*Book review

■ 今邑彩
「ルームメイト(中央公論新社文庫)」 評価:☆☆★★★
Date:2011.08.28
春海は大学に通うため上京してきて、京都から来た麗子と出会う。お互いを干渉しないという約束でルームシェアすることになった。共同生活は順調で快適だったのだが、地味で清楚でまじめそうだった麗子が突然別人のように派手になってきたのが気になっていた。ところがある日麗子は突然失踪した。工藤謙介先輩と麗子の跡を追ううち、彼女の二重、三重生活が明らかになっていく。彼女は名前、化粧、嗜好までも替えて別人としてそれぞれ生活をしていたのだ。茫然とする春海の前に、既に死体となった麗子が・・・。犯人は誰か。麗子は何故こんな生活をしていたのか・・・。

どんでん返しに驚くという評を信じて予約したのだが、正直・・・うーん・・・という感じ。今邑さんの作品は今までまぁまぁ好きだったので、これはちょっとショックかな・・・。

多重人格(これは作品中、わりに早くネタばらしされるので、作品そのもののネタバレにはなるまい)という設定はもはや使い古されてしまっていてトリックのひとつとしてはあまりにあまりだし・・・(笑)
それに、ところどころ、現実的にありえなさすぎるような点があまりに多くて・・・。出会ってすぐ、仮に意気投合したとしても、よく相手を知る前にルームメイとして契約しちゃう?警察より先にこんなあれこれ見つけたりわかったりして、どこにも警察の影が感じられないのってどうなんだろう?だって殺人事件なのに?
バーのママも、初めて来た客に、元従業員の(しかも結構気に入ってかわいがっていた子)の実家の住所とか?そんな個人情報、ほいほい教えたりする?いくらなんでも口軽すぎだろう。おかしい。

・・・と、そういう矛盾?点が気になってしまって・・・。
しかもその問題のどんでん返しとやらも、読む前から、こういった小説を読みなれている読者なら絶対見抜いてしまっているだろうというレベル。私はすでにわかってしまっていた。なんとなくこんなだろうって。だから驚きもなかったし・・・。

基本、好きな方の作家さんなだけに、これは本当に困った!(笑)

ミステリー超初心者なら・・・よかったかもしれないなぁ・・・・。多少なりとも目が肥えてしまうと、もう通用しない感じ。

それにねぇ・・・いくら何でも麗子と春海が出会って、それでマリと謙介が出会って・・・ってねぇ・・・予定調和すぎるというか・・・。あまりにご都合主義すぎる。

どうにもこうにも・・・・。
でも、まぁ、ミステリー読みつけてない人は、読みやすいし、ちょっといいと思うかもしれないな。

no.601
 

■ 桜庭一樹
「ばらばら死体の夜(集英社)」 評価:★★★★★
Date:2011.08.24
四十過ぎの翻訳家、吉野解。かつて苦学生だった頃下宿していた古書店「泪亭」の二階の部屋で、謎の美女、白井砂漠に出会う。逆玉の輿と言われた裕福な家庭で育った妻と正反対の女。何故か強く惹かれ、粗末なその部屋で何度も体を重ねる解。
しかし、砂漠が言った「三百万円貸して」という一言で、悲劇の歯車が動き始めてしまった・・・。

一言で言って、厭世、怠惰、排他、というような重苦しく鈍い暗さに満ちている。
砂漠という女性の違和感。解という男の闇の潜在的な暗さ。解は砂漠に出会わなかったらずっとこのまま惰性の人生だったろう。過去の母親にとらわれたまま。抜け出せぬ一生。とても正気でいられたかどうか。しかし、砂漠と出会って呪いを解いたからこそ、代償のようにその後は余生そのもの、一気に老けて枯れたようになったのも否めない。そして何も知らずその姿に胸をいためる娘といつまでも若い妻。

砂漠の一生はまさに非凡。ある意味、多重債務というのは得てして平凡な無知な者が陥ってしまう罠なのかもしれないが、砂漠として生きた三年間こそ、彼女の本当の夢見た通りの非凡な人生だったのか、それとも本当は元の普通の自分に戻りたかったのが本心なのか。
壮絶。

人工的に美しくなって、でもそのためにすべて失って、そして、光を見て、そして死んだ。

少しずつわかる、砂漠の過去と真実、解の秘密、そして、泪亭の佐藤さんの過去。
みんな死という呪いに囚われて、でも進もうとしているような、消えたいと切望しているような、油断して読んでるとこちらまで引きずり込まれてしまいそう。
解のふるさとの雪・・・雪・・・・雪・・・埋もれて凍ってしまいそう。

