*Book review

■ 湊かなえ
「サファイア(角川春樹事務所)」 評価:★★★★★
Date:2012.07.04
宝石になぞらえて人生を描いている。そういう短編集だ。宝石はきらびやかで美しいけど、きちんと花言葉みたいに意味があったりもして、そこらへんも意識してるのかも・・・。

「真珠」「ルビー」「ダイアモンド」「猫目石」「ムーンストーン」「サファイア」「ガーネット」の7編。

「真珠」はある放火魔の女性の独白的な会話からある謎が紐解かれてゆく様が見事。ただのたぬき顔のおばさんの情緒不安定と思わせてどうやら潜んでいるどんでん返しな真相に、え!と思うところで終わる。真珠のような美しい歯だけは、変わらずいたのだ・・・というところがなんともはや。
「ルビー」もほのぼのした新設老人ホームのどうやらお金のある孤独な老人と、その隣接地で花や畑を育ててる家族との交流・・・と思いきや。ああ、そういう真相が・・・と、やはり最後に驚かされる。
「ダイアモンド」は雀の恩返し、なのかな。でもなんだかちょっと切ない。ダイアモンドを羽にはめて、雀は天国行けたかな・・・。
「猫目石」はお隣の猫から始まるちょっと不穏な空気の物語。誰にでも秘密はある。家族同士だって。もしかして家族なんて秘密をそれぞれ持っていてかくしたまんま生きてくものなのかもしれないななんて少しぞっとした。ラストもね、なんか怖い。
「ムーンストーン」ぶっちゃけこれが一番好きだったな。どんでん返しもあって驚いて読み返したけど、好きだと感じたのはそこじゃなくて、なんていうのかな、友情?中学時代の友情がまさに花開き実を結ぶ感じの感動がある。これ・・・一番好きだ。
「サファイア」と「ガーネット」だけが連作になっている。サファイアを恋人から贈られた主人公。でもその指輪は事故で死んだ彼の遺品の中にあった。自分が指輪を欲しがったせいで彼が死んだと思い込んだ主人公が、やがて小説家になって、救われてゆく物語とでもいおうか。サファイアとガーネットという宝石が、物語のキーのアイテムとしてとても活かされてるところがすごい。そして・・・ちょっと切ない感じがまたいい。

湊さんてすごいね。短編でもやはりすごい。宝石の美しさだけでなく、独特の怖さ?みたいな輝きも思い出さずにいられない、そんな感じ。
さーっと読めて面白いから(長編ほど重苦しさも少ないし)オススメだな・・・

no.654
 

■ 三浦しをん
「天国旅行(新潮社)」 評価:★★★★★
Date:2012.07.03
心中をテーマにした短編集、7編。
テーマがテーマなだけに切なく重苦しい空気が漂う。でもなんだかいいなぁって思う。三浦さんならではのマジックかな。どれも心にしん・・・と響き、残る。静謐な感じがする。そういう一冊。

「森の奥」は人生に絶望してCENSOREDしようと樹海に入って首をくって失敗した主人公の男が自分の息子ほどの謎めいた男に拾われて樹海の中を一緒に彷徨ううち、その若い謎の男の命を救いたいと思う、なんだかじわっとくる物語。気づいたらその若い男はどこにもおらず、果たして現実にいたのかどうかもわからないような、確かにいて命を救ってもらった痕跡があるのにその男の行方はわからないままだ。まさかあのあと一人でどこかで命を絶ってやしまいか・・・いや、彼はきっと生きている・・・読者である私もそう心から願ってしまった。

「遺言」身分違いの恋をして、周りの大反対を押し切って一緒になった二人。でも歯車は狂ってきたのか・・・あの駆け落ちした時に心中すればよかったと君は悔いているだろうかと私は遺言を書いている。遺言というより告白というべき文面だが、確かに文の最後は遺言になっている。「私のすべては君のものだ。君と過ごした長い年月も、私の生も死もすべて。」と。

