*Book review

■ 恒川光太郎
「金色機械(文芸春秋)」 評価:☆★★★★
Date:2013.12.28
壮大な歴史の物語を読んだような読後感である。
時代は江戸、人里離れた山奥にならず者たちが住まうという鬼御殿と呼ばれる場所。そこには金に覆われた異形の者が棲むという。普通に向かっても決して辿り着けない不思議に守られた土地。
その昔、親に殺されそうになり逃げたところを山賊に拾われ、鬼御殿で育った男。今は里に降り、ならず者たちの親分として生きている。
そこに遥香という美しい娘が訪ねてくる。父の仇を探していると。遥香には、手に触れた者を死へと誘う特別な能力があった。
男がその依頼を引き受けたのは、遥香がかつて鬼御殿で恋人だった紅葉に瓜二つだったからだ。きっと紅葉の娘だと確信したからだった。
遥香の父をCENSOREDしまった男はその罪を購うかのように、悪を糺す同心として必死に生きている。

金色様がその者たちに関わっている。そして結局最後まで金色様の正体は謎なのだ。
月から来た・・・生命体?でも機械音がするので、ロボット?だから永遠の生命なのか?思考も感情も人間のようにはない。
でも金色様が、それぞれの人の悲しい人生を結びつけてゆくのだった。
最後は・・・悲しい。結局大勢死んでしまうから・・・。

そして金色様の永遠の命を、静かに閉じてあげる遥香・・・。してみるとやはり金色様は生命体??月から来たと自分で言っているように・・・。
その金色様の魂が消えてゆくシーンは何となく透明感があって、美しいと感じた。

金色様のセリフは淡々としていて無機質なんだけど、なんとなく心に残るのは、無垢で俗に染まらないままだからだろうか・・・。

「テキモミカタモ、イズレハマジリアイ、ソノコラハムツミアイ、アラタナヨヲツクルデショウ」

no.726
 

■ 竹吉優輔
「襲名犯(講談社)」 評価:☆★★★★
Date:2013.11.20
第50回江戸川乱歩賞受賞作品。

十四年前にある地方都市で起きた連続猟奇殺人事件。逮捕されたのち、その美貌と語り口から犯人の男には熱狂的な信奉者が生まれた。彼はブージャムと呼ばれた。しかしやがてついに死刑が執行される。
ところがそのあと、その同じ都市内で再び事件が起こり始める・・・。現場には必ず、被害者の血でブージャムが英語で書かれていた・・・。

なんだか非常に血のにおいがたちこめる描写の多い小説であったが、それはともかく、オリジナルのブージャム、新田の動機や至るまでの生い立ち、が、いまいちカリスマを感じる魅力に乏しい気がしたのが惜しかった・・・かな。
でも、どちらかというと、主人公の仁、双子の兄を新田によって殺された過去をもつ・・・の心の揺らぎや成長のほうが面白かったし、惹かれたので、面白く引き込まれた。

第二のブージャム目線の章と、仁、そして仁の初恋の警察官の律子、三つの章が交互に書かれているのだが、第二のブージャムが仁を狙う理由が最後までわからず、犯人とおぼしき人も一応複数出てくるので、なかなかにスリリングではあった。

設定自体は新鮮味を感じなかったのだが、そして、実はもしかして意外路線を狙ってこいつが犯人だろうと目星がついてしまうのがやや難ではあったけど、それでもなんとなく引き込まれて一気に読ませる筆力は感じた。新人で30代なのにすごいなぁって思う。その将来性も買われての受賞だろうなぁと。

ただ、もう少し、やはり新田をもっと哀れに感じるような描写が欲しかった・・・さらっと書かれてゆくせいか、どうにも新田の魅力がいまひとつわからない心情のままだったのが、せっかくブージャム、なんていう面白いネーミングを与えたのに惜しいかなぁって(笑)。