でもすごい。あっというまに読めてしまう。引き込まれて。どの人も哀れでおろかで醜い。
そしてそれが人間って感じなんだろう。

読後はどーん!と重たいけれど、読む価値はあると思います。桜庭さんっぽい感じ。

no.600
 

■ 辻村深月
「オーダーメイド殺人クラブ(集英社)」 評価:★★★★★
Date:2011.08.18
教室内ヒエラルキー上位であるリア充な女子グループにいる小林アン、中二。同じクラスの徳川はイケてないキャラモノ男子部ループで、アンと席が隣でもしゃべったこともなかったし、接触することは絶対ないと思ってた。ただ、徳川は絵の才能だけは天才で、彼のコンクールで特賞を取った絵が階段の踊り場に飾られているのだが、人知れずうっとり見るのがアンの楽しみだった。アンはリア充チームにいるんだけど、友達の芹香や倖たちとはどこか違うと自負してる。人形が腕や首をもぎとられた写真集が大好きで、殺人事件の新聞記事をこっそりスクラップしてたりするんだから。

ある日、突然友人たちから無視されてなかまはずれにされたアンは、徳川が隣の席でつぶやいた言葉により、みんなと仲直りできた。それで徳川に興味を抱いたアンは、あるとき徳川の川辺での行動を目撃してしまい、自分と共通するセンス(美意識)を感じる。

家にも教室にも絶望を感じるアンは、徳川に頼むのだった。「私をCENSORED」と。
それを受けた徳川。二人はひそかに誰にもばれないようにどのような殺人にするか、詳細に決めていく。
決行の日も紆余曲折ののち、決定して・・・その殺人計画の結末とは・・・。

中学生はまだ子供みたいだったりする。でも実はすごく頭がよかったりして大人みたいなことを考えていたりする。どのみち・・・まだ透明。ピュア。ピュアだから無尽蔵の未知のパワーがあるのかもしれない。

かつて中学生女子だった人には、アンの逡巡や悩みやもやもや・・・痛いほどわかってしまうはず。それゆえに読んでいて苦しくなる。あるいは芹香。あるいは倖。あるいはえっちゃん。誰かしらかつての自分とよく似た子がいるはず。そして・・・そのどれもがまだまだ若く、大人から見れば些細なことでも深く傷ついてしまえるピュアさなのだ。

徳川も、ああ、こんな感じの男子一人はいたよなぁって思う。そして、まだまだ男性を見る目などない時期だから、そのよさがわからないまま、ただの「キモい男子」みたいなくくりで卒業してしまったりして。

だから、アンは、本当によかった。恋、かどうかもまだあやふや、でも特別な相手。お互い。死の本当は何たるかも、ただ美化してしまってわかってない若い魂。
すべて、醜いところもさらけ出してわかちあった。徳川に冷酷に切り捨てられそうになって大泣きしたこともあった。見捨てないで、CENSOREDよ!約束でしょ!と。

不思議な関係。そして誰にも秘密の。二人だけの濃密な時間。恋ではなく、でも特別。

だから切なかった。徳川のかくしていた秘密。こんなに重苦しかったことを知ったとき、アンと一緒に胸を痛めた。

ラスト・・・とてもすがすがしい。希望に満ちてる。

きっと恋になる!!ならなくても一生仲良し!

ああ、なんか青春を再び走りぬけた気分。アンとともに。徳川に惚れちゃいそうになったよ。ああ、いいなぁ、この一番苦しかったかもしれない中学時代の、日々。

辻村さん、ちょっと新境地?やられちゃいました。おすすめです。

no.599
 

■ 池永陽
「漂流家族(双葉社)」 評価:★★★★★
Date:2011.08.04
家族だから見えること。家族だから見えないこと。親、兄弟、配偶者、子供たち・・・一番近くにいるはずなのに、気づくと一番遠くにいた・・・それが家族かもしれません、と帯にある。

