*Book review

■ 湊かなえ
「境遇(双葉社)」 評価:☆★★★★
Date:2012.02.29
これ、ちょっと前にテレビでドラマ化されてた・・・。しかし見損なった。だから初めて内容を知る読書となった。

幼馴染の陽子と晴美。共に親に捨てられ別々の養護施設で育った。陽子は少女時代に晴美から聞かされていた話をもとに絵本を書き、それがベストセラーなる。いっぽうの晴美は今や忙しい新聞記者。
そんなある日、「真実を公表しなければ息子の命はない」という脅迫状とともに陽子の息子が誘拐された。真実とは?
そして事件の真相とは。

実は、ミステリー好きの人でよく通じてる人ならば。この展開、だいたい犯人の予想が方向としてすぐついちゃうかもしれない。でも読ませるのは、陽子と晴美、親友同士でも言えずにいたりするちょっとした心境や心情、それらが結構なまなましく理解できたりしちゃうからかも。まぁ嫉妬だったり、無神経すれすれの無邪気さだったり、あるよね、どんな人だって。大好きだし、別にそれによってきらいにはならないけど・・・いらっとするようなね。
そこらへんの心理描写のうまさはやはり湊さんっぽい。

しかし、こんな大団円。ドラマ向けだからかな・・・。あまりにきれいにまとまりすぎて現実ではこうはいかないだろってつっこみたくなるのはちょっといまいち。湊さんにしてはラストが・・・。
これってドラマ向けを意識したからなのかな・・・。
とりあえず、一応犯人がかなりラスト近くになるまでわからず、わかったとき驚く・・・という趣向ではあるので、それをドラマだとどうやって演出したのかなぁとそれだけは気になり、見たかったなぁと思う。

読んで損はないけど、今までみたいにセンセーショナルで人の心に食い込む力がやや希薄かな。という印象の作品。

no.632
 

■ 恩田陸
「夢違(角川書店)」 評価:☆★★★★
Date:2012.02.25
近未来型のSFファンタジー・・・なのかな。読んでいると夢ってやつにこちらまで酔ったみたいになって、なんていうか・・・眠くなるような感じ(笑)。眠いというかぼんやりしてくるというか。

獏、という機械が開発されている。夢を映像化して第三者が見ることに成功したのだ。フロイトの夢判断よりもっと明確にその人の潜在意識を探ることができる。まだ研究段階な部分もあるが、きちんと政府も推し進めている研究チームもあり、被験者も大勢いる。その夢をデータ化したものを夢札と呼ぶ。夢札を引く、といったらその夢を獏で見ることを指す。

予知夢を見ることでことさら世間からも知られていた古藤結衣湖子。浩章が夢札を引く研究者になったのは兄の婚約者であった、初恋の人の結衣子の影響もあった。しかし、結衣子は10年前事故で死んだ。
その姿を浩章は図書館で偶然見た。幽霊?これは研究者の宿命の夢札酔いなのか?夢と現実の区別がつかなくなってくるという・・・。

その頃各地の地方の小学校で、集団パニック事件と集団失踪事件が相次いでいた。事件当時者たちの夢札を引くと何人かの夢札に結衣子らしき姿が映っていた・・・。
どういうことなのか。

もしかして。結衣子はあの事故で本当は死んでいなかったのではないか?そんな疑問を抱いた浩章は真相を探そうとするが、公安の岩清水という男も同行することになる。岩清水はなにか浩章より知っていることがありそうだ・・。
そうこうしてる日々で浩章が日常で結衣子の幻を見るようになる頻度と鮮度が増していく・・・。

浩章につられるように、こちらまでよくわからない霧に包まれて現実と夢の世界との境界線が曖昧になっていくような不安に襲われる展開。
結衣子はやはり幽霊じゃなかろうか、と思えばぞっとするホラー味だし、生きていると思って読めばミステリーなのだ。どちらかわからない感じで読み進めていく。

