*Book review

■ 近藤史恵
「ホテル・ピーベリー(双葉社)」 評価:★★★★★
Date:2012.01.15
舞台はハワイ。ハワイ島。ある事件がきっかけで小学校教師を辞めて傷心から立ち直れずにいる木崎淳平。一人旅に慣れた友人から勧められたのはハワイでの長期滞在。アメリカは最長で3ヶ月滞在できると知り、友人が薦めるハワイ島にあるホテル・ピーベリーに旅立つ。
そこは思ったより田舎で不自由で、そこが現実から逃げたかった淳平には心地よかった。オーナーはほとんど不在だが、オーナー夫人でホテルを実質きりもりしている和美は40代でも魅力的で包容力ある優しさだし、一緒にホテル滞在している桑島七生は訳ありっぽいが美人だし、既にホテルに長く滞在しているような蒲生と佐奇森は人当たりのよう男性だ。青柳という風変わりな若者もいるが、彼は夜しか行動しない。

のんびりした心地よい時間・・・でも心の傷はなかなか癒えず、なのに何故か和美には打ち明けてしまった淳平。そして人妻なのに和美と体の関係を持ってしまう。
3ヶ月経ったら離れてしまう人なのに?それとも3ヶ月経ったら離れてしまえるあとくされのない人だから?
自分でもわからぬまま、でも確かに心の傷が癒えていくのを感じる淳平。

そんな中、突然起こった蒲生の事故死。そして蒲生の連絡先は偽者で、蒲生というのも偽名だったことが判明する・・・・。
そのあと「誰かが亡くなったホテルなんかに長期滞在していたくない」と青柳が別のホテルに移ることになり、出発間際に淳平に「君も早くここを出ないと危ない」と耳打ちする。

その青柳がその直後バイクで事故死。・・・これは偶然なのか?

そして徐々に明らかになる真相。何がどうなっているのか?ただ、蒲生は生前、七生にこう言っていたという。
「このホテルの客は、みな嘘をついている」と。

ちょっと物悲しいラスト、でもちょっと希望を感じるような。なにしろ淳平が立ち直っていくようなまだ危ういけど力強さがいい。

ミステリーとして、というより、なんだろう、人間が成長していく感じが、ハワイの空気感と一体になって独特の魅力をかもしだしている感じ。ハワイ行きたくなるもん・・・。それもオアフじゃなくてハワイ島。ホテル・ピーベリーは実在しないだろうけど、ほんとにこんなホテルあったら3ヶ月みっちり滞在したいなぁ。
あ、ピーベリーっていうのは、ハワイのコナ・コーヒーよりはるかに高級な希少価値のおいしいコーヒー豆の名前。

オススメ。やっぱり近藤史恵さんは・・・カタイ!

ところで!作中で和美が言うんだけど、世界には13の気候区があるそうで(熱帯、温帯、寒帯、乾燥帯、亜熱帯、亜寒帯、砂漠気候、ツンドラ気候・・・みたいなやつ)ハワイ島にはその13のうち11も気候区が存在するようだ。要するにちょっと移動するとまったく違う気候になっちゃうわけだ。四国より狭い島なのに。氷雪気候とサバナ気候という雨が少ない分類になる気候がないだけで。すごい〜知らなかったあ!

no.622
 

■ 法月綸太郎
「しらみつぶしの時計(祥伝社)」 評価:★★★★★
Date:2012.01.12
ミステリーの短編集なのだが、なんというか・・・そのトリックはずばり、ロジカル、さらさら〜っと読み流したい時には向かないだろうという一冊。逆にじっくり頭使いながら、どっぷり推理するってことにつかりながら読みたい人にはうってつけ。
・・・なんていうと、いかにも重くて難しすぎるものばかりみたいだが、いやいやそんなことはない。結構下ネタ絡みだったり、設定的にナンセンス過ぎて笑えてきたり、そうかと思うとすごく引き込まれる展開のミステリーだったり、なんというか、こうカラーがバラエティに富んでいる。