律子の気持ちも、なんだか成熟しきってない感じで、なんとなく、同性としていまひとつ同調できなったのがちょっぴり残念・・・。

でも総じて言ってしまうととっても面白かった。ので、次作をまた発表したら、ちょっと読んでみたいなぁって思っている。

no.725
 

■ 畑野智美
「南部芸能事務所(講談社)」 評価:★★★★★
Date:2013.10.07
お笑いを目指す者たち、お笑い界の裏側を垣間見れる物語。
お笑いは実は結構好きでテレビなどで楽しませてもらってるが、裏ではこんな苦労だったり熾烈な闘いだったり、色々あるんだなぁって思い知る一冊だ。

ふと無味乾燥な自分の生活にむなしさを覚えている新城がたまたまライブを見に行ったお笑いのステージを見て、電撃に撃たれ、お笑い芸人を目指そうと溝口を泣き落とし、南部芸能事務所にはいる。
努力と才能にめぐまれてるが、それだけではデビューは簡単にできない世界。
先輩芸人、売れっ子の先輩、大御所の芸人、などの中で成長してゆく。

また、デビューはしたものの、なかなか地味な人気から脱出できないトリオ。みんな友達でなんだかんだ仲が良く、ここまで来たのだが、その仲の良さが災いしているのだ。でもその仲の良い感じがまた売りだったりするのだ・・。解散するかどうするかゆれる。

美貌のものまね芸人、津田ちゃん。でもそれなりの苦労はある。恋と仕事とゆれながら仕事を選び、まい進してゆく。テレビの露出も人気も増え、吹っ切って進む!!

大御所芸人の姉さんは、矜持をもって仕事をしている。最近の若い者たちの甘さに嘆息、それでも過去を秘めて毅然と年老いてなお輝くのだ。

売れっ子の中堅コンビ。でも性格は正反対。ネタを考える担当がストレスか、最近目が見えない症状に悩む。めまいと吐き気。舞台に支障が出ることもある。疲れてしまった・・・。ついに長期療養することを決意する。相方はピンで帰還を待つ覚悟を決めた。

さあ、新城と溝口のデビューの日だ。サンパチマイクを前にする夢。二人とも様々な葛藤を乗り越え、さあ、ゆけ!!

なかなか面白かった。芸人はなまぬるい覚悟ではやれない。親の死に目に会えない、などというのが、現実に当たり前の世界なのだ。舞台があったらあけられない。葬式のあとすぐに舞台に出て、客を大笑いさせるためこける、ぼける、せねばならぬ。

そんな因果な仕事なのに、そうまでしてもどうしても芸人なりたいという人があとを立たない不思議な世界でもある。

これを読むと、少し今後テレビで見る芸人を見る目が少し、深く変わりそうである。

お笑いよくわらかない人にもオススメだ。

no.724
 

■ 朝比奈あすか
「憧れの女の子(双葉社)」 評価:★★★★★
Date:2013.09.30
短編集。何となくくすぐったくなるストーリーばかりで。。。と言っても甘いんじゃない。大人の苦さをしっかり含んでる。

「憧れの女の子」は、かわいらしさを感じるタイトルだが、これは男女産みわけをして、夫婦間まで危うくなりかけている夫婦の話だ。男の子が2人いて、次こそ絶対女の子が欲しいと産みわけの診療を受ける妻。夫はどちらでもいいと思いながら、CENSORED自体がうまくいかなくなってゆく。そんなある日会社で若い部下にモーションをかけられ、それが若い頃の妻に似ていることもあって流されかける。でも・・・公園で幼い女の子の毅然とした態度を見て、ああ、女の子もいいな、と感じるように。でも待望の妊娠の果て、発覚したのは胎児は男の子だという事実。妻は堕胎をほのめかすのだが・・・。ラストは四人目の妊娠のシーンで終わる。男か女かわからない。でもどこか気持ちが穏やかになるいいストーリーだった。

「ある男女をとりまく風景」は、序盤ちょっとした読者だまし。専業主婦の日常かと思って読んでいた。仕事から疲れて帰る夫が最近いらいらしているのは仕事でいやなことがあったからだ・・・。でも妻はかいがいしく家事をして夫を待つ日々。そう思って読んでいたら・・・。専業主夫、だったとは。そしてこれは苦いラストではある。結局自分を曲げられず大切なものを取りこぼそうとしている夫。最後まで希望をもっていたが、あきらめて去ることを決めた妻・・・。