そう、家族にだってきっと秘密があったりするのかもしれない。弱かったり、ずるかったり、優しかったり、だってみんな人間だから。

寡黙な父がいまさら再婚・・・自分が結婚する頃こいまさら・・・許せない気がする娘。しかし父が遺した最期の言葉を後妻から聞いた娘が涙した理由とは・・・。(「父の遺言」)
義父が宝くじで1000万円当てたと近所の人から聞いた嫁。ずっと面倒を見てきたのはこちらなのに、遠くから聞きつけた義姉や義弟が押しかけた。それぞれお金には困っており、義父や義母の前で恥ずかしげもなく欲丸出しの言い争い。静かに聞いていた義母が明かしたそのお金の行き先とかくしていた秘密とは・・・。(「いやな鏡」)
妻に先立たれた冴えない中年男がふとしたきっかけで見つけた若い女の子。愛人契約を結んだが、彼女のけなげさに本気で結婚を考える男。しかし・・・どこか不安もあるのは事実・・・すべて彼女の計算じゃないだろうか・・・老い先短いかもしれない自分と、まだ人生長い彼女、財産は多少ならある・・・しかし彼女のペースに飲まれ、婚姻届を出しに行くのだった・・・(「若い愛人」)
認知症の母。施設に入れることになったのだが、息子である男にはひとつ気になっている思い出があった。化粧ひとつしないで子育てをした母が、一度だけ口紅を塗って出かけた姿を見た記憶。あれは何だったのか。男がいたのではないか。語ることのできなくなった母だが、金木犀の香を嗅いだ途端奇異な行動に走る。そして男は確信したのだ・・・母に恋人がいただろうことを。(「紅の記憶」)
地味で冴えない頭のよい女性。ほんの出来心だった。後腐れないと思って手を出した。不倫で遊びのつもりだった。しかし彼女は別れ話をした男に微笑んで、毎晩メールや電話をよこすのだ。無視しても。それはかつて力の限り努力すれば運命や法則すら変えることができると彼女に話したさいころの話を実践しているようであった・・・何万回でも・・・何十万回でも・・・繰り返し繰り返し・・・法則も運命も変えられる・・・(「不鈴」)
少年は17歳の時、彼女に出会い恋をした。彼女は37歳。母ほど年が離れていたが、若く見える美しい女で、身体の関係も持ったのだが、彼女は10年たってあなたの気持ちが変わってなかったら一緒になってあげると言って去ってしまった。10年待った。約束の日、約束の場所。27歳になった少年はそこに47歳になった彼女を見る。彼女は幼い子供をつれていた・・・・。(「十年愛」)
定食屋を女二人がきりもりしている。名物でおいしいカツを作る多津子は夫に去られ、客相手に愛想よくふりまく育枝は初めはパートできて従業員となった女。同い年だが多津子は普通の中年で、育枝は若く見えて美しい女で男客から人気があった。多津子は疑っている。ニコニコしている育枝の女狐ぶり。夫も彼女に何かたぶらかされた気がしてならない。そして事実がわかったとき・・・(「薄いカツレツ」)
夫と別れ、9歳の息子と暮らす女。仕事先で知り合ったハンサムな男。たちまち男女の関係に。しかし子供がいると結婚しないという男に女は、母である前に女・・・と鬼になろうと決意する。しかし担任の女教師がたびたび訪ねてきて、ある推理をしたことから女の心から鬼が消えるのだ。女である前にまず母・・・・。9歳の息子の悲しい決意を知り、やっと気づいたのだ。大事なものが何かということが。(「バツイチ」)

すべてよかった。父に会いたくなった「父の遺言」、子を抱き締めたくなる「バツイチ」、女のいやらしさを感じて不快になる「若い愛人」「薄いカツレツ」、男や若さの残酷さが悲しい「十年愛」・・・・。

どれもこれも秀逸、ちょっと心に残るものばかり。バツイチや父の遺言は泣いちゃった。

帯にこうも書いてあった。
「読み終わるとあなたはきっとこう思うでしょう。『今日は、まっすぐ、家に帰ろう』」

うん、まさにね、そうでした。家の中で読んだとしても、今すぐ家族の顔が見たくなるような。
よかったです。とっても。

no.598
 

■ 東川篤哉
「謎解きはディナーのあとで(小学館)」 評価:★★★★★
Date:2011.07.18
すごい人気だったので、待ちに待って漸く手元に来ました!

