*Book review

■ アダム・ファウアー
「心理学的にありえない(文芸春秋)」 評価:★★★★★
Date:2011.11.09
どうもこの作者の前作「数学的にありえない」がミステリーとしてベストセラー話題作だったようだ。
そうとは知らず、その前作を読まない状態で、たまたま手に取った本作。

で、やっぱり当たり!面白い。
上下巻あったのだが、もうそのノンストップサスペンスの波に乗ったらあっという間!一気にやめられず読んでしまう。

イライジャという有能な市場リサーチコンサルタントをしている心理学者。ウィンターというカリスマ的ヴァイオリニスト。そして・・・謎のカルト教団グノーシスを率いるヴァレンティヌスという男。
イライジャとウィンターは肌身離さず十字架のネックレスをしていた。それが盗まれたとき、彼らの押さえ込まれていた本当の能力が覚醒する!!
その能力とは、感情移入能力・・・。
イライジャは人のあらゆる感情を色彩で感じることができ、ウィンターは音によって感じることができる。そしてその対象となる人物に直接触れさえすれば、相手を意のままに操ることもできるのだ!!

謎の盲目の男ラズロ。謎の尾錠ダリアン。二人の話を聞くうちに、能力だけでなく記憶まで封印されていた二人は十二年前のことを思い出していく・・・。
まだ少年少女だった頃、その能力を見出されある研究施設にいたことを・・・。
そこにチャーリーとジルという能力者の子供が一緒にいたことを・・・。

果たしてヴァレンティヌスの本当の目的とは?なにより・・・ヴァレンティヌスの正体とは?
邪悪なヴァレンティヌスの暴走を、果たしてとめられるのか・・・。

ヴァレンティヌスが定めた破滅の時をカウントダウンで示しながら進むため、本当に手に汗を握る。スリリング過ぎて力みながら読んでしまう感覚。

イライジャ!負けるな!ウィンターしっかり!ダリアン!逃げて!!

他のキャラたちも個性豊かで味があって、協力しながら打倒ヴァレンティヌスで突き進む様は疾走感あって面白いことこの上ない。

読み応えある上に飽きない。
だってね・・・。
ヴァレンティヌスの正体、ラストあたりであ、あのときの・・・と、正体見破ったり!と思っていたら・・・最後の最後に・・・超どんでん返し!!
え〜!!あいつだったんかい!そんなんあり〜?!でもきちんと伏線があった、確かに。間違いなく。

そしてヴァレンティヌスの、この壮大な悪の計画への動機となったものの真相も、まさにラスト4行に明かされる。そこまでわからない。驚き、少しヴァレンティヌスの孤独が見えた気がする。ラストまでそう思えなかったが。

これはすごい!「数学的にありえない」も読みたくなっちゃったなぁ〜。
オススメの作家さんだ。

no.611
 

■ 辻村深月
「水底フェスタ(文芸春秋)」 評価:★★★★★
Date:2011.10.24
過疎の村。でもそこで村おこしの一環でがまってからずっと続いている一年に一度の音楽祭、フェス。
村の閉塞感に辟易しながらもそのフェスを楽しみにしている音楽好きの男子高校生の広海。その年のフェスにモデルとして女優としてかつて一世風靡した織場由貴美が来ていた。少し年上の美しい女性・・・かつてこの村人だったのに村を捨てて都会に行った女性・・・。村を憎んで出て行った由貴美、村人たちもどこか疎んじている。なのに・・・。
何故戻ってきたのか?