だからどんなミステリーファンの人にも必ずすごくツボな一編があると思う。

ちなみに、表題作の「しらみつぶしの時計」というのこそ、まさにロジカルミステリーの極地的作品で、主人公の被験者がある部屋に閉じ込められるのだが、出る方法はただひとつ。部屋にある1440の時計の中から、ただひとつ正確な時計を見つけ出すこと、という設定。1440の時計はすべて1分ごとにずれており、つまり24時間分、すべて1分ごと別々な時間を刻んでいるということ。
これはすごいなぁと心から思った。正解を知ったときも、パズラーなら大喜びしそうな感じで、私は好き。

「使用中」の下品さも結構面白かった。「素人芸」はポー作品を思い出させるような心理的スリリングさだったし、一転「猫の巡礼」は摩訶不思議なファンタジーっぽさをまとった作品だ。ミステリーっぽい感じがしたのは「トゥ・オブ・アス」かな。

ホラー風味なものもあったし、海外の古典派ミステリーをなぞったような雰囲気のものもあった。

つまり飽きなかった。あっというまに読めてしまった。さらさら〜っとは読めないのに、ぐいぐい〜っと読まされてしまう感じ(笑)。

結構好きな一冊だった。

no.621
 

■ 本城j雅人
「シューメーカーの足音(幻冬舎)」 評価:★★★★★
Date:2012.01.05
帯にある「野心と礼節」。二人の靴職人の行き詰る攻防戦、一人は名を馳せるために手段を問わない野心家の斎藤という男。もう一人は他者の笑顔のために我欲を捨てる榎本という男。両極端にいる二人の接点は13年前のある事件だった・・・。

靴つくりのノウハウなんてからきし知らない。量産の靴ばかり手にしてきたのでなおさらだ。でも・・・。本当にいい靴を一足でもいいから欲しいと思う気持ちはある。そして・・・それは自分のためだけに作られた自分にしか履けない世界でただひとつの最高の一足なのだ。
イギリスはジェントルマンの国だから、ある意味スーツより重視するのかもしれない。一足60万円とかでも当たり前に払う。それだけの価値があると思ったならば。伝統を重んじる国柄なので、イタリアやフランスよりトラディショナルなデザインや風貌が主流で、でもそこがよいのだと。

斎藤は身ひとつで修行して、そう、今イギリスでそこそこ名を馳せる靴職人となっている。弟子も複数いる。
ただ、まだ満足してない。英国王室御用達になるため、いろいろ画策している。

そんなある日、自分が15年前、まだ日本で無名だった頃作った靴を模倣した靴が斎藤の元に届けられる。それは13年前のある事件を意識してなされた行為だと、斎藤だけにはわかるやり方で。
それは・・・13年前の事件と関わりのある榎本の作品だった。
榎本は斎藤を許せないでいた。

最後に勝つのはどちらか。目が離せないクライマックスに、読者もひきこまれて痛みとともに一気にラストに。

靴職人の靴を作るプロセスは圧巻。ああ、靴ってこうできてるんだなぁと。ラストってこういう意味なんだなぁとか。あ、ストーリーのラストじゃないよ、靴を作る時に使うその客の足を形を木で作る木型のこと。

なんとなく。人間くさいタイプが好みなので、いくら手段を選ばない冷徹人間でも斎藤のほうをついつい応援してしまった私だったが・・・・。
榎本の最後選んだ道も、ああ、これなら納得。榎本は礼節を通したんだなって。
斎藤も、打ちのめされても野心の炎とプライドがまだくすぶって(いやむしろ前より熱くなって)残っているのを感じられるラストだったのがよかった。

ちょっと靴に関して詳しくなれちゃうし(笑)なんか男の静かな闘いって感じで、好みな空気の一冊でした。

「本物の野心というのは不動である。感情などによって左右されない。」(斎藤)

「幸福と嫌悪、やる気と堕落、充実感と飽きといったものもすべて対立する感覚です。二つの感覚というのは対義語であるがために、対極に位置しているとおもわれがちですが、実は横並びに存在しているのです。好きだった人間が突然疎ましく感じられるのも、人の気持ちが移り変わったのではなく、好きという感覚と同じ方向に疎ましくなるという感覚があっただけの話です。堕落してしまった人も、最初からやる気がないわけではなく、むしろ必死になにかに打ち込みやり遂げた時に堕のゾーンに陥ってしまうのです」(斎藤)

