*Book review

■ 中山可穂
「ゼロ・アワー(朝日新聞出版)」 評価:☆★★★★
Date:2017.03.29
一言で言おう。かっこいい。ハードボイルド。でも切ない。

殺し屋の世界はかくも切ない。
復讐は復讐を産む連鎖。
どこかで断ち切らねば終わらない絶望。

ハムレットというコードネームの東洋人男性。プロの殺し屋だ。百戦錬磨、失敗なし。
タンゴを愛する男。それだけ。生きる希望は特に無いし、愛する存在も持たない。だけどタンゴだけ。
ある家族を一家皆殺しの依頼で、子供を殺したことで始めて罪悪感を抱き、うっかりそこに飼われていた猫を殺せず連れ帰ったことが運のつきだった。ハムレットに全く懐くことのないその猫の首輪に猫の迷子防止のGPSが仕込まれていたのだ。海外に飛ぶも、足取りが警察にばれることとなる。
一家の長女は当時林間学校で留守にしていたため殺せなかった。
まだ少女だった広海は、絶縁状態だったアルゼンチンに住むクリーニング屋の祖父に引き取られることになる。

祖父はリュウという名前で呼ばれ、日系2世だった。
なにか秘密めいたリュウの行動に、広海が尾行や部屋の捜査をして、祖父がただのクリーニング屋ではなく、かつて凄腕の殺し屋稼業をしていたことを突き止める。
かつてリュウに殺された一家の生き残りの子供がめぐりめぐって何十年の時を経て、身内である息子家族抹殺を殺し屋組織に依頼したのだ。あてがわれた殺し屋がハムレットだったというわけだ。

広海は祖父に復讐を訴え、殺し屋としてのノウハウを叩き込まれる。
かつてはクラシックバレエを習っていた広海だが、亡き父がタンゴ好きだったことやその殺されたときに唯一ハムレットによって持ちさられたタンゴのレコードなどにより、犯人もタンゴを愛する存在であると知り、バレエからタンゴに習いものを変える。

やがて心身殺し屋として立派に成長した広海、しかもタンゴの腕も一流の上手さで、その上皆が目を見張るほど美しい女性に成長する。
20歳のとき、リュウとミロンガでタンゴを踊っていたときだ。
リュウから言われる。お前の父や母、弟をCENSORED依頼をしたマフィアは既に殺したと。
そして殺し屋組織へのアクセスの仕方、パスワードなどを。
そして、ハムレットというコードネームの殺し屋をおびき出すため、自分の殺害を依頼したと。
ハムレットがリュウを殺しに来たとき、逆に返り討ちにしてCENSORED予定だと。
リュウがしとめ損ねたときに、はじめて広海が代わりに殺れと。

しかし、リュウとタンゴを踊っている最中、リュウはハムレットに殺されたのだ。広海の目の前で。
リュウもただでは倒れず、ハムレットの顔を撃って吹き飛ばし、ハムレットは命からがら逃げたものの、弾は頭蓋骨の内側にあり取り出せない状態になる。顔の形成手術は組織のもぐりの医者に治してもらえたが、以来、ひどい頭痛に悩まされ、目がかすむ症状に、しばらく仕事もない日々に。

広海はリュウとの誓いを破り、自分が殺し屋として名を馳せ、組織の入り、ハムレットに近づいてCENSOREDことを決意するのだ。

やがてチャンスが・・・。大きな殺しの依頼で、広海(ロメオというコードネーム)とハムレットがペアを組まされることとなる・・・。

実際。
広海はハムレットを葬れることになるが、・・・悲惨。
ハムレットが哀れだった。
猫を何十年も飼い続けて、(猫は結局ハムレットに懐きゃしなかった)固執していた。孤独なハムレットの支えはタンゴとそのアストルという名の猫だったのだから。

広海はハムレットを殺したあとアストルと再会し、はじめて幸せな眠りにつくのだが。。。
彼女にはこのあと、この猫以外なにもないのだ。あとは死のみだ、一生追われる身だ。