急速に親密になってゆく広海と由貴美。どうしようもなく由貴美に惹かれ、でも村長の息子として村人の目があり、それを隠している広海。
幼馴染の不良少年、達哉は由貴美が戻ってきてるのを知り、由貴美と接触を望むが、広海は由貴美などよく知らないとしらを切る。達哉が何をするかわからないと思っているから。切れるとどうしようもない男だと知っているから。

しかし・・・。由貴美がかつて自分と母親を迫害した村に復讐するため戻ったと広海に打ち明け、村の不正を暴く協力を求めるのだが・・・。由貴美の本当の目的はもっと根深く恐ろしいものだった・・・。由貴美の本当に欲しかったものとは・・・。

そして悲劇の結末は・・・。

・・・今までの辻村さん作品とは思えないおどろおどろした感じと、暗い情念みたいなものが強くて恐ろしい。
由貴美は不幸で気の毒な人生だと思うけど、だからといって広海と深い仲になったというのは・・・人として恐ろしくおぞましい。(ネタバレになるのでそうおぞましいかは書けないが)

それでもこの悲劇のクライマックスからの展開は、かわいそうで泣ける気がした。
そこが辻村さんの上手さなんだろうか。

もうここまできたら、こうなってしまったら、こういう展開になってしまったら、絶対に絶対に幸福な輝かしい未来なんてない、とわかるのに、それでも希望を求めながら読んでしまった。由貴美・・・。

でもやはり当然ダメだった・・・。

広海が村に溺れず、やけにならず、ある強い決意を胸に出かけるラストだけが・・・未来というものを少し感じさせ信じさせてくれるものだった。

広海・・・負けるな、闘えよ、と。エールを送りつつページを閉じて。
ちょっと(かなり)重たいが、それでもちょっと胸が痛いような感じの・・・。テーマが・・・ずばり、一生に一度の恋、だから?そう、もうこれ以上は一生出会えないという恋。きっと、そこが・・・胸を打つんだろう。

秋の夜長に静かに読むといい感じの一冊。

no.610
 

■ 川瀬七緒
「よろずのことに気をつけよ(講談社)」 評価:☆★★★★
Date:2011.10.06
女性作家がW受賞したことで話題になった第57回江戸川乱歩賞のもう一方の作品。

テーマは呪い。民俗学者の主人公のもとに祖父を殺された女子大生が訪ねてくる。おかしな呪札が一緒に見つかったと。祖父は銃殺されたのではないかと、呪術に詳しい主人公を訪ねてきたというわけだ。確かにそれは強い憎しみで呪殺を目的とした秘術を使ったものだった。主人公は被害者の孫娘と二人で調べ始める。そして史実にも残らずひそかに継承されてきた祈祷家の存在に行きついた。彼らは高知、山形、福島の山間部の村へと真相を求めて足を運ぶのだったが・・・。

評にある通り、テンポよく会話も展開も進むため、謎が謎を呼びどんどんひきつけられて読むのがとめられない。新人作家とは思えないくらい。
ただ、ところどころ確かに不自然に感じる作者のご都合主義的な展開部文もあるのだが、まぁあまり気にならない。

「表の中に裏があり、裏の中に表ある。
 西へ向かえば五郎子に、東へ向いては前鬼、後鬼。
 北へ向いては剣の護法童子、南へ向いては谷の底。
 師走の月に雪なくば、よろずのことに気をつけよ」

この言葉の意味。そして、現場に残されていた丹頂鶴の血液が染み込んだ塩。穏やかで人望の厚かった老人が何故そんな強い呪いをかけられるほど恨まれていたのか。そもそも・・・本当に呪殺だったのか?殺人だったのか?

謎だらけ。村の雰囲気ものどかなはずなのに、どこか怖い。やおろずの神を感じる空気感。

最後の最後の方までどうなるのかまったくわからずハラハラし通し。
そして・・・なるほど、なかなか味な終わり方。ただし、そこも評は別れた部分らしい。あまりに最後が駆け足で早急すぎて中途半端なラストだと。

確かにちょっとそうかもしれない。でもほとんど感じないくらい面白い。
じれったいロマンスの雰囲気も味わえる。

今回は2作品ともなかなかよかったなぁと思う。小説はやはり、エンターテイメントじゃないと!(笑)

no.609
 

■ 宮部みゆき
「チヨ子(光文社文庫)」 評価:☆★★★★
Date:2011.10.02
今までの個人短編集に未収録の作品ばかりを集めていきなり文庫化したという、ホラー&ファンタジー5編が収められた一冊。