「野心と礼節、あなたは対立する二つの感覚の境界線で留まることができてこそ、真のプロフェッショナルだと考えておられるようですが、この二つに於いては異なります。靴つくりに求められる職人の野心と礼節、この矛盾する二つを併せ持つことができて、初めて客はその職人に自分だけの一足を作って欲しいと思うのです」(榎本)

「最近は模倣することを、リスペクトとかオマージュとか都合のいい言葉を使って、正当化する者がいるけど、私はそれは違うと思うんだよ。これ以上近づいたら模倣になる直前で立ち止まるのは、よほど強い意志がないとできないことなんだ。」(二津木)

no.620
 

■ 道尾秀介
「水の柩(講談社)」 評価:☆★★★★
Date:2011.12.25
老舗旅館の長男で中学二年の逸夫は自分の普通さと平凡で退屈なことを嘆いていた。同級生の敦子は両親が離婚してこの町にやってきたがクラスメイトからの執拗ないじめや貧しさに、誰より普通を欲していた。
文化祭をきっかけに言葉を交わすようになった二人。敦子は逸夫に頼みごとを持ちかける。
「小学校の時に埋めたタイムカプセルの手紙を今からこっそり掘り出して取り替えない?」
その誰にも秘密の頼みごとは、逸夫の世界に色づきを与えた。しかし逸夫は気づけなかったのだ。敦子の本当の真意、秘めたる決意を。そしてそのことがきっかけで自分の家族が抱える秘密がわかってしまう。
少年が最後、考え抜いて取った方法、作戦。いったい何ができるだろうか・・・。

中学二年・・・まだ子供のような、でも反抗期へ入るかどうかのものすごく繊細な時期。だから思いもよらないのだ、少女の暗い悲しい壮絶な決意も、ほんとは救って欲しいゆれる気持ちも、・・・家族の封印していた秘密の存在も・・・。そして知った時傷つき苦しむのだ。成長の一歩となるのだ。
まさに逸夫はその瞬間を、このとき迎えた。それを読者は読みながら一部始終を見る。

ちょっと懐かしくほろ苦い。
何か思い出しそうになる、そんなストーリー。

絶望、成長、希望・・・ぜんぜん違うこのキーワードがすべてあてはまるストーリー。

みんな生きていくために必死に嘘をついている・・・・。

少年少女にはもちろんだが、私ほどの歳になっても、忘れていてはっとする言葉たちが印象に残る。

「くよくよしたってしょうがないんだからさ、もう忘れちゃいなさいよ。全部忘れちゃって、新しい気分でやり直しちゃえばいいじゃないの。今日が一日って気持ちでやり直すの。どんなことがあったって、忘れちゃえばもとどおりなんだから。どんな人だって、ちょっと頑張れば何かを忘れることくらいできるのよ。だってほら、何にもしなくても、人間なんて勝手に色んなこと忘れちゃうんだから」

「まず思い込むことが大事なんだよ、何をするにしても。世の中のほとんどのことには、どうせ正解なんてないんだから。面白いとか正しいとか何でも思い込んだもん勝ちだよ。思い込むこと。できると思うこと。成功すると思うこと」

no.618
 

■ 乾ルカ
「ばくりや(文芸春秋)」 評価:★★★★★
Date:2011.12.22
その店は北の街の路地裏にある。ある日、広告が手に入り、それを見て悩める人のみが足を運んでしまう。そんな店。一見古びた雑貨屋のような・・・でも中に入るとおかしな瓶が並ぶ棚に不気味な液体が入ったものが並んでいる・・・。そして迎える白衣の男がこういうのだ。
「ご不要になったあなたの能力をお取替えします」と。
その店の名は「ばくりや」と言った。

