紙魚という本を食い荒らす小さな虫を干すことを虫干という。 が、たまに名作と言われる小説の中身が変わってしまう事態があり、それは話虫というもののせいなのである。昔から伝わる名作がある日読み直してみると全く違う展開ストーリーになっているのだから許せるものではない。 それを元通りに直すのが話虫干という作業だ。自らがその小説の中の登場人物となり、流れが変わってゆくストーリーを元の通りに導きなおしてゆく。
今回の小説は夏目漱石の「こころ」。有名で私も学生時代に三部作として読んだし、結構好きだった。その物語を知ってから読むとすごくすごく面白く、自分がその小説の中の主人公たちと知り合いになったり関わって操作して、しかも話虫である犯人を小説の中で捜すというのが実に実に夢があって読書好きな人にはたまらないだろう。 憧れであるから。大好きな小説の登場人物の一人になることなんて。
しかし、「こころ」の中で、Kである桑島の妹の京子とやらが一緒に下宿することになったり、エリーズというロシア人の美少女がお忍びで来日したのを主人公たちが面倒見ることになったり(エリーズは森鴎外の小説に出てくる人にそっくりなのである)夏目漱石が先生として登場してきたり(笑)挙句ラフカディオ・ハーンまでが大学の講師として登場してきて・・・ある意味しっちゃかめっちゃか。しかも京子やエリーズという女性が原作と違って絡むことで、Kと主人公トナカの静さんを巡る恋のあれこれがなくなりかけて、つまりKがCENSOREDしないだろう方向へ向かってゆくストーリー。
話虫干の使命を受けて彼らの親友として小説に紛れこんだ糸島肇は、彼らと仲良くなるうちに、桑島(K)をCENSOREDさせるのがつらくなり、違う方法で話虫干をしようとし始める。さてその方法とは・・・。 そしてそして・・・結局、今回の話虫の犯人はしっかと確定できなかったが、意外な人物の名前が出てきて、そこも面白かったな。犯人はたぶん、あの詩人・・・蟹とたわむれて貧乏だったあの詩人。漱石に傾倒して憧れ、でも実生活はわりに不幸だった漱石を幸せにしたくて、しかも「こころ」に於いてKをCENSOREDさせるという悲しい結末にしたくなくて・・・。そういう動機の悪気ない魂。
でも名作は損なわれてはならない。
結果、なんか面白い終わり方をしていて、で、納得できて、きちんと「こころ」は守られて・・・・糸島や登場人物との友情もなんとなんと切れずにいて・・・。
読後感最高!大好き!いいなぁ・・・私もこんな大好きな名作の中に入り、ちょっとしたノスタルジックな世界で大好きな登場人物たちと交流してみたい・・・。
引き込まれ、続編出ないかなぁなんて思わせる、久しぶりに浮き足だった小説。
no.664
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