼いて肉を喰う民族に混じって、まだ幼かった定も人肉を食べさせられた。また土地土地の女性性器の形状についても研究しており、とにかくモラル的にも変人扱いされていた父。

その影響を色濃く受けたのか、定は人とのコミュニケーションが下手で、唯一の趣味は暗闇で一人でふくわらいをすることだったのだ。

定が担当する作家はやはり癖のある人ばかり。そしてそんな定がある日まわされた極めつけのややこしい作家は、プロレスラーをしながらマニアックな文章を連載している守口廃尊(もりぐち ばいそん)だった。鬱病気味で支離滅裂な発言をして勝手に切れる廃尊だったが、定は惹かれてファンになる。何となく理解できるような気がするのだ。

そして・・・街で偶然出会ったイタリア人とのハーフで盲人の武智次郎。次郎は定に(見えないのだが)一目ぼれしたと猛アタックをする。
定の気持ちに徐々に変化が。

編集部で同僚の美人な小暮しずく。彼女ともひょんなことから交流が始まり、この一見とんちんかんなくらいそぐわない二人が親友になってゆく。
友達・・・25歳の今まで知らなかったこの味わい。定の気持ちに徐々に変化が。

そして。廃尊のリングをはじめて見た定。負けた廃尊のマイクを通すみんなへのメッセージを聞いて、定は号泣したのだ。父が死んでも母が死んでも泣かなかった。泣けなかった。悲しく感じられなかった。定が。

それから周りが気づくくらい定は感情を表せる女性に。次郎への恋にも気づく。これが恋だったのかと。

自由なのだ。私は私、何でもあふれ出るのだと。幸せを噛みしめる定。不思議な高揚感のあるラスト。

「悦子も死ぬのだ。いずれ。日本で死んだら速やかに焼かれるのだろう。自分の母親のように。悦子が焼かれたら、あれだけふくよかだった体が骨だけになるだろう。少し黄色がかった白い骨になるだろう。私はそれを口に含むだろううか。テーの骨を私は食べるだろうか。いや、食べないだろう。食べない。きっと食べない。私は泣くだろう。だって悲しい。私は、こんなにも悲しい」

「定は泣いている。悦子が死ぬと悲しい、定は泣いている。赤ん坊としてこの世に生まれて以来、初めて、こんなに大声で泣いている。でももう驚かない。私からは何だって出るのだ。そう定は思っている。何だって溢れる。私の体からは、私からは。」

「定は世界に恋していた。目に入るもの、耳に飛び込んでくるもの、唇を撫でるもの、すべてが眩しく、そしてくすぐったかった。今定は世界をこれ以上ないほどクリアに見ていた。定と世界の間には、お互いを隔てるものは何もなく、そしてそのことがまた定をくすぐったい思いにさせるのだった。それを恋というのなら、こんなに美しい感情はない、と、定は思った」

no.676
 

200/200件 [ ページ : << 1 ... 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 ... 20 >> ]

- HOME - 新規投稿 - お知らせ(3/8) - 記事検索 - 携帯用URL - フィード - ヘルプ - メール - 環境設定 -

Rocket Board Type-X (Free) Rocket BBS