ばくる、とは北海道のどこかの方言で交換することを指す。そう、まさに交換なのだ。誰かの能力と自分の能力とを交換する。ただし移殖には相性があり、それが合うもの同士でないと交換できない。しかも、交換でくる能力がどのようなものであるかわからないので、今の能力は要らないし次にくる能力がいかに交換的に不公平で理不尽なものでも受ける、という気持ちの人でないと成立しないのである。
一度してしまった交換はもう戻せない。

外見はちっともよくないのに幼少時からやたら女性にもてて、どこでも女性につきまとわれて、同性にはやっかみで嫌われ、仕事にも支障が出る人生の男。一見うらやましい特殊能力ではあるが、ほとほとうんざりして苦しんでいた男はばくりやにその能力を渡した。代わりに来たのは包丁砥ぎの天才的能力・・・・。自分に一番しつこくつきまとっていた女に砥いだ包丁を手渡したのだが・・・。

またある男は強烈な雨男で、修学旅行はおろか、飛行機にすら乗れない人生だ。その男が行くところの天候の荒れ方はもはや雨というレベルではないのだから。北海道以外の土地へも行って見たい・・・飛行機に乗って見たい・・・ばくりやで引き換えた能力は大食い・・・。どうやら大食いタレントとしてテレビに出てるある男の能力とトレードされたらしいのだが・・。

自分が入った会社は必ず倒産するという能力。定職につけない。ついても会社が無くなるのだから。若い頃からずっとこれで、結婚もできない。ばくりやで取り替えたのは動物にとにかく好かれる能力。今までとまったく違う動物園に就職できた男の悲劇とは・・・。

傲慢なプロ野球のピッチャー。傲慢で豪速球だけしか能がないため解雇されてしまった男は、落ち目のグラビアタレントと同棲している。お互い相手を見限ってうんざりしている。さて、男はばくりやでその能力を手放した。代わりに得た能力でまた一旗あげる計画だったが・・・。

すぐ泣いてしまう男。能力というのかわからないが、そのせいで仕事も人生もままならない。その能力をばくりやに渡したあとはプレゼンテーションで勝ちまくり。異例の昇進、会社一の美女を恋人に。でも・・・涙が出てこない。兄として慕っていた男の死にすら。でも最後やっと心を取り戻せたのはその兄貴分の男が残した言葉だった・・・。

いつも、間が悪い。家族旅行の前日に怪我して入院してダメになったり、かさを持たない日に限って雨に降られたり、その能力を交換したくて訪ねたばくりやが、年に一回の定休日でやってなかったり・・・。でもばくりやにいた黒いドレスの美しき女主人は「その能力はあなたが思ってるようなものじゃないわ、むしろ逆みたい。手放さないほうがいいわ」と言う。どのみち定休日だからばくれないのだけど。その女主人の言葉の意味をのちに知ることとなる女は・・・・。

ラスト。いつもきりがいい男。店に行けば○○万人目と表彰され、とにかくいつもいつも何でもキリ番。飽き飽きするほどいつも。さて、訪れたばくりや。そこでの驚愕の展開。なるほど〜そういうことで、そういうオチか!

短編風に進んでいって、その実きちんと時間軸的に並んでてつながるんだなぁって感じ。これ、不思議感覚もさることながら、ちょっと好みです。ファンタジーとして。
シニカルな味付けも好み。

超おすすめ。

no.617
 

■ 今村夏子
「こちらあみ子(筑摩書房)」 評価:★★★★★
Date:2011.12.15
第24回三島由紀夫賞、第26回太宰治賞、ダブル受賞作品。

なんとも。奇妙というか不思議な感じの読後感。悲しいようなほっとするような、でも切なくて限りなくピュアな空気に圧倒されるような。

あみ子は・・・すごく奇妙な女の子。もしかしたら知的障害があるのかもしれない・・・。でももしかしたらそうではなくてとんでもなく個性的過ぎるだけなのか?
たぶん前者なのだろうけど、とにかく、ある意味トラブルメーカーの台風の目でもあり、それでも底抜けのピュアさで幸せなのかもしれないし・・・。