「初盆の客」ちょっと不思議な・・・どういうのかな、幽霊譚?ウメおばあさんが愛していたのは誰だったのか・・・。でもその答えはどちらでもいい。二人とも愛していたのかもしれない、本当に。そしてウメおばあさんの息子は粋なはからい?をして孫を幸せに導いたのだ。もう生きていないはずのウメおばあさんの息子、緑生さんが。

「君は夜」生まれてからずっと同じ夢を生々しく見てきた理紗。お吉という女として小平という男と駆け落ち同然貧しくつましく逃げて暮らしているという江戸時代の夢。前世かもしれない。心中するところで終わるが、もしかして小平は裏切って、自分だけ死なずに暮らしていたような気もするが、でも小平を愛して信じていた。理紗は現在この今世で妻子ある男と不倫に陥った。きっと小平の生まれ変わり。やっと一緒になれる・・・と言い聞かせて。

「炎」亜利沙の憧れの先輩がある日校庭で灯油をかぶり火をつけてCENSOREDした。壮絶な死に方。先輩とつきあっていた初音という美しい同級生。亜利沙お二人で先輩のCENSOREDの原因を探すことに。ようやく見つけた先輩の遺書には驚くべきことが書いてあり、二人でその当事者である社会教師に体を張った抗議をする・・・。しかし今亜利沙は思う。もしかして自分は初音にだまされたのかもしれない。社会教師と関係があったのは初音で、振られたのは初音でなく先輩で・・・違うだろうか。答えはたぶん永遠にわからないだろう。でも亜利沙は初音を信じたくも思うのだ・・・。

「星くずドライブ」死んだ彼女が幽霊となってずっと自分のそばにいる。無邪気に笑ってすねて泣いて、生前と同じように。触れることはできないし、他の人からは見えてないようだが、死んだ彼女の死因を知り、遺体を見てもなお・・・僕は彼女がそばにいるから他の子は愛せない。逃げたいと思うし、逃がしたくないとも思う。

「SINK」一家心中の唯一の生き残りとして育った悦也。幼馴染の悠助と共に働いている。悠助は結婚して家庭をもってもずっと悦也を心配してそばにいる。明るくて面倒見がよくて・・・悦也は逃げたくて仕方ない。誰の事も愛せない。一人がいい。決定的な言葉を投げつけ悠助を突き放す。でもそのあと・・・悠助が紹介してくれた女性から告白され、断ったとき、彼女から言われた言葉で少し進むための光を感じる。「もしかして日高さんのお母さんは、日高さんを車の外に押し出そうとしたのかもしれません。つかんだのではなく。そういう可能性もあるんじゃないですか」
・・頑張れ。悦也。まだ取り戻せるよ。そう思ってラストを読んだ。

no.653
 

■ 高野和明
「ジェノサイド(角皮書店)」 評価:★★★★★
Date:2012.06.28
やっと手元に来ていまさら読んだ。正直こむずかしそうなSFと言う先入観もあって、あまり期待してなかった。本屋大賞になっていたよね?確か。だったらはずれはないだろうけど、そう私好みではないだろうなぁとか。

いやいやあなた!(笑)それがめちゃくちゃ本当に評判どおり面白くて。こんな分厚いのにあっというまに引き込まれて読破してしまった!!
なんと壮大なテーマ。まぁSFといえばSFなんだけど、それにしても。

人類vs超人類っていうのかな。いわゆる突然変異で生まれた「進化した人類」。まだもちろん出現して確認されたばかりなのだから、子供なのだ。子供だけど知能の高さは人類を軽く凌駕している。見た目も異形。頭が大きい。その知能の高さゆえの脳の大きさを象徴しているかのように。