殺し屋という非情な世界をやけにリアルに感じて、悲しくなった。心を持ったら負ける世界。

そしてやはりかっこよさも感じてしまったのも否めなかった。

no.787
 

■ 芹沢央
「雨利終活写真館(小学館)」 評価:★★★★★
Date:2017.03.23
心温まる話が4編。
そこは巣鴨商店街にある小さな写真館。
遺影専門というところが巣鴨らしい。
でももちろん若い人だって訪れる。遺影は大切なものだとは私も思う。写真写りが悪いので。

黒田ハナの祖母はなぞな遺書を残して突然事故で亡くなった。生粋の大阪人だった祖母は家族にクイズを出すのが大好きだった。その報酬がお年玉などに反映されるほど。
その祖母が一番面倒をみたハナの母の名を遺書に一切記しておらず、なにかあるのではとハナは雨利写真館を訪れたのだ。

夢子というがめついオーナー。
道頓堀という名のエセ関西人のアシスタント。
そして無頓着な風貌と態度の大男、カメラマンの雨利。

結局、ハッとするような案の定のクイズ方式だったわけで、ハナは祖母の愛情を感じてほっとする。
ところでハナは表参道の有名店のヘアメイクを仕事としていたのだが、客の男にだまされ知らずに不倫していたのだった。そして寿退社したあとにその事実を知り、失意のままプータロー状態だった。
雨利写真館でヘアメイクを募集していると知り、雇ってもらうこととなる。

ばらばらだった家族が一気に謎をハナが解いたゆえにひとつになった撮影もあった。
そこでは孫が色覚異常だった。でも家族全員本人すら気づいていなかったのだ。それでできた溝が一気に埋まる。

テレビの取材で使いたいといわれた写真にはメモ書きが。幸せそうな妊婦と寄り添う男性。ではどちらかが若くして亡くなったのか?
娘と連絡が取れたが、父の顔を知らないという。でも写真に書かれた男性名は父の名ではなかった。
どうして?その謎も解けたとき、じんわりとしみてくる。
雨利の一言でハナがといた謎。

ある余命宣告を受けたイケメンの男性がモデルと見まごう美女を連れて来店。
娘のようだ。
その後、妻と再び遺影撮影予約。なぜばらばらなの?
そのあと娘だと思っていた美女が娘ではなかったことと知り、愛人だと感じたハナはおのれの過去と重ねて憤る。
ところが・・・・。依頼者が亡くなったあと判明した事実とは・・・。

どれもこれも。とても好き。続編読みたいくらい。
そして、ハナが徐々に立ち直ってゆこうとする姿も好き。見届けたいくらい。

よい本を読んだあとは余韻が長くある。

no.786
 

■ 澤村伊智
「ずうのめ人形(角川書店)」 評価:★★★★★
Date:2017.03.13
続けて同じ作家さんを読む。
感想としては前作デビュー作と同じ呪いは人が生み出すというテーマだ。
でも個人的にはこちらのほうが怖かったのは、日本人形がモチーフだからか?
今度取り扱うのは都市伝説。
昔の口裂け女やリカちゃんからの電話、トイレの花子さん、赤いちゃんちゃんこなど、昔からその手のものはあるのだが、よく考えればナンセンスなような、根拠もないものなのにどうしてこんなに人を震撼させるのか?

今回のは ずうのめ人形 という都市伝説で、元はしがない小学生の女の子の創作だったはずなのに・・・。なぜ人が死ぬ?どうして呪いになった?
リングのように?

また真琴や野崎が登場する。琴子もちらっと。そして初出場のもう一人の琴子の姉、美晴。そう、美晴もずうのめ人形に殺されたのだ。

ずうのめ人形の話を聞いたらその4日後にずうのめ人形に目玉を奪われ殺される。
それは大昔のことだ。
あるオカルト雑誌のライターがその都市伝説を調べていて惨死する。その原稿になぜ美晴が出てくる?これは・・・実話だ。
里穂というかわいそうな少女が呪いを発動させたというこの物語は・・・実話なのか?
原稿によると里穂にずうのめ人形の話を聞かせたのはゆかりと名乗る少女だとある。

雑誌の編集室で働く新人の藤原君は自分が呪いにかかったことを知り、日に日に近づいてくる、自分にしか見えないらしき日本人形に怯え、野崎や真琴となぞに挑む。

たどりついたのは・・辻村ゆかりという料理研究家。
そこからどんでん返しの展開が始まる。
ゆかりとは誰?里穂は誰?そして、ずうのめ人形はどうして生まれたの?
ずうのめ人形は瑪瑙達と書いてメノウズと読ませる喫茶店の名前を逆から呼んだもの。
ずうのめ人形を追い払うおまじないは、僧、文是を逆に3回読むこと。
そう ぶぜん。これを逆に読めば?