「弟の婚約者」もほろ苦い。母も姉も溺愛していたちょっと完璧な男。あつし。彼女をつれてきた。その彼女は鼻ピアスに黒づくめ。がりがりに痩せて煙草を吸う若い子。今までのあつしの彼女と違う。その上今までの誰よりもなによりあつしがめろめろなのだ。複雑な気持ちでその少女を接するうち、彼女の傷を感じて・・・あつしは絶対この子を離せないんだろうな、とため息をつく。かつての自分の恋人より遥かにいい男の自分の弟を思いながら。

「リボン」はゲイの男がカフェを開いたら思わぬ人気店となり、バイトを雇うことになる。そこに来た就職活動前の大学生はもっさりした元柔道経験者。仕事はできない。言うことはずれてる。そして挙句こなくなってしまった。かつて自分がゲイだということでいじめられたことを思い出し、男はその大学生を憎めずむしろ助けたいなどと思う・・・。

「わたくしたちの境目は」は、妻を亡くした老人が、息子夫婦と温泉旅行をするというもの。かつて妻が大好きだった思い出の温泉宿。妻は乳がんを患い乳房を失った。どうして乳房再建手術を許してあげなかったのだろう・・・と老人は悲しく後悔しながらも、年老いた自分をながめ、いつか行くからな、待ってろと妻に声をかけるのだ。

なんということないのだが、でもセリフのやりとりなどがどこか秀逸さを感じさせる作家さんだ。
だからストーリー自体、妙に胸にすとんと落ちる。

しっとりと秋の夜長に読むのにふさわしい一冊だと感じる。

no.723
 

■ 唯川恵
「手のひらの砂漠(集英社)」 評価:★★★★★
Date:2013.09.29
DVを扱った物語だ。だからなかなか衝撃的で重たい。それでもそこから懸命に立ち上がって未来を生きようとする女性たちの姿がとても神々しくも見えて、読みながら手に力が入る。

可穂子は派遣社員。頑張って働いているが若い子に後を越されてゆく日々に焦りと疲れを覚えていた。そんなとき出会った雄二。地味で真面目で目立たなかったけど、とても真摯で優しくて、可穂子は次第に惹かれていった。そして雄二からのプロポーズ。喜んで受けた。雄二は家族とうまく行ってないようなのでそこが気がかりで心配だったが、そんな雄二の寂しさも自分が産めてゆこうと思った。幸せな新婚生活。でも・・・。ひょんなことから崩れていった。

雄二は突然怒るようになった。可穂子が離れていかないか心配なのだ。仕事も辞めさせられた。友達ともなかなか会いづらい。親とでさえあまりいい顔をしてくれない・・・。やがて暴力。暴力はエスカレートしてゆく。それでも翌日泣きながら土下座する雄二から離れられなかった。
それでも限界を覚えるように・・・。その頃には心も塞いできて、逃げることが考えられなくなっていた。そのくせ周囲には仲が良いと嘘をつくのだ。この傷は自分がドジで転んだのだと。

でもある晩、雄二に首をしめられ殺されかけた。そのとき初めて死にたくないと強く意識して・・・ついに可穂子は警察に駆け込んだのだった。

DVで逃げてきた女性たちのシェルター。そこで紹介された女性たちの隠れ家の小さな農園。農作物を作って売って、細々と女性たちだけで生活しているところ。
ようやく雄二との離婚も成立して(それまで大変で、雄二の親が出てきて、再び暴力シーンを目撃されたことにより決定的に離婚が決まったといういきさつ)穏やかにDVの傷を知る女性たちとの明るく楽しい生き生きとした生活。

でも長くは続かなかった・・・。そこを経営してくれている裕ママ。かつて夫からのDVを逃れ、娘をストーカーに殺された過去をもつママ。そのママのもっと悲劇的な過去が暴かれてしまったのだ。ママは自首すると行ってそこを閉めることになる。

それぞれの人生を歩み始める女性たち。可穂子もファームで覚えたパン作りを生かして仕事につき、そこで子供連れの男性と静かな恋に落ちる。再婚をしようと決意した矢先、なんと雄二が再び現れた!!!