ナンセンスだろうか。ありうるんじゃないか?
アメリカ大統領のバーンスは人類への脅威となるだろうその超人類の子供(ヌース)の抹殺作戦を秘密裏に指示していた。

平行して肺胞上皮細胞硬化症の瀕死の子供患者を救うべく研究者の矜持も書かれている。その病は現代医学では治療不可能とされている。特効薬でも奇跡的に出ない限り。いつか未来にできるかもしれないが、そんな未来まで瀕死の子供患者は生きて待てない。・・・古賀研人という一人の薬学部大学院生が父からいやがおうなしに引き継いでしまった命掛けのミッション。限られた短い期間でその新薬を完成させよというもの。そこには父の遺した人類では作りえない創薬ソフトの入ったパソコンが。韓国人の留学生の親友と一緒に解明にとりかかると途端に警察やFBIに命を狙われる羽目に。

一方ヌース抹殺のため赴かされたイエーガーは、結局ヌースを保護し、無事逃がすことに加担する。

研人は薬を間に合わせられるか?イエーガーは命を保ったままヌースを護りきれるか。

読んでてあまりのスリルにどうしても読み止めることができない。

人類の叡智を超えた超人類の誕生。突然変異。叶うわけがない、旧タイプは。・・・深すぎるテーマ。これは読み応えがありすぎて読後放心してしまうこと請け合い。

「人類の進化が起こればほどなくしてわれわれは地球上から姿を消す。北京原人やネアンデルタール人と同じ運命をたどるのである。」

「恐ろしいのは知力ではなく、ましてや武力でもない。この世でもっとも恐ろしいのはそれを使う人格なんです」

「私は人間という生物がきらいなんだ。すべての生物種の中で、人間だけが同種間の大量殺戮(ジェノサイド)を行う唯一の動物だからだ。それがヒトという生き物の定義だよ。人間性とは残虐性なのさ。」

「歴史学だけは学ぶな。支配欲に取り憑かれた愚か者による殺戮を、英雄譚にすり替えて美化するからな。」

「進化した存在からすれば、人間は哀れみを誘うほどのちっぽけな知力しかもっていないのかもしれない。あるいは眉をひそめさせるほどの野卑な心しか具えていないのかもしれない。しかしそれだけが自分たちに与えられたすべて・・・生物進化の途上で獲得した精一杯の能力なのだ。せいぜい頑張ってこの不完全な脳に磨きをかけ、あらゆる困難に立ち向かっていくしかないのだ」

no.652
 

■ 角田光代
「紙の月(角川春樹事務所)」 評価:★★★★★
Date:2012.06.24
このストーリーは、まぁおおまかに言ってしまえば、ある真面目で地味でピュアな普通の銀行契約社員として仕事もよくできた主婦が、ある若い男に貢いで顧客のお金を横領して、逃げてしまった・・・という。

そういうと聞いたことあるような事件で、しかも俗っぽく聞こえて身も蓋もない。
が。この本にはその当の犯人である梨花、元クラスメイトの岡崎木綿子、かなり昔に清い交際だったが梨花とつきあったことがある山田和貴、料理教室で知り合った中条亜紀、この4人が交互に、それぞれの目線
でこの事件について感じたり考えたり行動したりする様子が書かれていて、それがものすごい深みを出している。

そして、平凡な主婦なら、なんかね、木綿子あたりにはものすごい共感できちゃったりしてね、そうするとどこか、梨花に対する思いの馳せ方も共感できるというか。
そう、和貴も木綿子も亜紀も・・・みんな梨花に批判的でも嘲笑的でも同情的でもない。どちらかというと・・・かつて知ってた梨花の姿に、どういう思いでこんな大罪を犯してしまったのかとつい自分の日常にも絡めながら考えてしまうのだ。
みんな・・・別に犯罪こそ犯してはないが、人生うまくいってなかったり、それぞれ家庭の悩みがあったりして苦しんでいる。

木綿子はお金に振り回されたくなくて節約しすぎて家庭がぎすぎすし、亜紀は買い物依存症で家庭が崩壊したし、和貴の妻も買い物依存症の借金で離婚する方向にいってしまっている。