これがからくり。そうなのだ、都市伝説なのだから・・・。

でも呪いは生きた。誰のおかげで本物の呪いになった?

悲しい結末だけど、一応みんな無事。呪いは消えた。

うーん。詳しくは書かないけど、戸波編集長がまさか女だったなんて。
ライターの湯水の本名と、遺書にあった弥生という元妻の正体がわかったとき、なぞはすべて氷解する。

今回、真琴と野崎の結婚式というラストがいい感じなのだが、藤原くんの心に呪いを生み出した里穂と同じ隙間があることを示唆してやはり不穏に幕を閉じるのだ。

あっというまにやめられず読んでしまうのは前作同様。
面白かった。怖かったけど。

no.785
 

■ 澤村伊智
「ぼぎわんが、来る(角川書店)」 評価:★★★★★
Date:2017.03.06
第22回日本ホラー小説大賞受賞作。
それだけあって、ホラーの王道。読みながらぞっと戦慄が走る怖さ。これで新人ならすごいと思った。

ぼぎわんと呼ばれる化け物。あんなもの、呼ばなきゃ来ない。でも来てしまったら、関わると殺されてしまうのだから、本当にたちが悪い。
秀樹は香奈という優しい妻と知沙というかわいい幼い娘との幸せな生活を送る男だった。ところがある日を境に身の回りに恐ろしいことが起こり始める。秀樹が思い出したのは、少年時代、祖父を訪ねてきた不気味な来訪者のことだった。ドアを開けてはいけない、答えてもいけないと取り乱した祖父。あのときと似ている。それからと思われる電話を取っただけで呪われ死んでしまった後輩。医者も首を傾げる原因不明の死因だ。その化け物は確か・・・ぼぎわん。香奈と知沙を守ろうと、つてをたどって出会ったのは野崎というオカルトに精通している学者とその恋人で霊媒の仕事をしている真琴という女性。
ところがぼぎわんの執拗かつ狡猾な猛追から逃れそこない、結局だまされ秀樹は食いちぎられるのだ。

1章目が秀樹の一人称だったのが、2章は妻の香奈の一人称に代わる。すると見えなかったものが見えてくるのだ。秀樹と香奈はうまくいってなかったこと。秀樹が死んで香奈は悲しんでいないこと。しかし真琴には見抜かれていたし、それに、真琴の姉で真琴よりはるかに強く経験値もある霊能力者琴子の助言もあり、ぼぎわんは知沙を狙っていることを知る。真琴や野崎は必死に守ろうとするが、真琴は倒れ、知沙はさらわれてしまう。香奈は発狂した。

さあ。ラストは野崎の一人称。クライマックスだ。琴子がついに立ち上がる。
ぼぎわんと闘うのだ。
野崎は学者なので、この章ではぼぎわんの正体、誰がぼぎわんを呼んだのか、そして民俗学との絡みや魔導符なども出てきて、なんとも現実味が増し、怖さがじわじわくる。
琴子との対決はスリルにあふれ、しかも琴子がやけにかっこいい。

ラストも大団円と見せかけて、不穏に終わらせるところなど、怖さがにくい。
琴子がかっこよかったので、続編出ないかなぁなどど思いながら本を閉じた。

no.784
 

■ 道尾秀介
「staph(スタフ)(文芸春秋)」 評価:☆★★★★
Date:2017.02.16
夏都は夫の浮気が許せず離婚して、夫婦で始めようとしていた移動デリをランチタイムに一人で始めたいた。
姉の冬花は看護婦で、離婚したのち支援団体に所属してアフリカの派遣看護士として飛び回っており、その間中学生の息子の智弥は夏都と暮らしている状態である。智弥はいつもインターネットを黙々としていて、あまり感情を出さないで夏都の愚痴に耳を傾ける。そんな男の子だ。
移動デリのためのランチタイムの駐車場を見つけてくれたのも智弥だった。