どれもよりすぐりだけあって、ホラーな中にも切なさだったり、ファンタジーなのにぴりっと辛口が効いてたり、秀作ぞろいだ。

ちょっとブラック効いてるホラー系の「雪娘」。おばあさんが亡くなったあと、そのおもちゃ屋さんに幽霊が見えると噂が出た・・・悲しい「オモチャ」。着ぐるみのバイトで、そのうさぎの着ぐるみを着ると奇妙なものが見えるのに気づき・・・「チヨ子」。恐ろしい民話とも都市伝説ともつかない話が実際あった殺人事件と重なった「いしまくら」。ラストの「聖痕」は哲学さえ感じる深さのホラーファンタジー?だ。

個人的には雪娘とチヨ子が好きだった。

ちょっと時間があいたときを使って読むのにいい感じの、宮部ワールドである。

no.608
 

■ 玖村まゆみ
「完盗オンサイト(講談社)」 評価:★★★★★
Date:2011.10.02
第57回本年度の江戸川乱歩賞受賞作。W受賞だったので、じきもう一方も読む予定。

評にもある通り、奇想天外でパワフルな設定と展開。キャラが活きているのも、評の通りでうなづける。とにかくひきつける力はすごい。多少の非現実さなんて吹き飛んでしまう。

オンサイトとは初見でトライするという意味の登山用語らしい。下見とか無しで、その場でその地形を見て練習とかなしでぶっつけ本番で挑むというとても難しいトライ方法をさす。だからこそクライマーの経験と実力がわかる、成功したら素晴らしいトライなのだ。

で、天才的なフリークライマーの主人公が、同じくクライマーとして名を馳せていた葉月との恋愛に破れ、帰国して浮浪者同然の生活をしているシーンから始まる。
金がない。でも親に頼りたくないので帰国したことすら伝えてない。でも中卒で海外でロッククライミングばかり腕を磨いてきたトオルには就職のクチすらない。
ついに行き倒れたトオルを救ったのは、いかつい顔した小さな寺の住職。その寺には斑鳩という失語症のやせこけた少年がいた・・・。

ひょんなことから住職の依頼ではじめた建築現場でのバイトで、ある男にクライマーとしての実力に目を止められ、とんでもない依頼を引き受けることになるのだが・・・。
報酬は一億。金など興味のないはずだったトオルが、別れた彼女葉月を助けるために依頼を引き受けることを決意する。
斑鳩の病の原因も知り、そちらも解決したく悩みつつ、とりあえずそのとんでもない依頼のために動き出すトオルだった。
その依頼とは。
樹齢550年の名盆栽を皇居から盗み出すこと!!!

まず、トオルのキャラがまっすぐで朴訥で、でも頑固で・・・いかにも山男って感じなのがいい。いいな〜って思う。葉月に振られても葉月一筋な不器用な様もすごくいい。
もてないのにスミレばあさんなど、おばさまにモテるようだからか?私なんかくらっときちゃいそう(笑)

住職も抱えてるものが過去にあったりして、そしてそれが斑鳩をいかに引き取ったかの布石になってるところもすごい。不自然じゃない。斑鳩をめぐる不穏な男との不気味な接近もハラハラする。本気でハラハラなんだな、これが。とんでもない展開になってくし・・・。