読んで納得、これってそのままアニメ化しても映画化してもいける感じの設定。
二枚目で切れる口の悪い(性格も悪い?)、でも腕はピカイチの執事なんて、女としては食いつかずにいられないでしょう!!
主人公のお嬢様刑事、宝生麗子にしても、美貌のお嬢様なのにもかかわらず、ちょっととぼけた空回りなところがいい。
上司の風祭警部の勘違いっぷりが面白くていい。
どこ見ても人気出ないわけがないつくり。

短編で、麗子の管轄内で起きる殺人事件、ずれてる風祭や麗子のやりとり、そして犯人がいまいち絞りきれないままその日のディナーを迎える麗子に、執事の影山が話を聞いただけで鮮やかにすべての謎を解いて犯人を言い当ててしまう、という設定。
このお約束な感じの流れも、ちょっといい。
言ってしまえば、ミステリーとしての難易度は低いかもしれない。殺人ではあるけれど、どこかライトな感じで、スタイリッシュな影山と麗子とのやりとりが心地よくて見事で素敵なのだ。

最後の「死者からの伝言をどうぞ」では、電光石火な太刀のかっこよさまで披露してくれちゃって、ほんと影山みたいな執事いたら惚れちゃいそうでこわいです(笑)
あまりに見事にすばやく事件を解決しちゃうから、麗子が悔し紛れに
「あなた、たいした推理力だけどいったい何者?なぜ執事なんてやってるの?」
と聞こうものなら涼しい顔して
「本当はプロ野球選手かプロの探偵になりたかったのでございます」
なんて答えるだから!かっこよすぎ!

お嬢様に対しての毒舌も見もの。

「こんな簡単なこともお判りにならないなんて、それでもお嬢様はプロの刑事でございますか。正直、ズブの素人よりレベルが低くていらっしゃいます」

「お許しください、お嬢様。わたくしチャンチャラおかしくて横っ腹が痛うございます」

「お嬢様、少しはご自分でお考えください。そんなことだから『いらない存在』などど馬鹿にされるのでございますよ」
「あんたが自分でそういったんでしょーが!!」

「お嬢様は本当に犯人を逃がしたりなさらなかったのですか?どうかわたくしには本当のことを・・・」
「だから違うっていってんでしょーが!!あんたいったい誰の味方なのよ!」
「・・・・・・・・・・・もちろんわたくしはお嬢様の味方でございます」
「なによ、いまの一瞬の間は?」
「間などありましたでしょうか」

「ひょっとしたらお嬢様の目は節穴でございますか?」

「失礼ながらお嬢様・・・。この程度の真相がお判りにならないとは、お嬢様はアホでいらっしゃいますか?」

no.597
 

■ 柳広司
「ロマンス(文芸春秋)」 評価:☆★★★★
Date:2011.07.05
時は昭和八年・・・。フランス人の血が流れる子爵家の跡継ぎ、朝倉清彬は眉目秀麗、六ヶ国語を操り銃の腕前もビリヤードの腕前もピカイチ。しかし、当時色濃く異国人への差別があったため、フランスから日本へ帰国してからはつらい思いもしてきた。幼馴染の伯爵家の長男、多岐川嘉人とは親友で、嘉人の妹万里子には淡い想いを抱いている。

ところがある日、嘉人の予約したカフェの個室に、嘉人が行ってみると見知らぬ死体があった。巡査は嘉人に尋問しており、身元保証人として嘉人が清彬を呼んだのがはじまりだった。
やれやれ・・・と、清彬は軽い人助けのくらいの気持ちで嘉人の容疑をちょっとした推理を披露して晴らしたわけだ。

ところがそれが更に深い謎のはじまりだった・・・。

特高が突然やってきて先日の殺人事件の犯人は嘉人ではないかと清彬に告げたかと思えば、当の嘉人が清彬に「お前が殺したのではないのか」と本気で聞いてきたり・・・。
ある主義結社のスパイになれと頼まれたり・・・挙句、万里子がある結社の一員として逮捕されたと連絡が入ったり・・・。

政治的背景も絡んでいるので、ちょっと難しい部分もあるが、実際思い悩む清彬の姿に引き込まれてつつ、殺人事件の謎もわからないまま進んでいく・・・。万里子との恋はどうなるのだろう・・・。

そして。最後、あれよあれよと言うまに展開が進み、真犯人がわかったときには悲しい悲しいラストになっているわけで。

清彬はロマンス、と再三言う。
時代に翻弄されて叶わなかった恋。ちょっと物悲しく胸がいたくなるストーリーであった。

「幻想?おっしゃる意味がわかりませんわ」
「人が何かを完全に確信しているとき、それは決して真実ではないのです。それが、古今東西の人間の歴史が証明してきた信仰の致命的な欠陥です。そして同時に・・・・・それがロマンスの教訓なのです。」