梨花は・・・正義感の強かったまっすぐなあの梨花は、どうしてお金をこんなに必要としたのだろう・・・。でも確かに・・・お金さえあれば・・・。

梨花の章が一番悲しい。優しいけど冷たい・・・。非の打ち所は具体的にないのに、埋まるどころか空洞を広げてゆく夫。
そこで出会った大学生の光太。純真でまだ子供で、だから梨花は頼まれたわけではなく、自分の気持ち、自分の意志でどんどんお金を貢いでいった。それはひいては、自分の空洞、自分の生きてる証のようにも感じられるから・・・。

深みにはまっていく。堅実で真面目だった梨花が、歯車くるって堕ちてゆく有様は、本当に痛々しい。そのまま行ったら確実に破滅しかない道を猪突猛進につき進む様が。

「少し高かったけれど、でもいいわよね。今までずっとスーパーでも買える安物の化粧水と乳液で過ごしてきたんだもの。十代の頃はそれでもよかったかもしれないけど、三十代になったらまともなものを使わなくちゃ。それに正文のお金で買ったわけではない。私が働いて得ているお金で支払ったんだもの。これくらいの贅沢をしてもぜんぜんかまわないわよね。梨花がめまぐるしく考えたことは、思ったより高価だった買い物への言い訳だけだった。そののち、この残暑厳しい蒸し暑い一日を何度も思い出すことになるとは、想像すらしなかった」

「お金というのは、多くあればあるだけ、なぜか見えなくなる。なければつねにお金のことを考えるが、多くあれば、一瞬でその状態が当然になる。百万あればそれは一万が百枚集まったものだとは考えない。そこに最初からある、何かかたまりのようなものだと思う。そして人は、親に庇護してもらう子供のように無邪気にそれを享受する」

「だれか、私のしていることを見つけて。梨花は手を止めて繰り返す。お願い、見つけて。誰か私を暴いて」

「今私が味わっている、途方もなく馬鹿でかい自由は、自分では稼げないほどの大金をつかった果てに得られるものなのか、それとも帰る場所も預金通帳もすべて手放した今だから感じられることなのか」

no.649
 

■ 井上ひさし
「言語小説集(新潮社)」 評価:☆☆★★★
Date:2012.06.14
なんというか・・・ものすっごく頭のいい人が知的な空気をまといながらはちゃめちゃでコミカルな短編小説を自由に書いたらこうなるんだろうなぁって感じがする一冊だった。

「括弧の恋」はワープロの文字以外のキー、すなわち!とか?とか「」とか()とか{}とか・・・すべての記号たちが意志を持って喧嘩して討論してる。「っていうのは男性で、」ってのは女性ということらしい(笑)。」は「に恋をしてるわけだ。で●はいばりくさってて、■もいばりくさってるわけだが、そんな彼らを/が一刀両断して▲にしちゃったり◆にしちゃったりして、とにかくしっちゃかめっちゃかな内容だ。でも面白い。こんな記号にこんな意味が?!とかね、勉強になっちゃったりして(笑)。

「極刑」も脚本家が屁理屈の理論でかためられたおかしなセリフをいわされた女優の悲劇というか(笑)。まぁ頭のいい人が書いた漢字がむんむんする。たとえばその脚本家がいうセリフ。「人間を肯定してどこが悪い?なぜ『よい』と『悪い』はgoodとungoodで表現されるのか、どうしてbadとunbadでないかわかるか?もっと抽象度をあげて言えば人間は、goodを基準に、ということは肯定を基準に『よい』『悪い』を表現するわけだよ。だからungoodはあるがunbadはないんだな。幸と不幸にしてもそうだ。幸という肯定的な状態を基準にして、幸ならざらぬ否定的な状態を不幸と称する。つまり人間の基準は飽くまで肯定にあるんだよ」