逃げなければならない。相手の男性にもまた迷惑がかかる。幸い、出所したママがまた小さなファームを営んでいると言う。そこへ。

ママは不治の病にかかって弱っていた。ママは語る。可穂子にだけ。
生きていてはいけない人は存在する。そういう人はCENSOREDも私は罪を感じない。だからほんとは私は自首する必要などなかった。
可穂子も決意する。合気道を習い始めた。

やがて雄二の元へ戻った可穂子。どうせ逃げてもどこへでも探し出して追ってくるのだ。そして暮らし始めた数ヶ月後。
再び雄二は牙をむく。やはり治ってなどいないじゃないか。可穂子は戦う。

そして・・・ママと同じ選択を遂行する・・・。

可穂子が再婚を決意した男は、いつまでも待つといってくれていた男は、元の妻と暮らし始めていた。それを切ない思いで確認した可穂子は、それでも本当の自由を久々に手に入れ、希望を感じ、歩き出すのだ。

愛されたい、とは思う。でもこういう歪んだ愛だと本当に・・・困る。つらい。人生が変わってしまう。

リアルに書かれているため、とても臨場感があって恐ろしかったけど、読んでいて思ったのは、DVをする加害者は本当は臆病で弱虫なんだってこと。力で説き伏せようなんて傲慢で弱いやつのすることだ。
立ち直った被害者こそ、本当に強くりりしい。立ち直れないダメージを負う人も多いと思う。

恐ろしいことだ。
DV憎むべし。そう思って本を閉じた。

no.722
 

■ 伊坂幸太郎
「ガソリン生活(朝日新聞出版社)」 評価:★★★★★
Date:2013.09.23
久しぶりに読んだなぁという感じの伊坂さん。
結構面白い設定、さすが!と思わされたのは、これ、タイトルからも察することができるけど、車がたくさん出てくる物語なんですよ。しかも何がすごいって、車に人格があり、車の目線で進んでいくんです。

緑デミオが主人公ってことかな。望月家の愛車で長男や母親が運転する時の、次男も交えた会話を実によく聞いているのだ。
他の車とすれ違うときや、隣あって駐車しているときなども、車同志で会話や情報交換、噂話などをしている。
そう、とっても感情豊かで、それぞれ自分の持ち主たちが大好きなのだ。

そして望月家が事件に巻き込まれる。
芸能人の女優がパパラッチから逃げているのを乗せたことから。
彼女はその後、パパラッチの追撃から逃れるためスピードを出しすぎてトンネル内で事故を起こし車が炎上して恋人もろとも死んでしまった。
ところが車同志の情報交換などにより、事件の思わぬ真相がわかってゆく。わかっても車だから人間に伝えることができないもどかしさ。
しかし、小学生とは思えない生意気で頭のきれる次男亨が雑誌記者との話などにより見事に真相を推理で当ててゆく。

展開のスピーディな軽快さはさすが伊坂さん、会話の巧妙さ、伏線の張り方も健在で、ライトな感じになるんだけど、結構ミステリーとしても面白い感じ。
車好きな人にはまたたまらない描写も多いだろう。

最後のエピローグで、ずっと緑デミオが寂しく思っていた通り、少し年月がたち、そう、デミオじゃなくてカローラに乗っている望月家。
でもね。あの緑の車懐かしいな。そう会話している。写真にも一緒に写っている。
そう、それも緑デミオが夢見ていた通りに。

これ読むと、自分が乗っている車、どんな古かろうが、燃費悪かろうが、すごいいとしく感じるようになるだろう。
そう、褒めてあげれば車は聞いてるんだ、そしてとっても喜んでしまうんだよ。

今日これからまた車で出かけるんだが、褒めてあげようって、そう本気で思っている。

no.721
 

■ 貫井徳郎
「ドミノ倒し(東京創元社)」 評価:☆★★★★
Date:2013.09.20
貫井さんにしては珍しくライトな一冊だ。
ドタバタジェットコースターな探偵モノって感じかな?