「一度は確かに掌にしたはずの幸福の青い鳥は、手の届かぬ場所に飛び去ってしまった。ロマンスを取り戻す機会は永遠に失われたのだ。残されたのは、沈み込むような喪失感。一面灰色の世界。」

「後に残ったのは、ロマンスの失われた即物的な世界。ただ意味あるものたちの世界だ。」

no.596
 

■ 東野圭吾
「麒麟の翼(講談社)」 評価:★★★★★
Date:2011.07.03
日本橋署の刑事、加賀恭一郎シリーズ。

ある晩一人の男が日本橋の欄干にもたれかかっていた。泥酔しているとおもって声を掛けた巡査が見たのは、男の胸に深く刺さったナイフだった。大都会のど真ん中で発生した殺人事件。犯人とおぼしき者はすぐ見つかったのだが、逃げようとしたその男はすぐトラックにはねられ意識不明の重態。わりに早く型がつくとおもわれた事件だったが・・・。粘りの加賀は相変わらず独自の捜査をつつける・・・。

いろいろなテーマが、またフンダンに盛り込まれているなぁと感じる作品だ。

被害者と加害者の家族、マスコミの報道の方向ですぐ反応を変える世間の人々。そして親しいはずの友達までも・・・。
それを加賀は癌となぞらえた。侵された部位だけでなく、浸透して広がる膿みたいなものにたとえた。まさにそんな感じで、本当に報道というものの大きさ、責任というものにおそろしさを感じもした。

そして、教育、というものも・・・。間違えた公式を教えるとその後気づいてもなかなか修正できなくて同じ間違いを繰り返しやすいと、加賀は糸川教諭に言った。そう、だから初めに間違いを生徒たちに教えてはならないのだ、と。その通りの事件なのだ。加賀は見抜いていた。

被害者が簡単に加害者になりかわったり、遺族はそのたびに傷つく。
今回殺された青柳家も、娘はCENSORED未遂、息子も苛立ち、妻は憔悴している。
加害者とされた意識不明の矢島の妊娠中の恋人も、矢島の無実を叫びながら傷ついている。

何も解決されていない。加賀はそう感じたから青柳の足取りを追ったのだ。
すると見えてくる。青柳の不可思議な行動。おそらく加賀は途中から真相にうすうす気づきかけていた。でも証拠がそろうまではと粘って粘って歩き続けたのだ。
「無駄足をどれだけ踏んだかで、捜査の結果が変わる」
そして、麒麟の翼。日本橋の欄干にある麒麟の彫像には、羽がある。見つめて加賀はひらめいた。最後の確認に走る。

少し悲しい結末ではあったが、でもみんな生きて残った者たちが気づいて償えるのなら、やはり加賀の努力は報われていると信じる。

加賀は普段、温厚であまり感情を出さないが、糸川に詰め寄った最後のシーンは激昂した。

「ふざけるな。何が傷つけたくないだ。あんたは何が悪いかわかってない。なぜ(ネタバレになるから名前はここでは伏せるが)○○は青柳さんを刺したあと、自首しなかったと思う?それはあんたが間違ったことを教えたからだ。過ちを犯してもごまかせば何とかなる・・・三年前あんたはあの三人にそう教えたんだ。だから○○は同じことを繰り返した。それがわからないなら教師なんて辞めろ。あんたには人を教育する資格なんてない」

そして、加賀が捜査中、歩き回る下町の町並み・・・その描写が前作までと同じでやはりいい情緒を感じる。
日本橋の彫像の麒麟に何故翼があるのか、なんてこともわかって、ちょっと日本橋をあらためてじっくり見たくなるかもしれない。

no.595
 

■ 奥泉光
「シューマンの指(講談社)」 評価:★★★★★
Date:2011.06.29
正直、クラシック界にそう明るくない私にとって、少々難解というか、難しくすんなり入れない感じもあったのだが。
それも序盤だけ。そのうち音大レベルの知識なぞ無くても十分入り込めてゆく。ミステリアスな翳ある魅力的な天才ピアニストの永峰修人(ながみねなおと)。彼に惹かれて傾倒している語り手の里橋優という同級生の男。そして同じ同級生で友達の鹿内賢一郎。彼らは音楽を志す仲間だ。
もちろん中でも修人だけは特別で、既に天才としてピアニストとして成功をおさめていた。優と賢一郎は音大を目指して猛特訓の日々だ。そんな中、交換日記のようなノートで音楽の評を討論しあうダヴィット同盟なるものを結成する。