「言い損じ」はとにかく・・・笑える。ちょっとインテリな感じでものすごいコメディというか・・・。下手なコントみたいな駄洒落みたいな。でもそこにも理論だてた屁理屈があったりして。「ベーコンエッグ」を「エーコンベッグ」なんて言い間違いは誰にでもありそう。ちょっとラストの愛の告白のくだりは軽く感動的。

「五十年ぶり」は方言研究者の話。どんな隠してるつもりでも些細なイントネーションや癖で瞬時にその人の出身地を当ててしまう悲喜劇。これもちょっと面白いテーマだ。方言で奥が深くて面白いなぁ。ほんとにある学問かな。興味あるなぁ。

「見るな」もちょっとひねりがある。ある地方の言葉にマレー語の影響が感じられるっていう研究から始まるんだが、そこにはとんだオチがあった・・・というわけだ。学者ってこうやって調べるんだなぁ・・・。しかし言葉とは面白きものよ、とほくそ笑んでしまう。

「言語生涯」このタイトルは言語障害と引っ掛けてあるんだな(笑)。実はこれが一番読みやすくて、一番笑える。駅員さんがどうしても正しく物事が言えない病気に。構内放送で「大便ながらくお待たせしました、白線の内側に入りそのまましらばくれてお待ちください」てなもんだ。「お年寄りや生活の不自由な方に席を譲りましょう」「この先ゆれますので五十円ください」笑える!これを病ゆえにギャグじゃなくてマジで言っちゃうなんて・・・喜劇だけど悲劇?!

なんというか・・・げらげら笑えるとかミステリーみたいに引き込まれるというのと全く違うけど、ものすごくインパクトで心に残るって感じ。こんなタイプの小説は見たこと無い!一読の価値はあります。

no.648
 

■ 橋本紡
「今日のごちそう(講談社)」 評価:★★★★★
Date:2012.06.11
読むとお腹がすいてくる。おいしいものを誰か大切な人と食べたくなる。そんな一冊。そう、何かしら食べ物が出てくる。そしてそこに人生ドラマも。
なんと全部で23編も入ってる。それぞれ主人公が違ってる。そして・・・それぞれの事情や心情、人生、ドラマがある。どれもこれも・・・胸にいい具合に響き、出てくるどの料理も美味しそうで香りまでしてくるがする。

タイトルを羅列する。
「伊達巻」「伊勢風雑煮」「豆」「ごまかしのカルボナーラ」「アンコウ鍋」「花見弁当」「のり弁」「うどん」「トマト味の煮込み」「煮豆」「漬け物」「ポトフ」「オレキエッテ」「クロックマダム」「お好み焼き」「素麺」「味噌漬け」「ラタトゥイユ」「ホットコーヒー」「団子」「ココナッツミルクのカレー」「シャンパン」「ローストチキン」
ああ、お見事!それぞれの料理が登場する。それぞれの、それに関わる人のドラマがある。ほんわかするものから、物悲しいものから、わくわくするものから、ときめきあるものから、どきどきするものから、苦しいものから・・・・。

短いからあっさりしてるかっていうとそうでもない短編ばかり。どっぷり23編。

美味しかった・・・もとい、面白かった・・・。味わった、十分に。

人生ってさ・・・つらいことあっても食べられるうちは絶対大丈夫って気がするよね。美味しいってね思えるうちはね。

さてご飯食べようかな、そのためにはまず作ろうかなって、そう思いながらページを閉じるはず。誰しもが。

no.647
 

■ 窪美澄
「晴天の迷いクジラ(新潮社)」 評価:★★★★★
Date:2012.06.11
以前読んだ同作者の「ふがいない僕は空を見た」や「ミクマリ」がちょっと切ない中にも性描写がシュールにしてリアルすぎた記憶が強かったのだが、この作品は・・・・。期待をいい意味で裏切り、ほんとにラスト付近涙がだーっと流れてしまった。

4つの章で成っている。まず由人24歳。仕事の忙しさと盲愛していた恋人に振られたことが重なり鬱病となる。会社もつぶれそうで自分もつぶれそうで、ついに多めに薬を飲んで朦朧と夜会社に向かうと、社長の野乃花が練炭CENSOREDをしようとしているのに気づき・・・。(ソラナックスルボックス)