依頼主の國生グループの肇や環兄弟もすごくいい味わいだ。兄弟の確執、なんてありきたりなんだけど、そこにもっと複雑な思いが絡んでいたりして、深みがあると思う。

なにより。斑鳩のこと、葉月のこと、その壊れた男のこと・・・盆栽盗難だけでなくそちらと平行して進んでいくテンポに乗せられあれよあれよと読めてしまう。

最後まで・・・盆栽はどうなるのか、誰が盗んだのか、そもそも盗めたのか・・・わからないまま進むスリル。

結果は・・・うん、いい感じ。爽快。私もトオルとともにオンサイトで空に向かって登ってみたいなぁなんて思いながらラストページを閉じた。

かっこいいトオル!(笑)

no.607
 

■ 森絵都
「この女(筑摩書房)」 評価:★★★★★
Date:2011.09.26
1994年。それはかの阪神淡路大震災の起こる数ヶ月前の大阪。甲坂礼司という二十五歳になる青年が、ひょんなことからホテルチェーンオーナーの依頼でそのオーナー夫人である結子という女を主人公にした小説を書くこととなる。釜ヶ崎で貧乏困窮する生活をしていた礼司はその話を持ちかけてくれた大輔という大学生のはからいで神戸の仮住まいを得てワープロで小説製作にとりかかる。ところが結子の話は二転三転、ほらばかり吹くのでなかなかはかどらずいる・・・。そんな中、結子の弟敦の話から依頼主、二谷の本当の目的を知り、そこからある意味本当の小説製作が始まるのだ。

プロローグは現在。礼司が書いた小説のフロッピーと印字された原稿を大輔の大学教授に送り、それが震災により15年誰にも読まれず埋もれていたのだった。それをやっと見つけて読んだ教授が、大輔に手紙を添えてそれを送るのである。
この女、とタイトルにあるが、これは礼司くんも主人公たる、この男、というタイトルでもよいのではないかと書き添えて。
そして、震災により生死不明のままの礼司や結子が、いまだ生きて頑張ってると、教授同様、私もどこかで信じてる。

そう、これは結子の生き様、すさまじくいい女っぷり、だけでなく、絶望に慣れてすべてあきらめていた礼司の、再生の物語でもあるのだった。
結子と接するうちに、礼司は希望という光を始めて見出したのだ。ハンデがあることを恥じ、隠し、どん底でもがき、でもただその日暮らしで溺れそうになりながら強がっていただけの礼司。絶望しか知らず、でもプライドは捨てられない苦しみの中でいた礼司。

はじめて、未来というものや、その中にある不確かであるけれど、可能性が潜んでいる希望というものを感じ取ったのだ。
結子によって。

結子が、これまたどうしようもないようでいて、実にいい女過ぎて、私は同性であるけれどクラクラした。惹かれた。

おそろしく特殊で変な女。でもなんてオーラだろう。
だから絶対に震災でも、それ以降に起こるサリン事件でも、へこたれず負けず倒れたりしてないはずなのだ。
それを知ってる礼司も。今までとは違う礼司。だから彼も大丈夫なはずだ。

結子の記述はこんな感じだ。

「結子は特異な存在感の持ち主だ。美人ではないけれど華があり、表情も豊かなので一緒にいると目が行くし、気にかかる。なのにいなくなると何も残らない。」

「「家族なんていらんやろ。なんで家族にならなあかんのか。他人のままでええ感じにおれんのか。」
 「他人のまま?」
 「他人のままかてええやん。家族に負けん何かがあれば、たとえば絶対無敵の性欲やとか」
僕が思うままを口にすると結子は眉を垂らした。
 「あんた、眠いんやな」
 「うん」
この女は壊れてるけど空っぽではない。
乱れているけれど汚れてはいない。そんなことを思いながら僕は眠りについた。」