さてその真相とは・・・。わりに最後のほうまでわからない。ああ、そういうことか、こういう終わりなんだぁ・・・と、想像以上のものではあった。
ちょっと含みというか、はっきりしないラストなので浩章がどうなっていくのか不安な思いもあれど、でもきれいな桜が目に浮かぶ、ちょうど今の季節にタイムリーに当てはまるストーリーであった。

よいタイミングで読めたなぁと思うし、不思議な世界観と設定に、怖さと神秘を覚える。私はまぁまぁ好きな本だった。

夢違観音って実在するんだなぁ・・・。
悪夢を良夢に変えるようにかなえてくれる観音様だそうだ。

「考えてみれば人類はすべてを可視化することで進化してきた。宇宙の彼方の星も、ウイルスも、うんと大きなものも小さなものも目で見る事に果てしない労力を傾けてきたのだ。いったんこの領域に手をつけてしまったら、人は他の見えないものも見えるはずだと思い、見る事を躊躇しなくなるに違いない」

no.631
 

■ 恒川光太郎
「金色の獣、彼方に向かう(双葉社)」 評価:★★★★★
Date:2012.02.22
なんだか遠野物語を思い出すような世界観。鼬使いという霊験者が実在したことは知ってる。その聖なる鼬、金色の毛並み。
鼬使いの血をひく者はもはや人間を超えたものなのだろうか。
鼬こそが神に近いもので、人間は使っているのではなく逆に使われているものなのでは。

短編四編でなっている。ひとつひとつ独立したストーリーとしても読めるが、過去から現在に向かってきちんと時代を追い進んでいる「鼬」を巡る物語であるのだ。

ある草庵に立ち寄った老人。元僧侶の遼慶に昔々の自分のおいたちから始まる恐ろしい話をしていく。自分は倭人であったが南宋人として戦に加担させられた過去があり、そのとき出会った鈴華という美しい女性が鼬を連れていて不思議な千里眼を持つ巫女であったこと。やがてわかるようになる鈴華の恐ろしい所業。あれは人ではなかったと。だから自分が年月を経て弓で射て殺したのだと。
その男が去ったあと、遼慶は少し前に草庵をおとなった若い娘のことを思い出してぞっとするのだった。(異神千夜)

人がめったに訪れないペンション兼レストラン。樹海の近くにある。妻も子も失い一人で経営している男。そこへ不思議な団体が訪れる。樹海をめぐって風天孔をさがして歩いているらしい。風天孔とはなんぞや?翌日、その団体の中にいたうちの一人、若い女性だけが戻ってきてペンションに居座る。彼女が語るによると風天孔とは不思議な現象で白い霧のようなつむじ風が起こり、その中の光に入ったものはあとかたもなく姿が消えるのだという。その向こうの世界はどうなのかは誰も知らない。彼女の過去の話を聞いたりするうち深い仲になる男だが、彼女もある日突然姿を消した。男は店を閉め、風天孔をめぐる団体に混じるのだが・・・・。物悲しい。ただのCENSOREDよりは希望がある、と選ぶ人々。男もやがていってしまうのだろうか・・・。(風天孔参り)

ナツコという田舎から汽車に乗り上京してきた娘。森を自由に巡って森の動物に憑依したりして日々をすごしていた「私」はナツコの中の若い希望の光に惹かれ、ナツコに憑依して一緒に森を離れ上京した。ナツコと共に世界を知り、そして絶望も見てきた。鼬使いという辻にいる占い師。その男を見た時、ナツコは自分の中の「わたし」の動揺を感じる。何故動揺したの?やがてナツコは「私」と会話するようになり、「私」イコール「さくら」という娘の生前のことを聞くこととなる。さくらは大きな金色の獣を見たとき、テツという男とともにかまいたちに遭い死んだのだ。さくらは最後、ナツコから離れ、鼬使いを名乗る占い師に憑依して再び森に戻るのだが・・・(森の神、夢に還る)