父の再婚相手の新しいお母さんのほくろが気になってしかたない。兄に叱られても気になってしかたない。そんなあまりに風変わりなあみ子にどこかよそよそしく冷たい継母の態度にもまったく気づかないあみ子。でも継母の流産で傷心して、その後あみ子の無邪気さに救われ、やっと仲良くなりかけていたのに・・・あみ子ときたらやってはならないことをやってしまってもう取り返しがつかなくなった・・・。継母の心は壊れ、ついでに兄も気づいたら不良になり果て、家族がなんとなくばらばら。そのことにもあみ子は気づかない。

窓の外の変な物音。それを幽霊のせいだと言い張るあみ子。
「幽霊、弟の霊かもしれんよ。ほら昔、弟死んだじゃん。弟、たぶんまだ成仏できてないんよ」
そんなセリフを、心を病んで寝たきりの母の部屋で父に平然と悪気なく言えちゃうわけなんだよ、あみ子ってやつは。それで父が怒ってあみ子を突き飛ばしても、何故かぜんぜんわからずきょとんとしてるような子なんだよ。

何もかも忘れてしまう。初恋ののり君はあみ子が大きらいで、中学時代に殴ってきたからあみ子の歯は前歯が3本も折れた。
優しく声かけてくれる男子の名前はまったく覚えない。

でもそういうことの悲しさをあみ子は一生気づかない。

圧倒される。あみ子のほんとの意味でのあまりのピュアさに。

もう一遍収録されてる「ピクニック」も、虚言癖のあるらしき女の子の、荒唐無稽なでもいじらしさやさびしさが漂う嘘がちょっと胸に響く。それより、それを信じてるキャバクラの同僚の子たちの無邪気な幼さも。
いや、ほんとは嘘じゃないのかも。それとも、ほんとは同僚の女子たちも信じてはいなくて信じてるふりをして七瀬さんを応援したかっただけなのかも。一緒に夢ってやつを見てたくて。

どちらも不思議な読後感。よくはないんだけど、でも悪くない。
そしてやけに心に残る。

すごい大型新人、といううたい文句はあながち嘘じゃないなぁって思わされた。

no.616
 

■ 歌野晶午
「春から夏、やがて冬(文芸春秋)」 評価:☆★★★★
Date:2011.12.11
ちょっと歌野さんにはがっかりさせられた作品が続いたため、不信感だったのですが(笑)、帯の「ラスト5ページで世界が反転する」「葉桜の季節に君を想うということ、を超える衝撃がいま」という文に惹かれて手にしました。
「葉桜〜」は、ほんとに驚いて、今でも忘れられない、ラストの衝撃。あれを超える衝撃はまだないです。それくらいインパクトあったので・・・・。

スーパーの保安責任者の男と、万引き犯の女。偶然の出会い。男には悲しい娘をひき逃げの交通事故で失った過去があり、その上妻も失ったのち人生に絶望して生きていた。娘と同じ年に生まれた万引き犯の女に娘を重ねて、見逃した。そのあとも苦労している生活を知り、助けてやるのだった。
DVで傷つく彼女のため、金銭援助を申し出る。

しかし、女にも秘密があった・・・。
その衝撃的な秘密を知ってしまった男は・・・。そして悲劇的な結末に。

娘をひき逃げした犯人がわかったくだりはなんというか出来すぎの偶然じゃないか?と思ったりしたのだが・・・。

確かにラスト5ページで反転する。そうすると確かに出来すぎではなくて、リアルで悲しい悲劇だと納得して、なんか悲しくなってしまう。しかし、それすら結局小瀬木という医師の推測でしかないのだが・・・。(でもたぶんそれが正しいのだろうと思う。その推理が一番すっきりする。リアルで、・・・・切ない)

思えば「葉桜〜」が読者だましのトリックだったのに対し、これはそのまま読めばよいだけで、もっと心の機微に迫った悲しい物語になっている。

ただ、この手の雰囲気のストーリーはたとえば東野圭吾の「容疑者Xの献身」なんかでも味わっていたりして、衝撃度は「容疑者〜」のほうが上だったりしたので、星は4つになってしまった。

しかし、歌野さん、こういう路線のほうがいい!これならいい!見直す!という感じ。よかった、おかしな方向に行きっぱなしだったらどうしようかと思ったし。(笑)