結子は小説最後のセリフでオムライスを食べながらこう言うのだ。

「子供心に思うたわ。なんも高望みしとるわけやないのに、幸せになるちゅうのは難しいもんやなって。たぶんうちは一生、みんなが当たり前みたいに持っとる幸せを手に入れられへんのやろなって。そやけど、今は思うねん。オムライスはただのオムライスや。ただのごはんや。ばくばく食べたらええねん。幸せは、絶対、もっといろいろや。休日のオムライスとか、日曜日の動物園とか、そないな幻想に負けたらあかん。うちは絶対、負けへんわ。絶対、負けない」

no.606
 

■ 畠中恵
「ちょちょら(新潮社)」 評価:★★★★★
Date:2011.09.21
江戸時代。困窮する多々良木藩の留守居役を自害してしまった兄のあと、拝命した新之介。しかし優秀だった兄と比べ、新之介は留守居役の何たるかもよくわかってない新参者。同じ留守居役仲間の先輩たちにいじられ鍛えられ、それでも不器用この上なく。およそ留守居役に必要とされる金子に伝手に口八丁の情報収集力、そのすべてが足りない有様。亡き兄の自害の理由も知りたい。ひそかに想っていた兄のいいなずけの千穂も父親ともども行方をくらましてしまったその理由も行方も知りたい。
そんな中、突然もちあがった印旛沼お手伝い普請の噂。もし多々良木藩に当番が回ってきたら間違いなく多々良木藩は絶藩となる。だけど自分の藩だけ抜け駆けするテクニックも金子もなく、先輩方をだしぬく性格でもない新之介が考え付いた意表をついた誰もが驚く作戦とは。

果たしてうまくいくのか。新之介の間正直で優しく嘘のない気質に次第に周りのつわものどもがそのペースに巻き込まれ、協力体制がうまれてゆく・・・。そして思わぬコネによる大物との面識もできてゆく・・・。

面白い!千穂への恋のゆくえと、多々良木藩を救えるかのゆくえと、本気で応援しながら読んでいた。
曲者ぞろいの留守居役たち同様、新之介に惹かれてしまうのだ。
その要領の悪さ、人のよさ、まっすぐさ、ブラコンの有様、千穂へのふがいなさ、そのすべてにあきれながらも惹かれて、そしてみんなのようについつい手助けして味方したくなるのだ。

しかし、武士の世界も今の社会と変わらないなぁ。金にコネに賄賂に取引。今の政治家と同じ感じ。そんな中での新之介が、だから新鮮ですがすがしく見えて好きになってしまうんだろう。

読後感もさわやか。千穂のいう、新之介は兄の千太郎よりはるかにはるかに強い人なのだという意味がよくわかる。

これは秋にオススメのいい一冊でした。

no.605
 

■ 深木章子
「鬼畜の家(新潮社)」 評価:★★★★★
Date:2011.09.11
私立探偵の榊原は元刑事。ある依頼を受けて13年前の医師のCENSOREDについて関係者から話を聞いて調査している。そして榊原は自分の娘と同じくらいの年の由紀名の話を聞くうちにある推理に確信をもつようになる・・・。その驚愕の真相とは・・・。
やがて語り始めた由紀名の話は恐るべきものだった。
「あたしの家は鬼畜の家でした」

証言者たちはひとくせもふたくせもあり、死んだ北川医師やその家族たちとも因縁がある。でも、結局。証言者たちは誰一人、嘘はついていなかった。真実のみを語っていたのだ。細部までも。すべてが真相のときに矛盾なき伏線となっている。推理の糸口にも。

いや、たった一人だけが大芝居をうっていたのだ。そして・・・ずっと読者自身もだまされていた、鬼畜、の正体。鬼畜はいったい誰だったのか。

どろどろしている。CENSORED、幼児性的虐待。保険金目当てのために仕組まれた事故死(結局他殺)。

最後に鬼畜の正体がわかって、証言者たちの話の羅列にもトリックがあったこともわかって、それでも・・・。
その鬼畜が、まったく罪悪感を感じてもいないふてぶてしい鬼畜が、哀れに思えるのは何故だろう。

たぶん、このミステリーはミステリーとしてのネタは新鮮ではない。そうあとがきにもある。横溝正史なんかが近い路線は書いていただろう、と。でも衝撃は横溝より新鮮に打ちのめして感じられたのは何故だろう。