大輝は小学生。千絵という中学生らしき女子と鼬のような金色の小さな獣を見つける。変に人に慣れていて、ものごとを何でも理解できてるようでもいて、別に檻などに入れずとも逃げることもなくいなくなってもえさのためではなく必ず帰って来る。動物が飼えないという千絵の代わりに大輝が飼うことになったのだが、それから大輝に不思議な千里眼のようなものが備わる。どうもその鼬のルークのおかげのようだ。祖母はそんなルークを怖がる。やがて千絵が父をCENSOREDしまったと大輝に打ちあけるのだが・・・。ルークの正体は本当は。そしてルークは大輝ではなく本当は千絵を・・・。(金色の獣、彼方に向かう)

イヅナツカイ。不思議な力を持つ獣・・・人・・・神。これは幻想伝奇ファンタジーなんだなぁ。恒川さんらしい世界にどっぷり浸かって、そのおごそかな空気に染まって、厳粛な気持ちで、そのくせ鼬たちの視界を感じて心を森に空に馳せて、不思議な浮遊感で読めてしまう。

やはり恒川さんは大好きな作家さんだと再認識。

no.630
 

■ 島田雅彦
「徒然王子 第一部・第二部(朝日新聞出版)」 評価:★★★★★
Date:2012.02.20
舞台は架空なのか、近未来なのか・・・いまいち微妙な感じの日本の首都。王制だから一応架空かな?
王子のテツヒトは不眠症、視界がすべて青く見える、など神経症に悩んでいる。このまま世襲して王となることに疑問を抱いており、悩めているとある夜仙人が現れて告げる。「旅に出るか、このまま憂愁の森にとどまるか」テツヒトは世界に再び若さを取り戻すため、妃を探すため、元お笑い芸人の従者コレミツを従えて宮廷から家出する。場末の酒場からホープレス・タウンと呼ばれる貧民街、奥の細道へと旅を続ける。それぞれの場所でドロップアウトした人々と出会い、黄昏の国の残酷物語に触れたテツヒトは仙人ツルと記憶師アレイの導きのもと、前世を巡る冒険に出るのだった。

ここまでが第一部(いわゆる上巻)。

「仙人が実在するとは思いませんでした」
「老人とか廃人とか、詩人とか変人とか、名人とか達人とか、悪人とか善人などの仲間だ。」

「人々の物忘れはいっそう激しくなる。千人が死んだ大惨事でさえ、異国の話なら一ヶ月後には忘れられる。不祥事を働き、世論の憎悪を一身に集めた人も、一ヵ月後には普通に町を歩ける。この記憶喪失の時代、この忘却の世界にはどのみちアレイ君のような記憶師の居場所はなかった。」

さて。テツヒトはあるとき平家の落ち武者だった。負け戦で死に損なって、島に行き、そこに住む住人と共に生きた。ヒナという女性と契りを結んだ。しかし昔の自分の戦場での将軍が現れ、海で命を落とすこととなった。
あるとき源氏方、かの有名な那須与一だった。平家の扇を一発で射落とし、一躍有名bになった。平家が滅びたのち、ひっそり隠遁して身を隠していた平家方の姫と恋に落ち、思い出すのだ。この姫がヒナの生まれ変わりであること。しかし引き裂かれて二度と会えぬまま人生を終える。
あるとき、イエズス会の通訳だった。キリスト教布教のために尽力するも、利休も失い、ヒデヨシにもイエヤスにも受け入れてもらえず、大勢の仲間を失い、自身も日本から追放され異国の地で人生の最後を迎えた。
あるとき、江戸時代の遊び人だった。放蕩息子というやつだ。お金を騙し取られたり、食い逃げしたり、それでも楽天的でなんとか乗り切れてきた。が、ある男から吉原のおいらんに託を頼まれ、その花魁に会ったとき、朝顔太夫がヒナの転生だと気づく。気づいたが自身は逃げる朝顔を助け、刺されて絶命する。

そこでテツヒトの前世をめぐる旅は終わる。無念、寂しさ、空しさ、未練。それらを忘れず現世に戻ろうと。どんな悲しみにももう耐えられる。この多様性の王国の王子なのだ。王子の前世とはこの国の過去そのものなのだ。丹念に拾い上げ復活させてやらねばならない。それこそがこの殺伐とした世紀を生き延びるための希望の原理なのだと。