48歳の女社長の野乃歌はかつて貧しい漁師の家の娘だったけど、絵だけは天才だった。教えられてないのに絵を描かせると皆が目を見張って驚いた。でも貧しいから美大になど行けない。担任の先生の好意で無料で絵画教室に通った。その先生が政治家の息子にして画家くずれの英則だった。恋に落ちて英則の子を身ごもり高校生なのに英則と結婚して出産することになった野乃歌・・・育児ノイローゼになり子供を捨て単身東京へ逃げて会社を立ち上げたのだ。でもすべてを捨てて頑張った会社が潰れそう・・・育てられなかった娘への罪悪感と劣等感。CENSOREDしようと会社へいったら由人が・・・。(表現型の可塑性)

母親の異常な過干渉と潔癖症。縛られて育った正子。でもあるとき出会った双子の薫(男)と忍(女)が正子の中の何かを目覚めさせた。でも母から引き離され、その間に忍が病死して・・・正子はひきこもりのリスカ少女になってしまった。ある日ふらふら家から出て歩いていたら野乃歌と由人の車に拾われて・・・。(ソーダアイスの夏休み)

そう、3人は出会った。死のうとしていた3人が一緒に死ぬ前に「浅瀬に迷いこんで死にそうなクジラを見に行こう」と旅してきたのだ。壊れかけた3人が見つけたそれぞれの答えと未来・・・・(迷いクジラのいる夕景)

正直はじめの3章までは読んでてとてもしんどい。由人も、野乃歌も、正子も、絶望的なまでに孤独で逃げ場も救いもなさげで、死ぬしかないと思いつめるのが否定できない感じなのだから。
でもラストの章で。3人は一緒に行動する。クジラを見るため訪れた港町。親子という偽りで漁師の家にしばらく泊まる。
相手が死なないように気を使うそれぞれ。そして・・・そのことが何かを気づく光となるのだ。
呪縛から解き放たれていく成長ぶりは見ていてじーんとくる。

「(由人は)思わず自分の手を見る。やっぱりまだ何もやってない子供の手だ。父親の手も指も、節くれだって黒々と日に焼けていた。土地も家族のしがらみもなくてやりたいことやって、それでなんとなくCENSOREDなんて想ってる自分はやっぱりただのガキだ、と由人は自分を思う」

「由人くん死ぬなよ。絶対死ぬな。生きてるだけでいいんだ。」そうか、と由人はまた思う。悩む必要なんてなかったんだ。練炭CENSOREDしようとした野乃歌にも、リスカしている正子にも、そして薬なんてのんでなんとなくこの世からいなくなりたい自分にも「死ぬなよ」って。ただそれだけ、言えばよかったんだ」

泣けた泣けた。ラストは。3人とも、決して状況が明るく変わったわけでないのに、自分が変わったから、すごく希望に満ちて強くなる感じだから・・・。
読後感もすごくよかった。これはほんと・・・・オススメ。

no.646
 

■ 久坂部羊
「まず石を投げよ(朝日新聞出版)」 評価:★★★★★
Date:2012.06.03
作者は医学部卒の医師だけあって、今までも医療系の問題提起小説を数々書いては読者を衝撃の渦に巻き込んだものだが、この作品もご他聞に漏れず、いやはや衝撃的な医療の世界を暴いた小説であった。

今回のテーマは医療ミス隠蔽問題。
医療問題を追うフリーライターの菊川綾乃が取材に乗り出したのは外科医の三木達志。彼は自ら医療ミスを告白し患者の遺族に賠償金支払いを申し出た。究極の誠意と感じた菊川は意欲的に三木の取材に乗り出したがそんな菊川に舞い込んだ「あれは医療ミスではなく殺人だった」という三木の元妻からの手紙・・・。