智弥の塾の菅沼先生は何かと夏都の弁当を買いに来ては声をかけてくる。
駐車場を貸してくれている棟畠がある日突然駐車場を貸せなくなるかも、と言い出し夏都は愕然とする。もしかして愛人にでもなれば貸すよう何とかするとも言われ、夏都はそこの駐車場を諦めることにした。
その矢先。
突然夏都は拉致られる。ネットアイドルというカグヤと名乗る美少女とその取り巻きに。姉が売れっ子の女優で、結婚するのだが、その障害になるあるメールを削除せよという要求だった。
もちろんそのメールに覚えはなく、人違いで拉致られたのだが、夏都はカグヤに協力する気になる。智弥の部屋でカグヤの写真や切抜きを見つけて、智弥はカグヤのファンなのだと思ったのもあって智弥とカグヤを会わせてあげた。

・・・紆余曲折あって。結局そのメールは消せなかった。ほかにも棟畠が絡む土地ブローカーとのトラブルなどで、しまいには移動デリの車が爆発する大事件まで・・・。

ニュースになったこともあり、夏都は冬花に電話で事件を伝える。冬花は智弥が巻き込まれたことに驚き、(怪我はなかったのだが)急遽帰国することとなる。

大まかに言ってしまえば、これはサスペンスアクションと見せかけて、結局は大人じゃなくて子供二人が起こした幼稚で純粋な願いが根源の事件だったのだが・・・

どんでん返しとしたらそこなんだろうけど、そうだとしたら道尾さんの作品にしては驚きは少ない。少ないが、棟を打った。
智弥が最後みせた素顔が、突き刺さった。
自分が男の子の親だからかもしれないけど、子供はこんなに本当はいろいろわかってて我慢して諦めて悲しくてさびしくて苦しんでたりするのだ。

そこが印象に残る一冊だった。

no.783
 

■ 井上荒野
「赤へ(祥伝社)」 評価:★★★★★
Date:2017.01.05
短編集だが、どれにも「死」が描かれている。重く暗い。
「虫の息」はまだ老い先短い老女の友達同士の話で、多少救いというか、悲しいけど複雑な友情を感じるからましだとしても。
「時計」は何十年も前に死んだ幼子の死因を知っている者を娘の前から徹底的にいまだに排除しようとするかたくなな母の愛?を少しおぞましく感じる。その不気味さ。
「逃げる」は、不倫相手の妻が通り魔に刺殺されて、その後の不安定な夫であった男と相手の女の気持ちの壊れ方が気味悪い。男はやけくそのように、そして女はすっかりさめたような・・・。男が最後CENSOREDしてしまうのか、助かるのか、わからないけど、静かにとめもせず見つめる女が恐ろしい。
「ドア」はあるスナックでだけの仲間の一人がCENSOREDしてしまったのだが、それを知るのはそこにウエイターの男だけ。ほかの人はたまたま姿を見せないだけでいると思っていて、・・・その薄い付き合いはまるでネットでの世界のようでもあり。なぜ、主人公はみんなにいえないのかわかるようなわからないような・・・。
「ボトルシップ」は昔ほんの少しだけ関わったクラスメイトの男が大人になり、癌を何とか克服した女の元に友達をつかわせるのだ。花束とともに。その男は病死しており、友達と名乗るその男は癌なのだという。検診のたびに大丈夫で生き延びたら彼女のもとに訪れるのだ。ところが途中からこなくなる。癌で亡くなったのか、気まぐれでもう飽きたのかわからない・・・。でも・・・きっと・・・。
「十三人目の行方不明者」破天荒な友人が蒸発してもうじき7年。だから友人の一人だった自分はその妻と恋仲に・・・。ところが7年目前に何事もなかったかのごとく帰ってきて・・・。あかねというとの妻は結局、そいつから離れられない。挙句・・・やばいことに手を染めて逃げ帰ったようで、結局殺されてしまうのだ。でもつかれきった自分はもうあかねを追いかける気もうせている・・・。
「どこかの庭で」ある女性のブログを読んでファンとなり、真似てガーデニングをはじめたが、夫はあきれている。そのうちブロガーの女性は癌になって・・・更新が滞る。夫はそのころ仕事をやめて会社を作るといいだし、協力者の女性と不倫している気がする・・・。が、結局会社たちあげの話もその女性も消えて元さや。ブロガーの女性はおそらく亡くなっただろうけど、日々は淡々と流れてゆく。
「赤へ」妻とその母は密着していた。離れられない。そこに来た男は居場所も居心地も失い、結局母の介入がひきがねで、やがて、男が妻に離婚を切り出す。その夜妻はCENSOREDしたのだ。それで母は立派な家を売り払い、施設に入ることに・・・。それを最後の仕事を手伝った男だったが。結局母は男が娘を殺したようなものだという言葉を撤回しないまま。ほんとはきっと許してるのに。男も二度と会うこともないだろうとその部屋をあとにする。
「母のこと」母が末期がんで助からないと告知されたとき、ほっとしたようだった。
そう、父が死んで、娘と暮らしていたのだが、生きる気力はもはやなかったのだ。
娘のために生きている感じ。でも最後までたおやかでおだやかで、それが悲しかった。切ない話である。
「雨」娘と幼馴染の子がCENSOREDした。なんとなく娘の様子が気になり、娘の携帯のラインをそっとのぞいてしまった母。そこにはその子をいじめているグループ部屋のコメントの数々、その子がCENSOREDしたというコメントのあとには娘自身の「うける」というコメントがあり、衝撃を受ける。学校側はいじめはなかったとし、でもその子の親はいじめを疑って聞き込みをしている。母は誰にも言えずにいるが、娘を汚らわしいと思っている自分が苦しく切なく悲しくて、娘にその話をする決意をするのだった・・・。