おおまかなここまでが第二部・・・といいたいところだが、実はまだサプライズがあるのだった。

さあ現世に戻ってきた王子。しかし浦島太郎よろしく現世でも時間がたっていて、世界の様子が少し変わってしまってるわけだった。戻れない。もとの肉体に!どうしよう・・・・。

そこからが真のサプライズな希望に向かう展開なのだ。

読むうちはまる不思議なワールド。そしてそのテーマの深さにどっぷりつかって感動すること間違いなし。

あっというまにひきこまれて読了するだろうことを約束する。

no.629
 

■ 窪美澄
「ふがいない僕は空を見た(新潮社)」 評価:☆★★★★
Date:2012.02.06
帯には「本の雑誌が選ぶ2010年度ベスト10第一位」「2011年本屋大賞第二位」「第8回女による女のためのR-18文学賞大賞受賞作」とある。
・・・ん?R-18?どないやねん・・・と読んでみた。

・・・・・。
うーん。好みが別れるところだ。まぁR-18だけあって、ものすごく官能的だ。エッチシーンが。生々しいような、それでも女性向けにちょっといい感じの美しさが残ってるような・・・。
私はあまりこういったジャンルは得意ではない。のだが・・・。

そこじゃないのね、なんとなく、テーマは。ちょっと切ない青春というか、青少年のほろ苦い成長というか。
誰しも通る苦しい年頃だから、なにか懐かしいような切なさがね、ほのかに感じられて。ほのかな痛みというか。そこがいいんだろうなぁって思いました。

高校生になった卓巳という男子がオタクコスプレ主婦のあんずに声をかけられて、倒錯した性の世界に足を踏み入れる。卓巳はあんずに溺れたが、突然あんずは別れを告げる。体だけの関係と思っていたけど、本気で惚れていたんだと気づく卓巳は失恋に打ちのめされる。卓巳目線で書かれてる。(ミクマリ)

一方、あんず目線で書かれた次章では、自分に自信がないあんずがストーカー男と結婚することになり、実はその夫はものすっごいマザコンで、しかもお互い子供ができづらい体質だったことを知り、友達も一人もいない孤独な中で出会った卓巳との情事にハマっていく過程が書かれている。やがてそれが夫にバレて修羅場になってゆくんだが、不幸な日々のあんず目線だとエロさより悲しみみたいなものが強く出る。あんずも卓巳が好きだったんだなぁ・・・。(世界ヲ覆フ蜘蛛ノ糸)

今度は卓巳の同級生の七菜目線。ちょっとかわいい小柄な女子高生。卓巳に恋してバージンは卓巳に捧げるとアタックを続ける。いい感じだったのに途中から卓巳が自分を避け始めて、そしたらコスプレの主婦と不倫なんかしてるって知り、ショックを受けるのだ。七菜は七菜で、カルト集団にはまっておかしくなった天才な兄やばらばらの家族に悩んでいてもがいている。でも兄は戻ってきた。卓巳を好きだから私も卓巳をあきらめない。(2035年のオーガズム)

卓巳の親友、良太目線。卓巳は不倫動画を不倫相手の旦那にばらまかれて以来ひきこもりみたいになった。良太は父がCENSOREDして母は男と出ていき、認知症の祖母と二人暮らし。バイト三昧。生活費なのだ。バイト先で出会った田岡という男に勉強を教わり、飛躍的に成績があがる。ところが田岡には秘密があった・・・。世の中は不公平だ。不条理だ。でも淡々と頑張って必死に生きてる良太に、ひたすらエールを送りたくなる章だ。(セイタカアワダチソウの空)

卓巳の家は母子家庭。母は助産院を経営してる助産婦さんだ。人の生死を預かってる気がして、慣れてきても初心を忘れず必死で生きてきた。息子の卓巳が馬鹿なことしてひきこもりになり、自分も体調を崩してきついし、それでも命は生まれてくる。卓巳もその命の輝きを感じることができるのだから、絶対大丈夫・・・と泣きそうになるのだ(花粉・受粉)