自称名探偵、でもどこか迷探偵な男。親友が警察署長のエリートである。
田舎町でこれと言った依頼もなく過ごしていたが、ある日、かつての恋人の妹が依頼に訪れたことから、このドミノ倒しのように連鎖して進んでゆくストーリーが幕開けするのである。

元恋人は死んでしまったが、その妹は姉そっくりの美しい外見と、姉とは正反対な破天荒な性格をしていた(笑)。
そのサエという妹は、元カレの殺人のぬれ衣を晴らしてくれと依頼にきたのである。

そう、今付近で不気味な殺人事件が起きていた。足の裏に×印が刻まれている遺体、そして折りしもそのとき、幼なじみの署長からもその殺人についての電話を受けるのだった。
署長いわく、他の殺人事件も×印が残されている。これは同一犯ではないか?つまり連続殺人ではないか?そのことについての聞き込み調査を依頼したいのだが、と。

平行して調べてゆくうち、また別件のCENSORED事件が浮かび上がる。でも残された×印。これも実はCENSOREDではなく殺人だったのでは?

ユーモアたっぷりで、はったりばかりの三枚目の探偵なのだが、実は案外深刻な問題に巻き込まれていくのである。

サエの様子も読み手から見て明らかに怪しいのだが、いともあっさりまるめこまれて、ほんと迷探偵だなぁとひやひやする(笑)。

最後、ばたばたっと真相がわかるのだが、署長も探偵も追われて危ないところで終わってしまう。
事件の真相や動議、トリックなどはわかるのに、主人公たちの無事がわからないまま終わるという(笑)。
そこもはちゃめちゃだし、部分部分、ご都合主義過ぎてリアリティに欠けるのでミステリーとしてはちょっといまいちなんだけど、貫井さんの筆力でこれがなかなか引きこまれて読ませるんですよ。

だから星は満点じゃないけど、4つ!
読んで損はないって感じです。面白いは面白いです。明るくて(笑)。

no.720
 

■ 千早茜
「あとかた(新潮社)」 評価:★★★★★
Date:2013.09.12
帯には「あがき続ける男と女の痛くて優しい物語」とある。

恋愛って段階踏んだりマニュアル通りに進んだりって、そういうものじゃない。突然心に忍び寄ってくるときだってあるもの、そして否定しても一度囚われるとその魔力から抜け出せない、そういうもの・・・。もちろんそよ風の初恋、みたいな、ただただ淡く優しいものだってあるのだろうけど、きっとそれは恋ってやつだ。

そこに愛が絡んでくると、もっと深く、もっと強く、その強すぎる力に傷つくことも多かったりするだろう。

この短編集は6編とも、そういう痛みを伴う愛が絡んだ恋っていうのか・・・・それがテーマだ。よって心が痛かったりもする。

「ほむら」は結婚直前の女が相手を愛して無いわけではないのに、出会った年上のミステリアスな男性と不倫をしてしまう話。ふわふわした男だったので突然関係は終わったのだが、後日その男は不治の病で死んだと噂を聞く。女に残った置き火のようなほむらは、おそらく一生残るだろう・・・。

「てがた」は家庭の危機に気づかない男の話。上司が突然CENSOREDした。そつのない仕事のできるおだやかな人で、遺書も無かった飛び降りCENSORED。ビルの屋上の手すりには彼の手形が残っていたという。男は自分にどこか似ていた上司のことが頭から離れず、妻とのぎくしゃくも心を苦しめている。でも・・・妻こそ死の淵を意識しているのではと気づいて、やっと家庭が色彩を取り戻す・・・。

「ゆびわ」は不倫に愛の萌芽を感じる女の話。夫はエリート、子供もいる。何の不足もない女。なのに出会ったどこか満たされず、カフェで出会った若い男と関係を持つ。遊びだからばれたら困ると思いつつ、肉体の快楽に溺れてゆく。でもある日男からこの関係は何も生み出せないからと別れを突然告げられたとき。自分の中の本当の愛、その男からの本当の愛に気づき泣き崩れるのだった。