そうだ、ストーリーとはまったく関係ないが、イチゴが野菜だって初めて知った。

「苺は野菜ですよ。果物というのは樹木になる果実を指します。苺は草本性の植物、いわゆる草なので野菜です。スイカもメロンもパイナップルも。農水省の定義ではそうなっています。世間一般においては、フルーツは木本性や草本性を問わず、甘みのある食用果実というふうにとらえられており、日常的にはそれでなんら問題はありいません」

へ〜!!初めて知りました!

no.615
 

■ 雀野日名子
「トンコ(角川ホラー文庫)」 評価:★★★★★
Date:2011.12.04
第十五回日本ホラー小説大賞短編賞受賞作品。

この作品がこの賞を取ったのはいろいろ波紋があったらしい。この小説は果たしてホラーなの?という話で。

確かに。この「トンコ」というのは、養豚場の豚が高速道路を搬送される途中、トラックが事故で横転し、投げ出されたトンコという豚が兄弟たちのにおいを求めて山の中に逃げ込みさまよう物語なのだ。
ただ、それ、だけ。最後はまた養豚場の職員に保護される。その間、山をさまよい続けるトンコの物語。

どこがホラー?

怖くはない。まったく。ただ、養豚場の豚たちは、そのうち食肉となる自分の運命を知らない、その不条理さというか、不憫さというか、切ない思いはこみあげるが。
トンコは兄弟を姉妹を、追い続け、幻覚に見たり、怪我したりしながら・・・そしてそのうち町に迷い出て、犬に、人間においかけられ石を投げられ・・・・。

でも最後、好物のリンゴをほおばり兄豚を思い出す。

どこもホラーじゃないけれど、この小説を読めてよかったなぁって思わされる不思議さ。

他にも「ぞんび団地」と「黙契」が収録されてるが、そちらはホラーだ。腐乱死体の描写がリアルで食欲なくなりそうになるくらい見事な筆致。
それでもぞんび団地のほうはややファンタジーがかった感じで救われるが、「黙契」のほうはただただ救いようのない暗澹たる一遍なのだ。

とにかく、文字だけで読んでるはずなのに、腐った遺体の刺すような悪臭を感じるのはすさまじい。ああ、こんな死に方して、発見されるのが遅くてこんな腐って見つけた人が嘔吐して、厭われて、でもその魂の行き先が地獄だなんて、ほんと救われなさ過ぎて・・・。

食事前に読んではいけないというあとがきの言葉、身にしみます。

no.614
 

■ 東野圭吾
「真夏の方程式(文芸春秋)」 評価:☆★★★★
Date:2011.11.26
帝都大学物理学者の湯川、ガリレオ探偵のシリーズ。

小学五年生の少年、恭平が両親の都合で夏休みの間、伯母夫婦の経営する旅館に滞在することになる。海水浴場のある町とはいえ、今やひなびた廃屋などが立ち並ぶ過疎化した土地だ。その海が海底金属鉱物資源採掘のため荒らされようとしている・・。地元の反対グループたちへの説明会として、その開発側から呼ばれてきた湯川も、ひょんなことから恭平と知り合い、恭平のいる旅館に泊まることとなる。

反対チームでは恭平のいとこに当たる成実が頑張っていた。
伯母夫婦や成実たちの宿の名は「緑岩荘」。客とは言っても湯川と、もう一人塚原という老人が二人だけ。

恭平は湯川に宿題を教わったりして親しくなっていくが、そんな中、塚原老人が崖の下で遺体となって発見され、海水浴どころではなくなってしまうのだった。

塚原は元刑事で、CENSOREDするようなこともない。酔っていたようだし、浴衣だったし、きっと散歩中、足を滑らせて落ちた事故だろうと地元警察も解決したはずだったのだが・・・。