卓巳が主人公なんだろうな。卓巳が成長していく。若さゆえの過ちや恋、裏切りに傷つきながら、でも若さゆえのタフさで立ち直りながら。
切なくてもどかしくて、でも希望を感じるような、一陣の風を感じるような、そんな小説だった。

no.628
 

■ 東川篤哉
「ここに死体を捨てないでください!(光文社)」 評価:☆★★★★
Date:2012.02.02
有坂香織は妹の部屋で見知らぬ女の死体を見て動揺する。怖くて逃亡した妹からの電話によると妹が刺しCENSOREDしまったらしい。彼女を守るつもりで代わりに事件を隠蔽しようと考えた香織は、そのときたまたま目に入った便利屋をしている馬場鉄男という若者に目をつけた。この死体をまずなんとかしなくちゃ!!・・・かくして不幸にも?巻き込まれた鉄男とともにその死体をこっそり捨てに行くのだが・・・。さて、そこからが本当の事件へ足を踏み入れることになろうとは!!

「謎解きはディナーのあとで」と同様、ライトでまるで漫画を読んでるかのような会話やキャラで、重みはなにが純粋に面白い。
ミステリーとしてはどうしても軽くなる文体だが、でも最後のトリック明かしはそうだったのか〜とちょっとひざをたたく感じで、そのギャップみたいなのも結構面白い。

つまり、これは二重の殺人事件、それを香織や鉄男が早とちりして早まって、死体を捨てようなんてとんちんかんなことをしなければ別に香織も鉄男も妹もなんの関係もない事件で終わったわけだったのだ。

でも死体を捨てるなんてやったらもうそれ自体が重犯罪、もっと複雑な裏があったわけでいやがおうなくそちらに巻き込まれてしまったわけで。
香織のすっ飛んだキャラも憎めないし、鉄男のあまりにお人よしな単純さも愛キャラだし、絡んでくる探偵も刑事もあまりにあまりで(笑)どれが主役でもいける感じなのがさすがだ。

まぁ部分的にあまりにありえないんじゃないの?!って展開もあるが、そこはそら、この漫画のような雰囲気ですっかり違和感もなくこれでいいんじゃない?みたいな感じですっかりなじんで読めちゃうし(笑)

さらさら〜って読んで明るい気持ちになれるライトミステリー。たまにはやっぱりいいよねぇって感じでオススメ!

no.627
 

■ 吉田修一
「平成猿蟹合戦図(朝日新聞出版)」 評価:★★★★★
Date:2012.01.30
九州の田舎にごくごく普通の純粋で素直な美月という女の子と朴訥で頼りないけど優しい朋生という男の子がいました。二人は愛し合って結婚して瑛太という赤ちゃんも授かりそれなりに暮らしていましたが、瑛太は家族を養うために都会に働きに出ました。美月は寂しくてあとを追って瑛太を抱っこして都会に出て行きました。ところが朋生は東京というもっと遠い大都会に行ってしまったあとでした。美月はお金を全部使って東京の新宿歌舞伎町というところに行きました。ところがそこにも辞めてしまって朋生はいませんでした。途方にくれて瑛太と路地裏にしゃがみこんでいた美月に声をかけてきたのは、北国の田舎出身の淳平という男でした。淳平が声をかけて美月と瑛太を拾って自分の働くお店のママに会わせたのです。美月と瑛太は淳平のおかげで朋生に会えて、それどころか東京で暮らし始めたのでした・・・。そう、淳平との出会い。そこからこの物語のすべてが始まったのです・・・・。

なんともスピーディに展開、思い切りその勢いにのみこまれページをとめることができないまま一気読み。ゆっくり読みたくてもとめられない。どんどん駆け昇るスピード感。そしてそれは間違いなく快感で爽快。