「やけど」は背中と心に深い傷を負った美少女の話。その少女はとても美しいが、人を信じてない。正直だが排他的で孤立を恐れていない。でも。男から男へとふらふら家出をしてる時、ある中年男がCENSOREDしてしまって以来、いじめられていた中学時代に出会った優等生のクラスメイトの大学生のもとへ転がり込む。肉体関係はない共同生活。昔、男に性的暴力を受け背中に傷を負った少女は、その少年が自分を求めてこないのが・・・どこか寂しい。それが愛ゆえだと気づけないでいる・・・。

「うろこ」は同居相手の少女に自分の想いを伝えられずにいる少年の話。そう、先のやけど、とリンクしている。これは大学生の少年目線だ。孤立を恐れず人に媚びないそのクラスメイトの少女を、中学の時からおそらくずっと好きだった。だからわがままも何でも聞いてきたし、今一緒に暮らしてる。ただ、相手が自分を好きだと思えないから手を出さない・・・彼女がいくら他の男と寝ていようと・・。でもほんとは?彼女の気持ちに気づいてた。自分がうろこをかぶってた。だから・・・気づいたから彼女に微笑みかけてみようと思った・・・。

「ねいろ」は失ったものを忘れられない演奏家の女の話。これも先ほどのやけどやうろことリンクしている。少女が通うアイリッシュパブ。そこでフィドルを演奏する女。彼女にはPKOに所属して世界を飛びまわる医師の恋人がいるが、彼はそばにはいてくれない。嫌われたくなくて理解ある女のふりをしている。だから苦しい。そんなある日、熱帯魚の店で美青年と出会う。彼は彼女の演奏を聴いたことがあるという。そして青年と仲よくなる。彼女は告白するのだ。彼に。ほんとは恋人の子を身ごもっていたことがあると。でも流産したのだと。彼が子供ができたと知ったら厭な顔するのがわかっていて秘密にしていたから罰が当たったのだと。それが彼女をむしばんでいた。青年の言葉で解放されて、彼と向き合える気がしてきた・・・。

どれもどこか寂しい。けど、希望であったり成長であったり、恋愛でいい意味で変わる人の様子が丁寧に書かれている。

どろどろなものも混じってるんだけど、どろどろした不潔さはない。どこかピュアで繊細。だからきれい。

ちょっと透明な大人の小説って感じ。

no.719
 

■ 荻原浩
「家族写真(講談社)」 評価:★★★★★
Date:2013.09.06
短編集。タイトルは最後の一編のものだが、なるほど収録7編すべてテーマはそのまま家族。

「家族になろうよ」は妻を早くに亡くし、子供を2人を育て、今は結婚して息子が家を出たので娘と2人暮らしする男の話。漫才のような父娘の会話のかけあいはそのままドラマを見ているかのような軽快さ。そんな娘がついに結婚したいという男性を連れてくる・・・。どうにかしてけちをつけようと待ち構えていたが、来た相手は非の打ち所のない好青年。。。一人暮らしになると覚悟と決意を固めた男。かつて若かりし頃、自分との結婚で将来の夢を捨てた亡き妻への回顧と共に・・・。

「磯野波平を探して」は、サザエさんの父、波平54歳に自分が追いつこうとしている事実に気づき焦る男の話。老いることを恐れず家庭ではいつも威張っている波平を目指そうと奮闘する日々。そしてついにある夜、飲み屋でリアル波平と遭遇する???コミカルなのにどこかペーソス。

「肉村さん一家176kg」は、家族三人そろってデブ、という内村さん一家の話。会社の健康診断でひっかかったので家族そろってダイエットを決意、涙ぐましい努力。でも体重はなかなか反映されない・・・。そんな焦りの日々の中、妻がローレル指数で計算すればまだ許容範囲の体重だと発見して・・・あっけなく憂いが去り、いつもの食生活へ(笑)。笑える明るい一編。

