読後。ただただ恐ろしい。
これは任藤俊実という男のことをある作家が調べて聞いた話をまとめた本・・・という設定なんだが、もうただただ、この任藤という男が・・・ほんと得体が知れなくて本気で恐ろしい。
まず、ある母子の死があった。水遊びしていて溺死したらしい。事故とかたづけられた。見つけたのは夫であり父である任藤俊実。失意の遺族は人々の同情を誘った・・・かのように思われたが・・・一転、任藤が妻と子を殺した容疑で逮捕されたのだった。 葬儀を何故か急いだ任藤だったが、葬儀社が混んでいて荼毘に付すまでに3日かかったこと。これが分かれ目だった。 その3日の間に、目撃者が殺しの現場を目撃していたのを警察に伝えたのだった。 そして・・・DNA鑑定で妻の爪の中にあった肉片が任藤のものと一致、そこに至って否認していた任藤もついに観念したのか殺したことを自白したのであった。
なにが驚愕だったかというと、任藤が妻子を殺した動機が「大切な本の置き場所が無くなって、妻子が邪魔になったから」という常識では理解できないものだったこと。 そして・・・なにより、どこからどう調べても任藤という男は評判がよく穏やかな人間で、周り中「なにかの間違いでは・・・。任藤さんがそんなことをするわけがない」とクチをそろえて言うのであった。
そう、自供した今でも穏やかに微笑みながら語れる人間なのだ。 背も高くハンサム、高学歴、会社でも有能でエリート、部下からも上司からも女子社員からも慕われもてて、それでも妻子が大事で言い寄る美女にもやんわりと距離を置ける、本当に非の打ち所が見当たらない男。
なのに。
本の置き場所が無かったら妻子を悩まず殺せる感覚の男。
作家である主人公の男は周囲や過去の関係者から聞き込みを行う。 ・・・たまに、ほんとたまにちらっと慧眼の持ち主のような部下から任藤の本当は恐ろしいかもしれない本性のようなものの気配を感じる供述があるくらいで、あとはほんとに隙が全くない。完璧な男。
だが・・・過去にさかのぼるにつれ・・・少年時代からやはり優等生で人気のある愛される存在であったのだが・・・不審な死が周囲にちらほらあったのがわかってくる。 みんな事故死。でもちょっと変・・・。しかしあるわけがなかろう、と周りが見ようとしてこないままだった真相。
だって。 「部下に卑怯なことをするからむかつくってだけで、自分に何の損得もないのに先輩社員をCENSORED?無視して過ごせばいいだけなのに、CENSORED?CENSOREDなんてリスクを払うほと憎いわけがない。ただむかついただけでCENSOREDなんてナンセンスだろう」 「学生時代、ゲーム機が欲しかっただけで友人をCENSORED?ありえない。入手困難だったわけではない。単に買いに行くよりCENSOREDほうが早く手に入るってだけで、そんなことでCENSOREDなんてあるわけないだろう」 「隣の犬が怖くて邪魔だったからって・・・犬には怖くて手を出せないから人間である飼い主をCENSOREDなんて・・・そんなことまでして隣を引越しさせたいなんて、そんなこと子供の頃にするわけないだろう」 ・・・誰だってそう思う。そんなことでCENSOREDわけないだろうよって。 でも任藤は言ってるじゃないか自分で。 「本の置き場所が無くなって、妻子が邪魔になったから殺した」って。
・・・ぞっとする。 そして、小学校の低学年の頃。ショウコというクラスメイトの父がやはりおかしな事故死をした事実に行きあたる。 この事件こそが任藤の「初め」ではなかったか。ところがショウコという女を突き止めたのはいいが、これまたおかしな言動に振り回され・・・結局本当の真相は闇の中でラストを迎える。
でも、誰しも読んだ人は思うはずだ。 このショウコという女(当時は少女であっただろうが)が・・・「初め」を任藤に植えつけた張本人ではなかろうか、と。
何故ならショウコは任藤と同じ、穏やかな何を考えているかつかめない静かな微笑みを口元に浮かべる人間だったからだ。
にこやかに穏やかに微笑みながら・・・人を殺せる人種は、きっと・・・恐ろしいことに本当に実在するんだろうな、と思う。
ああ・・・ほんとに恐ろしい一冊であった。
no.675
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