淳平という男の一種の?立身伝?うーん、ちょっと違うな。でもどこにでもいそうなちょっとカリスマ性のある気質のいい後先考えてない能天気な誰からも好かれちゃうキャラ。敏腕な園夕子という女性のマネージメントでわけもわからず政治家にまでのしあがってゆく様は、ほとんど本当はナンセンスのはずなのにありそうで夢があって、ああ、そうか、だからこのタイトルなのかも。

もともとはただのひき逃げ事件を目撃した淳平の世間話からはじまったのだ。朋生に酔って話しただけの話。金に困っていた朋生がそれをネタにひき逃げの真犯人の湊というバイオリニストをゆすろうと稚拙なことをしたところから大事件になっていく。
なんとひき殺された男が持っていたはずの書類がないとやらで政治がらみでやくざまで出てきて、しがない歌舞伎町のバーテンダーだった淳平が命を狙われるような事態に。

美姫ママややくざの高坂、その他どんどん出てくる魅力的なひとくせあるキャラたち、みんな惹かれてしまうんだな、淳平に。湊のマネージャーだった夕子も。
みんな淳平のために、人肌脱ぐ。一致団結。そこがすかっとする。

美月も朋生も友香も湊も・・・サワばあちゃんも、とにかくみんな淳平を守る、応援するってとこでみんなひとつ。

そこがわかり易過ぎるくらいすかーっとまっすぐで、気分がいい。

とにかく読後感がいい。どん底にいたはずの湊や友香も淳平パワーでこんなに明るく笑えるようになって・・・。ほんとに。見事に。淳平自身は自覚もないし、何を具体的にしたってわけでもないような気がするが(笑)。この流れ。いいねぇ・・・。

読みながら元気もらえちゃう。ちょっと思ったより気分よかったオススメの一冊だ。

no.626
 

■ 森博嗣
「ZOKURANGER(光文社)」 評価:★★★★★
Date:2012.01.25
なんか久しぶり!品川ロミにまた会えてやっぱりうれしいシリーズ。
ロミは相変わらずのキャラで久しぶりに読んだロミファンとして一安心♪

今回はある大学の准教授に赴任してきたロミが、そこの研究環境改善委員会なるものの会員に選ばれて、出席するところから始まる。
その意味のないわけのわからない会議。一体なんの目的の委員会なの?

で、手渡された委員会ユニフォームってのが、黄色いヘルメットつきのわけのわからないものだった。作ってきた長良はピンクのユニフォームだという。緑、青、赤もいるって・・・・。これってまるでゴレンジャー・・・・
で、この衣装を着てなにをするのか皆目わからず、ロミのストレスはマックス。
だいたい、他の委員会の会員も、長良(ピンク)をはじめ、十河(青)にしても斎藤(緑)にしても揖斐(赤)にしても外見は知的クールでまぁまぁなのになんだか変な人ばかり。まぁロミ自身も相当普通じゃないかもしれないが。

それぞれが勝手に妄想を働かせ、ユニフォームと委員会存在の意義を解釈し、そしてごちゃごちゃやってるうちに・・・。
最後、こんなオチ!!って驚くが、みんなほんとに能力者だったってことのほうが驚いた。ああ、つまり潜在的能力者だったってことなのかな。
それを顕在化させるためのプロジェクトがこの研究環境改善委員会って名目でなされていたってことなのか・・・と、そこもなんだかよくわからないままに締める感じの、実にしっちゃかめっちゃかな物語?であった。でも・・・面白くていいなぁって感じ。

ゴレンジャー世代は特に、そうでなくてもがっつりはまる設定といえば設定。
で、みんな学者だからそれぞれがなんだかんだ議論したり口論するうんちくは相当専門的で、そこも結構面白かった。

まぁZOKUシリーズ読んでる人ならこれも絶対はずさないでねって感じです。

「三者断らず、という言葉だ。ことわざかと思ったが、もちろん辞書にはない。大学だけに流通している闇のコードかもしれない。その意味は、医者と学者と芸者は依頼されたものを断ってはいけない。なんでも受け入れなさい、という意味だそうだ。」