しかし、本当に・・・自分も女だからなんだけど、本当に女はすごいな・・・。
ちょっと鳥肌がたつすごみのある物語だった。

no.604
 

■ 荻原浩
「月の上の観覧車(新潮社)」 評価:★★★★★
Date:2011.09.08
時が戻せたとしたら自分はあのときどうしてただろう。もしやり直していたら今の苦さはない人生だろうか・・・。選択の連続である人生というもの。生きることの悲しさ苦さを静香に受け止める物語は全部で8編。どれも心を揺さぶられる。

「トンネル鏡」は母親を捨てて妻や子供との裕福で幸せな家庭を望み、がむしゃらに突き進んできた男が、妻に見捨てられやがて疎んでいた母をも亡くし、一人故郷へ戻る電車からの車窓を見つめる男の姿を哀愁たっぷりの回想とともに描かれている物語。嫌っていたはずの母の弁当の塩辛。何故か懐かしい。もう一人きりで生きていかねばならないのに。

「金魚」は妻を失ったあとどうも心が壊れてしまった男の譫妄状態での幻想を男主眼で書かれているため、読んでいるこっちもちょっと現実が曖昧になる錯覚になるような物語。いないはずの妻に語りかけ、でもいないことをきちんと本当はわかっていてふとまともに戻る。その軸にある孤独という地獄を感じるさびしい物語。

「上海租界の魔術師」は戦前上海で魔術師として名を馳せていた祖父が日本で息子夫婦と同居しはじめやがて認知症になって亡くなるまでの物語。お荷物扱いされて肩身狭そうにしていた祖父だが、孫娘に見せるマジックは確かでそして・・・本物みたいだった。いくつかは本当の魔法があったのではないか?妻でなく、上海時代に本当に愛していた女性の姿を最後見られてちょっと切ない笑みが浮かんだ。そんな物語。

「レシピ」今日定年退職してくる夫のために腕をふるって料理を作る妻。そして独身時代からためてきたレシピの書かれたノートを見ながら過去の男性たちや夫とのことを回想する。なんと彼女が夫の帰りを待って告げようとしていることとは・・・・。ちょっと妻という立場として身につまされる物語。

「胡瓜の馬」きっと初恋できっと純愛で、そして一番深い恋愛だった。小学校からの幼馴染のサナ。でも男は大学とともに東京へいき、それから別の生活を送るように。サナは結婚したと聞き、自分も家庭をもつ身となって久しい。それでも同窓会に行く気になったのは、40歳になって、そう、あの噂が本当だったか信じられなかったからだ・・・サナが死んだなんて。

「チョコチップミントをダブルで」は、妻に離婚を言い渡され愛する娘とも年一回しか会えずいる男。でも元妻が再婚するということでついに今度の逢瀬が娘と会う最後になったという日。娘がリクエストしたのはまだ家族三人でいた頃、よく行った小さな近所の遊園地でのアイスが食べたいというものだった。そして・・・声を合わせて頼んだのは二人とも同じ。チョコチップミントのダブル!やはり親子なんだ!と泪をこらえて男は微笑むのだ。

「ゴミ屋敷モノクローム」近所のクレームを受けて生活環境課の男はいやいやゴミ屋敷に住む老女(認知症)を訪ねるのだが・・・徐々に老女の過去を垣間見たりして少し同情的にもなっていく。やがて老女が倒れ、強制的に屋敷を掃除することになったとき。暗室が見つかる。そこにあった写真とは。老女にもかつてあった人生。ちょっと悲しくなる物語。

「月の上の観覧車」末期癌の男は昔乗ると死者に会えた夜の観覧車に一人で乗りこんだ。そして人生を過ぎていった様々な人に会う。13歳で失った息子にも。仕事で省みずにいるうち亡くなった妻にも。・・・走馬灯のように。