医者の好き嫌いで患者が殺される?
こんな恐ろしいことがあるのだろうか。

菊川に立ちふさがる数々の問題・・・。不倫、CENSORED、テレビでの医師を使った禁断とも言える心理実験、そして墜落願望・・・。

三木は一体悪なのか限りなく善なのか、それは本当にラストのラスト付近までよくわからず不気味である。でも・・・それだけでなく、実際の医療現場、医療に携わる人たち、患者の知らない裏の世界でのリアルな描写は、十分それだけで何となく戦慄だ。

患者は医者に全幅の信頼を寄せて、オペの時は身をゆだねるのだから・・・・。

しかし、墜落の官能、というやつ、理解できるような気もしちゃうからなんだか怖くてぞっとする。

医師だって人間。人間だから弱い部分もあろうしずるくもなろうし魔がさすことだってあろう、なんてね、小説読む立場なら冷静に考えたりしちゃうけど、患者としての立場で考えると・・・冗談じゃないよ!!困るよ!頼むよ!ってな感じで。

究極の問題小説って感じ。やはり久坂部さんのは重たくてリアルで・・・いろいろ勉強になっちゃうな(笑)。

これ読むとドクターを見る目が変わってしまいそう・・・。

no.645
 

■ 藤谷治
「花のようする(ポプラ社)」 評価:★★★★★
Date:2012.05.26
40歳を過ぎて美貌の翳りを自覚する女優、野滝繭美。かつては時代の寵児と注目された大金持ちのデイトレーダーだったが今は無一文で無気力の桜田眷作。二人は惹かれあい、同棲している。一目ぼれとかそういう熱い情熱はない。でも落ち目の二人のこの出会いは必然と思えるものだった・・・。

仕事も忙しくまだ売れていて評判もいいのにもう自分は駄目だと悟っている野滝。自分が何故生きているんだろう?と無表情で考えてばかりいる桜田。
世の中は「美しい女と裕福な男」と二人の理想のカップルとして捕らえているが、実はどこか空虚で寂しい、そのくせお互い離れられないくらい想いあっている仲良しの二人なのだった。

桜田がはじめて野滝に自分が無一文になってしまっていると告白すると、野滝はこう言ったのだった。

「ケン、家を買おう」

実際。淡々と語られる彼らのストーリーという感じ。多少の事件(とまで呼べるか微妙な感じの出来事)はあれど、急勾配の上り坂とか下り坂はなく・・・ゆっくりと進んでいく感じ・・・。

自分が野滝と同じジェネレーションだからそう感じるのか・・・そこがリアルだ。もちろん家を急に思い立って買おうとしたり、女優とか経済界トップだとか、およそ私の平凡な人生とはかけ離れた世界ではあるのだけど、そう、この年齢だから、このゆっくり一見危うい不安定さを見せながらも若い頃のように上下への変動が、感情であっても考え方であっても緩やかななのがなんとなく理解できるのだ。そこがリアル。

あ、でも・・・。リアルな雰囲気とちょっと不思議なファンタジーめいた現実離れ感もコラボされてるというか・・・そこがいい感じの色づけと優しさになってる。
桜田が時々会話する不可思議なセールスマンはどう見ても人あらざるものという感じなんだが、果たしてこれが本当に存在するのか桜田の妄想の登場人物なのか曖昧だったり、そのくせそのセールスマンがいつも代金なしに桜田に渡していくアイテム(商品??)は確かに現実にきちんと存在して、ピアスは野滝への初めてのプレゼントとなったし、耳栓に至っては本当に花の話し声が聞こえたりするのだから・・・どうなってるんだろう?(笑)

で、ラストもとてもいい感じで、桜田も野滝も一皮むけて更に成長したっていうか・・・。いいねぇ〜とつぶやきたくなる終わり方で、いいよぉ〜と薦めたくなるような一冊なのだった。