危うい精神状態の修人を案じながらも優は着々とその影響下のもと実力を伸ばしていった。

でもそれも過去の話。不幸な事故で指を失った修人は渡米して姿を消し、優も音大を退学して医学へ方向転換、今は医師として頑張っている。
そんな何十年もたった頃。ドイツへ旅行したらしい賢一郎から手紙が届く。なんとドイツで永峰修人が演奏していたと。ピアノを。完璧に。しかも修人が言うには指を再生することに成功したというのだ。
信じられないまま、賢一郎はその後すぐに癌により亡くなり、それっきり。
しかし、優は今、その当時のこと、修人のことを出会いからあの事故にいたるまでを鮮明に手記に残しはじめる。

そもそも。「あの」晩起こった殺人事件。犯人が結局うやむやだった同じ高校の女子生徒が絞殺された事件。彼女の悲鳴?がきこえる寸前まで、優は音楽室で演奏する修人のシューマンに聞きほれていた・・・はず。だから犯人は修人ではありえない・・・はず。
そしてその被害者の女子生徒の友達だった子の執拗な接近。これもまた意味があるのか。やがて修人の指を失うことになるあのおぞましい事故に至るまでの・・・。

最後の最後。優の妹の手紙によって本当の真相が明かされる。しかしその真相をつきつけられた犯人からの返事はないところで終わっているため、はっきりしない部分もある。

が、たぶん妹の推理が正しいのだろう。それが真犯人の、そして事件の真相であらましなのだろうと。

そう、壮大なる音楽ミステリー。シューマンのトロイメライが耳についてしまった気がする。

そして・・・修人の、謎。それが明かされるとき、むしょうにがっかりした気がした。それは私も修人に惹かれていたからに他ならないだろうと感じた。

とにかく・・・あっというまに読めてしまった。難しいのに。でも面白くてどんどん読めてしまったのだ。
だからオススメである。

no.593
 

■ 辻村深月
「本日は大安なり(角川書店)」 評価:★★★★★
Date:2011.06.28
老舗ホテル、アールマティ。そこでウエディングプランナーとして頑張っている山井多香子。今日、大安に向けて、4組のカップルの挙式を控えていた。4組それぞれに様々なドラマがあり、アクシデントも・・・。無事今日を終えることができるのか・・・。

まず、一番目の挙式、相馬家と加賀山家。加賀山家の双子姉妹の妹の挙式だ。しかし、表にはわからない姉妹だけで組まれた花婿を試す陰謀?が・・・。うまくクリアできなかったら何も告げずにすぐ離婚する覚悟だったのだ・・・。何故そこまで。しかも真意は?さて花婿はうまく潜り抜けられるか?

二組目。十倉家と大崎家。大崎玲奈は向こうはまったく気づいてないが数年前に山井から婚約者を奪い、なおかつ結局捨てた女。しかも相変わらずのわがまま気まぐれのトラブルメーカーで、時間もルーズだし、山井は重い気持ちで接するのだが・・・。

三組目。東家と白須家。白須りえは薬剤師でキャリアウーマン。ずっと独身かとおもわれていたけど突然フリーターの年下の頼りない男と結婚すると。白須家の親族は正直反対のようだがしぶしぶといった趣き。しかもリングボーイを務めるという甥の7歳の少年はなにやら東の秘密を抱えてその重圧に耐えかねているようだ。りえちゃんを結婚させたらダメだ!!殺される!殺されるとは??

四組目の予定は鈴木家と三田家。こちらは夜の挙式だからまだ誰も会場入りしてないのだが・・・何故か人目を忍んだ形で新郎がやってきて・・・なにやらこそこそしている。なぜ?そう、新郎にはとんでもない事情があって、絶対挙式をしてはならないのだった。さてどうやって阻止するつもりでこっそり忍び込んできたのか。

挙式ってあれこれ決めるのがめんどくさかったよなぁとふと思い出した。やらなきゃならないことや決めなきゃいけないこと、それらすべてが親族に相談しなきゃいけない部分があったり、なにかと本当大変。だからプランナーって大切な存在だとおもう。
山井のような優秀な人だといいなぁ。

でももちろん大崎玲奈のときは心乱され苦しんだ。でもその甲斐あって、またすべてが夢のようにまとまったから素晴らしい。
そう、それぞれの挙式に絡むミステリーだけでなく、山井の成長っぷりもきちんと描かれていて、だから面白さが増しているのだ。

だってね、大安って日は、六輝に於いて、何をやっても見事にうまくゆくって日、なんだから!!