「自分の研究が社会の役にたつというのは、かなり未来を想定した希望的観測でしかない。誰かが自分の研究を見出して役立ててくれる可能性を信じている、というだけではないのかな?研究の直接の動機といえば、それよりも同じ分野の研究者仲間を驚かしてやろう、あいつらを出し抜いてやろう、といったもののほうが強かったりしないかね?あるいは単に論文稼ぎ。論文数を稼げば科学研究費も自然についてくる。どんどん研究費がたまる。研究とはこういったメカニズムで発展するのだ。」

「研究内容は少なくとも一般大衆から見れば、不思議なもの、とんでもないもの、想像を絶する世界、もう信じられない雲の上の話なのだ。そういう場所で研究者は仕事をさせてもらっている生かされている。税金によって生かされている。私たちの研究環境とは、すなわち人類の夢のうえにかろうじて危うく成り立っている幻想だ。つまりは子供が見ているアニメと同じといっても過言ではない」

no.625
 

■ 坂東眞砂子
「鬼に喰われた女〜今昔千年物語〜(集英社)」 評価:★★★★★
Date:2012.01.22
ラフカディオ・ハーンの日本の怖い伝説というか言い伝えの物語?あれを思い出す。そういう雰囲気の、鬼やら怨霊やらが満載のホラー話が10編。

時代はすべて平安時代とかあの辺。藤原道長とかも名前だけ出てきたりする。
まあでもどの短編も主人公は、いわゆる名も知られていないその時代の人だ。
それぞれ、その身分相応の生活をつつがなく送っていたのだがある日怪異に遭う、というような話だったりするのだが、なんというか・・・現代物より昔のほうが読んでて怖さを感じるのは何故かな・・・。

何度もぞっとしたし、読後感も怖いまま。だからホラーなんだろうけど、それにしても・・・。
ちょっとエロチックな雰囲気も多々出てくるのだが、それらすら官能的というより、やはり不気味で怖さが漂う。

「鬼に喰われた女」「死ぬも生きるも」「虚空の板」「生霊」「月下の誓い」「歌う女」「蛇神祀り」「稲荷詣」「油壺の話」「闇に招く手」の10編。

私は虚空の板が一番読みながらぞっとした。夜しーんとした部屋で一人で読むのは無理かも!って感じ。

おどろおどろしい文体は坂東さんの真骨頂なのだろうな。

no.624
 

■ 森絵都
「異国のおじさんを伴う(文芸春秋)」 評価:★★★★★
Date:2012.01.19
読後感が独特な作品そろいの短編集だ。
実になんてことない、いつもの日常の中だったり隣り合わせだったりするちょっとした出来事が、なんともいえない余韻を及ぼす、といったような。共通するのはどの主人公も自分の人生だったり生活だったりにちょっと疲れてっぽいところかな・・・。

「藤巻さんの道」はなんか微笑ましかったのだが、同じ微笑ましくても「ラストシーン」はちょっと物悲しい。「くじら見」はある意味シニカルな微笑ましさ、「母の北上」はこういうオチか!と思いきや、ちょっと寂しいようななんというか、ラスト。たんたんと話が進むのになにかがずしりと心に残る余韻の「夜の空隙を埋める」と「異国のおじさんを伴う」。あははと笑ってちょっと考えさせられちゃう「桂川里香子、危機一髪」。せつなさに本気で泣けてしまう「思い出ぴろり」。気づかない残酷さにぞっとして取り返しがつかない罪におののかされる「竜宮」。

まぁ。なんてバラエティに富んでいるのかしら!(笑)

でも、どれもいい。そして、どれか絶対大好きな一押し作品が含まれてるはず。

私はちなみに「思い出ぴろり」かも。

そして文中のセンテンスに、ちょっと自分の人生を重ねられちゃうところが、森さんの文才ってやつなのかもな。

「思えば私はいつだって道に迷ってる。人生に迷う。仕事にも迷う。自らの目指すところを簡単に見失い、ぐるぐると堂々巡りをした果てに、結局、どこへも辿り着けない」

no.623
 

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