警視庁が動く。塚原が手がけていた過去の事件との関わりが疑われたためだ。湯川もなぜかこの事件に前向きに取り組んでいる・・・。何故か。

湯川は言った。
「この事件の解決の仕方によっては、誰かの人生がねじ曲げられてしまうのだ」と。
だから慎重に対処するべきだと。

湯川は何を見抜いたのか。
そして、湯川がそれほどして守ろうとした誰かの人生とは。

犯人が二転三転するような展開は、読者をひきこみ驚かせる。東野さんらしい面白さ。

ただ、どうもこの締めくくりってどうなのかなぁって思って。星は4つにしてしまった。

トリックとしても実は超単純であまりにお粗末というか、うーん、トリックがわかった時に驚かないというか、なんとなくそうだろうなとわかるようなというか。

ただ、湯川が相変わらず不器用で無粋で、でもすごく実は人情家だとあらためてしみじみ伝わってくる作品だったので、そこはよかったなぁ。ファンとしては。

ガリレオシリーズでランキングしたらあまり上位には来ないだろうけど、でも読んで損はない、て思う一冊。
ちょっと「容疑者Xの献身」が垣間見られる部分がところどころあって、そこもちょっとうれしかった(笑)

湯川のセリフ。
「この世界には現代科学では解けない謎がいくつもある。しかし科学の発展と共に、いずれはそれらも解かれていくだろう。では科学の限界はあるのだろうか。あるとすれば、何がそれを生み出すのだろうか。それは人間だ。人間の頭脳だ。たとえば数学の世界では、何か新しい理論を発見した時には、正しいかどううかをほかの数学者たちに検証してもらう。だが発見される理論は益々高度化していく。そうなると当然、検証できる数学者もかぎられてくる。ではもし理論が難解すぎて、ほかの誰もできなかったらどうだろう。それが理論として定着するには、別の天才が現れるまで待たねばならない。人間の頭脳が科学の限界を生み出すというのは、そういう理由からだ」

no.613
 

■ 山内令南
「癌だましい(文芸春秋)」 評価:★★★★★
Date:2011.11.10
これは知人が薦めてくれたので手にした本なのだが・・・。

読後絶句。言葉もなく。薄くてすぐ読めてしまうのだがその深さたるや並みではなかった。

作者は末期癌に侵されていた。その闘病の中での執筆。「癌だましい」で文学界新人賞を受賞して、その後「癌ふるい」を書いたのち10日後に亡くなった。
壮絶。まさに絶筆。

だからだろうか、赤裸々でリアル、食道癌の苦しみがこのようなものだったとは想像もしていなかった。食道が狭窄してさらさらした水分(お茶とか水)しか通らない。あとは胃に一切落ちず戻してしまう。水分も飲み込むとき痛みなどを伴って苦しい。
なにしろ一番つらいのは胃自体は普通だということだ。だから食べたい。お腹すく。
でもいくら食べても胃にいかないから空腹が癒される事は無い。

主人公で、食べることが人生で大食らいで肥満体だった麻美は見る間に84kgあった体重が半分になり、しまいには唾液すら入っていかなくなるのだ。
そうまでして民間療法というか、いわゆる医療的な治療を受けなかった。麻美は健康に無頓着だったりお金を惜しんだりだったろうが、作者も同じ選択をしたわけで、それはどういう心境だったのだろう・・・。

「癌ふるい」は、自分が末期癌だというメールを知人友人100人に一斉に送り、その返信に採点していくという構図になってるのだが、これも作者が実際やったのかなと思わせるリアルさ。その返ってくる様々なタイプのメールのリアルなこと。
自分だったら、きっとこのタイプのレスをするだろうってのが誰しもにありそうで、その採点により、送られた癌の当事者がどう感じるのかひしひしとわかるのがなんとも怖かった。

麻美が食べられなくなって一人で心の中で叫ぶのが痛々しかった。

「食いてぇ。腹減った。エビチリ、うまかったなぁ。ギョーザ、シュウマイ、ツナマヨおにぎり、カレーヌードル、イチゴのパフェ、焼きプリン・・・・・」

一度どなたも目を通すといい。普通なら患った当事者しか味わえないはずの苦しみがまるで自分のことのように味わえる。

軽々しく「頑張って!」などと言えなくなるであろうくらいに。

no.612
 

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