どの話にも死が・・・。重く悲しく苦しい物語ばかりだ。

うん、落ち込んでいるときに読んではいけない。そんな感じ。でもシーンとした気持ちになり、目を背けたいけど、見据えなくてはいけないのだという気もする。
そういった物語たちだった。

no.782
 

■ 森見登美彦
「夜行(小学館)」 評価:★★★★★
Date:2016.11.14
夜行列車で旅をしたくなるような一冊。
岸田道生という銅版画家の作品「夜行」。
いつも終わらない夜を描いている。そこに顔のない女性がいつもいる。その作品は全国各地の情景で、全部で48作あるのだ。
タイトルはそれぞれ津軽、奥飛騨、尾道、天竜峡、鞍馬・・・・。

そこにその作品や岸田自身に魅せられ集う人々。彼らは岸田サロンと呼ばれる岸田の自宅兼アトリエに集まり、旅先での不思議な出来事を語った。それにインスピレーションを受けて手がけた作品といわれている。
その対に「曙光」も48作品あるとのことだが、誰も見たことは無く、岸田はもう亡くなっている。

英会話スクール仲間たちは学生時代に鞍馬の火祭に赴き、そこで長谷川さんという仲間が突然行方不明となった。まさに忽然と消えてそれきり。
10年たって大橋がみんなに声をかけて再び鞍馬に集まった・・・。

章自体は、そこでそれぞれが岸田にも語ったという旅先での不思議な話。
中井さんは家出した妻を追って尾道へ。そこでのちょっとぞっとするような話。
武田君は奥飛騨に友達4人で出かけて、途中預言者だという不思議なおばさんにあって「死相が出ている人が二人いる。いますぐ東京に引き返しなさい」と言われて・・・。
藤村さんは津軽に夜行列車で旅をして、昔火事で亡くしたかなちゃんという少女のことを思い出す・・・。でもかなちゃんはほんとにいたの?
田辺さんは天竜峡を抜けるローカル線で、不思議な少女と僧侶に出会う。ところが僧侶は偽坊主で、その昔岸田サロンで一緒だった詐欺師だった・・・。岸田の死の第一発見だったという。そしてそのとき暗室にいたのは・・・。
ラストは大橋くん。みんなの話を聞いて、さあ火祭りに行こうと出かけたらみんなが突然姿を消す。途方にくれて電話をするとみんな東京にいるようだ???さっきまで鞍馬で一緒だったのに?
そしてみんな口々に10年前に行方知れずになったは長谷川さんでなく大橋だという。長谷川さんは無事で岸田の妻となっており、岸田も生きている。
みんな見ている作品は「曙光」。「夜行」こそ幻だという。