こんなラストも無理じゃないよ!そう、見事見事に大団円。だから読んでてハッピーになっちゃう。

なんたって山井までも幸せな伴侶をつかんじゃうわけなんだから。
玲奈とも超がつく和解。まぁ相手は山井のこと誰かわかってないにしても。
鈴木ももう駄目なんだろうな、自業自得っておもったけど、女神は見捨てず微笑んだ。

双子ももくろみがはずれて、むしろよかったわけだ。花婿の勝利。さあ幸せになろう。

山井の言い切ったこのセリフに、プランナーとしての心意気やプライドってやつを感じてよかった。

「結婚式にかかる費用は確かに高いけど、お客様たちは何も、料理や飲み物にお金を出してるわけじゃない。お金は、自分の満足や、これからへの誓いを含めた、目に見えない『縁起』にこそ払われているんです」

no.592
 

■ 湊かなえ
「花の鎖(文芸春秋)」 評価:★★★★★
Date:2011.06.13
やはり湊かなえはカタイ!
今回もなんとなくやられてしまった。まさに一気読み(やめられなくて)読後の翌日も朝から内容を頭の中で反芻して離れない。とらわれてしまった。まさに花の鎖に。つながれちゃったみたいな?(笑)

3つの章が順番に繰り返されて進んでいく展開。「花」の章・・・梨花という女性視点の物語。「雪」の章・・・美雪という女性視点の物語。「月」の章・・・紗月という女性視点の物語。それぞれの物語だけどどれもひきつけられる。続きが気になる。(だから読むのをやめられなかった)

ばらばらの物語なんだけど、それがだんだんひとつにカチッとはまるとき。読んでいて目が見開いてしまった。そうだったのか・・・・・。もう一度読み返してみたくなるような。でもやはり読み返すどころじゃなくてどんどん先が気になって進めてしまったのだけど。

梨花は両親を亡くし、祖母と二人暮らし。英会話教室の講師をしていたがそこがつぶれてしまって、無職に・・・そんなとき祖母が癌で倒れた。手術するには費用がいる・・・そういえば両親が死んだとき、Kと名乗る人から生活資金などの援助の申し出があった。Kというイニシアルしか教えてくれない。毎年何万円もする花束を律儀に贈ってくる。Kって誰?梨花は資金を頼ろうと連絡を試みる。

美雪は伯父伯母に育てられ、進められた和弥と結婚したが、美雪が先に一目ぼれした人だったから本当に本望だった。幸せだった・・・・伯父伯母の息子、陽介に壊されるまでは。

紗月は町の老舗和菓子屋でバイトする看板娘。町の人気者。山登りが趣味だ。学生時代山岳部にいたから。高山植物をスケッチしたものがちょっと人気で、イラストレーターとしての仕事もしている。恋人は・・・いない。母の目下の悩みは結婚する気配のない娘のことらしいが・・・。浩一さんのことがあって以来・・恋はしてない。そんなとき、浩一さんの妻となったかつての親友希美子が訪ねてくる。驚愕のお願いをしに・・・。

そういったはじまりで。ただ、梨花の不思議に感じるKの正体がものすごく気になる。
とにかく、Kのイニシアルのつく登場人物が多すぎて(わざとだろうけれど)あたりをつけることもできず、どういうことだ?どうなっていくんだ?と読んでくうちに・・・あ!!!という瞬間が必ず訪れる。すなわち、すべてが繋がる瞬間。

Kの正体、そして花を贈ってくるわけ、梨花の母が花を喜ぶでもなし、拒むでもなし、ただたんたんと受け取り続けていたわけ。

そして・・・広がる。この本に描かれている世界が一気に。そう、パーッと、まさにわかった瞬間光が射して開けるのだ。

・・・あとは感動。切ない感動。脈々と受け継がれてゆく花の記憶。
そう、わかった瞬間、タイトルの花の鎖という意味すらわかってしまうのだから。

おそるべし、だ。湊かなえ。
こんなに面白いとは・・・・。これは絶対読むべきですよ!!

no.590
 

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