どれも死が関わるせつなさと、でもそこにある愛というものがひしひし感じられて本当にきゅんとくる物語ばかり。

最後の観覧車なんて、月光が差し込む車内で一番頂点になると見えてくる愛する人々とのつかの間の再会シーンがきれい過ぎて。それだけで涙が出そう。

人生が苦いものだとそろそろ気づき始めた年頃の人にはまさにうってつけ。秋の夜静かに一人読みたい本であります。オススメ。

no.603
 

■ 山本幸久
「ある日、アヒルバス(実業之日本社)」 評価:★★★★★
Date:2011.09.04
アヒルバス入社五年目の観光バスガイドの高松秀子、通称デコ。わがままなツアー客に振り回されたり、いきなり新人研修の教育係にされて個性的過ぎる新人たちにてんやわんやしたり、悩み多き仕事漬けの日々。でも明るく前向き、元気。そんなある日、アヒルバスを揺るがす事件が起きて
!笑いあり、感動ありのバスガイドたちの姿と、東京の車窓風景が生き生きと描かれている痛快な物語。文庫版のために書き下ろされた東京ツリー編「リアルデコ」も収録されてるお得な一冊!

バスガイドってあまり意識したことなかったけれど、小学校中学校の修学旅行とかで結構お世話になったよなぁなんて思い出す。そしてバスガイドって実はものすごく大変な、でもやりがいのあるお仕事なんだなぁってあらためて気づいた。
特にデコは!なんて魅力的!美人じゃないし、ダイエット失敗ばかりでスタイルもよくないし(笑)、とにかく天然だけど、本当に魅力的。生き生き仕事してる。ちょっと破天荒だから鋼鉄母さんと呼ばれてる戸田先輩にも叱られてばかりだけど・・・。でも戸田さんも本当はデコのこと、認めてるんだと思うなぁ・・・。マニュアルを超えてる才能みたいな?

ちょっとした事件がデコのツアー内であったりしても、帰国子女の新人クウちゃんが研修中に逃げ出したときも、結構鋭い推理でもって犯人のめぼしはつけちゃうし、クウちゃん連れ戻しに行っちゃうし。
頼もしいのだ。いい先輩なのだ。そして戸田さんや、辞めちゃった三原先輩にとって、愛おしい後輩なのだ。三原さんがいかにデコの存在を愛おしく思っているか救われているかは、リアルデコを読めばよぉくわかるから、こちらも必読!

読後感は爽快。頑張ってるデコの姿に、自分ももっと仕事を頑張ってやらなくちゃなぁって思わされた。デコ!ずっとそのままでいて!(笑)
東京生まれだけど、八王子出身なので、東京観光ったって浅草寺すら行ったことがなく、地元愛はない。バスガイドもなんとなくなっただけで、そう仕事に強い愛着があるわけではない。でも仕事だから、やるからには徹底的にやります!ってなもんだ。
そんなよくいるようなふつーな女の子。

ちょっと笑っちゃった、本筋とは関係ない文章を載せちゃおう!(笑)

「三ヶ月前、この寮に泥棒が入り、大勢の人が被害にあった。金銭や貴金属ではなく、下着を盗まれたのである。デコの部屋にも入った形跡があった。箪笥の下着が入った棚をひっかきまわされていたものの、一枚も盗まれなかった。お気に召さなかったらしい。犯人はその後お縄になり、新聞沙汰にもなった。今はどこかの刑務所で服役中のはずだ。・・・面会に行って、あたしの下着のどこが気に入らなかったのか聞いてみたいもんだよ」

「三原先輩は三十三歳のはずだが、二十代後半でも十分通用する顔立ちだ。目鼻立ちがはっきりしている。唇は薄からず厚からず、ちょうどいい具合だ。小顔であごはシャープ。そしてなにより肌がきれいだ。目尻のしわはやや目立つものの、肌は張りがあって瑞々しかった。昔、カレシだった男に、背中にオイルを塗られながら『お前ザラザラしてるな』と言われたデコにはうらやましい肌だった。」

no.602
 

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