パラレルワールドなのかな・・・。夜行の世界と曙光の世界。
そして夜行のほうの世界に戻った大橋は、それでもそこで朝の希望の光を見るのだった。夜が明けたと。

なんとも不思議な物語で、私まで夜にすいこまれそうだ。
夜は神秘的。そして底が無く奥が深く、さびしい。
でもそれが明ければ朝がくる。光だ。

森見さんの世界はやはり旅情がすてき。ほんとにそこに旅している気持ちで引き込まれる。

秋の夜長におすすめである。ただしあっというまに読めてしまうので、寝不足後注意。

no.781
 

■ 穂村弘
「鳥肌が(PHP研究所)」 評価:★★★★★
Date:2016.11.07
歌人が書いた日常に潜むちょっとした恐怖のエッセイ・・・なのかな。
思ったより面白くて、この人の短歌もちょっと面白いし、興味が俄然わいた。
母は短歌を長らくやっていて、その母から見たらちょっとこんなの歌じゃないとか言われそうだけど(笑)。

日常でちょっとぞっとするような、たいしたことじゃないけど、鳥肌たつような、そんな誰もが一度ならず味わう怖い話が満載で、流して読むもよし、味わって読むもよしの、魅力的な一冊だ。
ゆっくり読みたかったのにあっというまに読んじゃった・・・。

いつのまにか耳の中に誰のものとも知らない長い髪の毛が入っててその動く音が耳の中で・・というものや、知人の赤ちゃんを抱っこすると何か自分がしでかすんじゃないかとぞっとする、というものから、
ちょっと心霊系のぞっとするもの(それも穂村さん独特でなぜか笑ってしまいそうになるんだが)、かと思えば、親がある日突然「今って昼だっけ?夜だっけ?」と言い出して、来るべきものが来たかとぞっとしたり、なんというか、・・・軽いものから結構重いものまで、でもどれもみんなすごく理解できちゃうような、できないものも混じってはいるが、とにかく面白いのである。

ひとつひとつの章はとっても短いので、通学通勤などの合間とか最適。
小説読む集中力が疲れで欠けてるときなんぞ、まさに救世主的な一冊である。
そういう意味でもおすすめ。

no.780
 

■ 桐野夏生
「猿の見る夢(講談社)」 評価:★★★★★
Date:2016.10.31
桐野夏生さん久しぶり…。相変わらずイヤ汁の出るような女を書くのが上手すぎる。

薄井は60歳目前なのに、会長派として会社の更に重役を目指す野心を燃やし、一方で美優樹という派手な女を愛人にしている俗っぽい性欲。
なんの問題もない妻、頼りないが優しい次男は就活中、長男は結婚して家を出ている。しかしそこに突然暗雲がたちこめる。

会社のスキャンダル。そのもみ消しに巻き込まれ、そのとき会長秘書の朝川にふらっとして、そもそもそろそろ美優樹とは喧嘩ばかりでうまくいかなくなっている。
そして、妻は長峰という自称占い師のようなばあさんを家に引き入れ…そもそもこのばあさんの夢の託宣がかき回すことにもなるような。

そこに薄井の母の死による妹夫婦との遺産相続騒動。どんどん摩耗してゆく薄井。
失ってゆく薄井。長峰の高笑い。

こわいこわい。
妻の豹変。朝川の口の軽さと女としてのしたたかさ。
どの女もくせもの。強いて言えば、妻の史代や美優樹はまだ思考パターン行動パターンはなんとか理解できるが、長峰と朝川は不気味で得体が知れなくて、ほんとにおっかない。