「桜田は野滝を愛している。それは野滝の確信ではなく、揺るぎのない事実だった。桜田の野滝に対する愛情は、野滝の桜田へのそれと同じく、一本道であった。その路上に岩が転がっていようとぬかるんで足をとられようと、二人はそこを進むしかない。ほかの道はどこにもなく、どうしてもその道が進めないなら、一人ひとりが道を初めから造らなければならない。ひとりで道を造るという途方もなく面倒くさい作業をするには二人は歳を取りすぎていた。」

「愛は存在だ。一夜のごく限られた時間の中だけ成り立つポルノとは画然と異なるものだ。一人の人間が存在することをすべて引き受けること。その人間が死んでも、自分の生きる限りは滅びないでいること。死が自分の滅びではなく、その人間の喪失であるということ。」

ラストあたりで耳栓をした桜田が花の会話を聞いてその下品さにびっくりするシーンは本当に笑えてしまった。

「あー根が伸びて痒い。この鉢が小せんだよ」「俺なんか朝、こっちの芽ぇ出しちゃうよ」「俺なんか枝ごと伸びちゃうよ」「俺なんかちょっと咲いちゃうよ」「水吸っちゃったよ。まだあるけどよ。どっかにもっとねぇか、水」「あそこに突っ立ってるおやじ、俺の鉢にしょんべんしていかねぇかなぁ」

美しい薔薇たちが本当にこんな会話してるんだったらなんだかほんとおっかしい!(笑)

no.644
 

■ 朱川湊人
「オルゴォル(講談社)」 評価:★★★★★
Date:2012.05.17
小学生のハヤトが主人公の物語・・・そのせいか小学生の目線の文章なのでちと子供向けっぽさを感じるのだが、その成長の感じが朱川さんぽく暖かく柔らかく、そのくせどこかファンタジーめいた切なさも趣向がこらしてあって、読後感がめちゃくちゃよい。

ハヤトは尊敬する大好きなお父さんが出て行ってしまって、お母さんと二人暮らし。寂しさを感じないわけじゃないが、KYにならないためにそんなことおくびにも出さない。なのにクラスのシンジロウはKYでいじめられっこ。友達いないんじゃないかなぁと思う。
しかしそんなある日ひょんなことで団地の一人暮らしのトンダおじいさんにシンジロウと一緒の時頼まれごとをされてしまった。そしてハヤトは引き受けた。
そのお願いは、あるオルゴールを人から預かっているので鹿児島まで届けて欲しいってものだった。小学生に関東から鹿児島は遠い。でもトンダじいさんはハヤトが大人になってからでもいいし、いつでもいいのだと言った。もし届け先の人が見つからなかったら、鹿児島に埋めるのでもいいのだと。

お母さんに新しい恋人ができたようだ・・・。そして春休み、ハヤトはお父さんに会いに一人で大阪に行くと宣言。オルゴールのことをお父さんに相談しようとしたんだ。尊敬してるお父さんならいい知恵を貸してくれると・・・。

ところがそこではお父さんの新しい奥さんだというミチコさんがいて、ミチコさんのお腹にはハヤトの弟か妹がいると聞いて、ハヤトはショックを受ける。たまたま出会ったサエさんというお姉さん。
サエさんが広島と長崎に行くというので一緒に鹿児島にも連れてってもらう話になった。

途中原爆についてもいろいろ知り、サエさんのお父さんのCENSOREDのことも知り、ハヤトはいろいろ衝撃を受けながら、短期間で成長していく。そのさまはなんだかほんわかする。切ないんだけどほっこりするのだ。

鹿児島に着いてから、ファンタジーな奇跡があるんだけど、そこもちょっとじわっとくる。オルゴールは無事鳴るのか・・・・。届けられるのか・・・・。ハヤトはお父さんとお母さんとどう向き合うのか・・・・。

一読あれ、なんだかとってもすっきりと自然にいい感じのラストに流れていく。

大人向けでないのかもしれないけど、大人にも読んでもらいたいような優しい一冊。

no.643
 

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