この2人のせいで人生が壊れた気がする。まあ会社はどのみち傾いたのだとしても、薄井の人生はそれ以前に崩壊してしまうのだ。

つまり女で身を持ち崩したのかな。
長峰の言った見ざる言わざる聞かざると、もう1体のせ猿。
そのせ猿に嘲笑われてる薄井だったんだろう。

しかし遺産相続や離婚のくだりはなんともシュール。ふと怖くなる。

金と女が大好きで執着し、金と女どころか家庭も仕事も老後も失うであろう薄井の自嘲が寒々しくラストを迎える1冊。

でも桐野夏生パワーは健在であっとゆーまに読めてしまった。

no.779
 

■ 川口俊和
「コーヒーが冷めないうちに(サンマーク出版)」 評価:★★★★★
Date:2016.10.22
その地下にある小さな喫茶店の名前はフニクリフニクラ。
そこにはある都市伝説があった。
時間を移動できて、あいたい人に会えるというもの。
ただしルールがたくさんあってなかなか難しい。それでうわさがあってもそう人はトライできないのである。

ルールとは。

ある特定の席に座ったときにのみ、時間移動ができるのだが、その席にはいつも先客がおり、そこが空いたときにしか座れない。いつ空くかはわからない。

過去(あるいは未来)に行けても、そのときに会いたい人がその喫茶店に訪れていないと会えない。

その席で過去(あるいは未来)に戻ってもその席から一切動くことはできない。動いた瞬間、現在に戻される。電話もできないので外部との接触も不可。

過去に戻っても現在を変えることはできない。たとえば相手が亡くなってしまっている人だったら、その過去で会えても死なせないことはできないのだ。

そして一番重要なルール。

その席に座って、コーヒーがカップに注がれた瞬間から時間移動が始まるが、そのコーヒーが冷めてしまうまでに飲みきらなければならない。
それを失敗するとその人は幽霊となって永遠にその席に座り続けるのだ。ただ座ってコーヒーを飲むだけの存在に。

一度その席に座って時間移動をしたら、もう二度とできない。つまり一人に一回のチャンスなのだ。

4編。結婚したかった恋人と別れてしまったキャリアウーマンの美女。別れを切り出されたのがたまたま寄ったフニクリフニクラ。うわさを知って、別れは変えられなくても想いを伝えたいとあの日に戻る。
そして・・・二美子は五郎の口からある言葉を聞けるのであった。。。。

房木さんはアルツハイマー。看護婦の妻は、妻としては忘れられても看護婦として一生付き添うと誓い、自分の旧姓を呼ぶ夫と過ごしている。房木さんはこの喫茶店の時間移動のうわさを聞いて通っているようだ。忘れてしまう前に手紙を妻に渡したいという。やがて妻の存在そのものを忘れてしまった房木さんだが、妻は手紙を受け取ろうと過去へ。過去の夫は妻が未来から来たことを悟る。これは涙涙涙の展開。
現在に戻り、妻は旧姓などではなく妻として夫に接することにしたのだ。

この喫茶店の常連、近所のスナック経営の絵美子。実家は仙台の老舗旅館だが、あとを継がずに家出した。妹の久美が喫茶店まで迎えにくるが無視。手紙を無視。ところが久美はその帰りに事故で帰らぬ人に。絵美子は久美がフニクリフニクラに来た死ぬ数時間前にあの日に戻る。涙涙涙。これも涙なしでは読めなかった。
久美が死んでしまうことはとめることはできない。ルールだから。でも何かが変わった。絵美子は実家を継ぐことを決意する。

喫茶店のマスター流の妻、計は明るく人懐こくみんなに愛される人柄だが、生まれつき心臓が弱く、妊娠したことにより医師より死を宣告される。それでも産むつもり。でも生んであげることだけでそばにいられない。計は未来へ。娘に会うために。そして・・・。

出てくる人みんな魅力的。なんて優しくきれいな魂だと感じて、涙がにじむ。
あたしも行きたい。常連になりたい。みんなと仲間になりたい。
そして・・・私だったらいつに戻りたい?誰に会いたい?

死んだ人と会うときだけ、帰りそこなわないようにコーヒーの温度でアラームがなるマドラーを入れるとか、なんだかとてもそういうとこリアルで優しい。
ゆっくり大切に読みたかったのに、引き込まれすぎてあっという間に読んでしまった。

図書館で借りたけど、買って永久保存したいなぁなんて思ってしまった一冊。

no.778
 

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