「住宅見学会」は、いわゆる既に生活している住宅を不動産屋を通し一般の人が見学するというシステムのことで、切りつめやりくり苦労して夢のマイホームにあこがれる家族が、セレブな家庭を訪問するというもの。家はもちろんインテリアもライフスタイルも夫も子供もみんな洗練されていておしゃれで美しい・・・見学に来た主婦はへこむ。が、徐々にこの家庭に隠されていた秘密が露見してゆき、最後は自分たちのささやかな幸せを噛みしめ帰路につく・・・。人の芝生は青く見えがちなんだよね。

「プラスチック・ファミリー」は、この中で一番暗い悲しい一編。独身を貫き、50歳過ぎても貧しく孤独、でも自由を満喫していると自負する男。また仕事をくびになり、帰宅する途中のゴミ捨て場でマネキンを拾った。若い頃一度だけ真剣に結婚を考えた女に似ていたからだ。そしてそこから人形相手の家族ごっとが始まり、やすらぎを覚える。やがて最後は自分が終止符を打つのだが。ほんとは寂しかったんやね。今からでも遅いことはない。さあ本気で生きてみようよ!

「しりとりの、り」は、一編目の結婚しようよにも通じる。娘ができちゃったとかで結婚相手を連れてくる。いい歳なのにバンドマンを目指していたとかでどこかむしが好かない男。でも自分も仕事を辞めてしまって今は無職・・・。次はなかなか見つからない。家族を誘ってドライブ。車中でしりとりしながらの会話で、それだけの場面だけで、家族の愛ってやつがひしひし伝わる一編。荻原さんさすが!!

「家族写真」は、写真館を営む父が脳梗塞で倒れ、そのことでばらばらになっていた家族が集まり、また再生してゆく過程があたたまる一編。ほんとはいつだって愛に満ちている。愛でいっぱい。それが家族。最後を飾るにふさわしい感動の一編だった。

家族というものをあらためて感じ、考えることができる良い一冊です。オススメ。

no.718
 

■ 薬丸岳
「友罪(集英社)」 評価:★★★★★
Date:2013.08.25
薬丸岳さんはいつもとても重たくて、でも胸に残るテーマを提供する・・・・。
今回もそうだ・・・。

つまり、あれですね、もし自分の親友、もしくは恋人が、実は過去にものすごく残忍で許しがたいような殺人を犯していたと知ったら・・・。
友情を続けられますか?恋人として今まで通りでいられますか?
というような?

益田はジャーナリスト志望だったが、ある編集社で自分の熱い正義の気持ちと、現実とのギャップに絶望し、やがて収入がないため住むところも追われる生活を余儀なくされていた。やむを得ず寮つきで募集していたカワケン製作所という小さな町工場で面接を受け、無事入社できた。そのとき一緒に入社したのが鈴木という男だった。

初めは人との接触を好まず、自分のことも何も語ろうとしない排他的な鈴木だったが、やがて益田に心を開き、他の同僚とも交流を深めてゆく。
CENSORED願望のことで、益田に死んだら悲しいと言われて以来、益田のことを親友と慕い、事務員の美代子にはストーカーから救ったことで惚れられ付き合って・・・。人間らしい笑顔を見せるようになってゆく。

鈴木は益田に過去を聞かれ、もし益田くんが自分の隠してる過去を話してくれるなら自分も話したいし益田くんには聞いて欲しいけど、もし聞いても友達でいて欲しいと懇願する。

益田にも過去があった。そもそもジャーナリストを目指すきっかけともなった重く暗い過去が。中学時代の友達を自分がCENSOREDさせてしまったのだという罪の意識が。
鈴木の過去を聞くのがどこかおそろしく、また自分の過去を語る勇気も出ぬまま、独自で鈴木の過去を調べ始める益田。

そして気づいてしまった過去の残忍かつ恐ろしい殺人。
少年院で矯正して、今は施設の束縛や不信感で行方をくらまし、整形して偽名であること。

なによりその殺人の残忍さと恐ろしさ。

許せないと感じる益田。そして先輩ジャーナリストにそのことを相談したことにより、世間に鈴木の過去が知られることとなる・・・。美代子も。
鈴木は益田の裏切り行為を責めもせず、寂しそうな顔を最後に再び行方をくらます。

また死なせてしまうのではないか。
益田は捨て身の手段で鈴木にメッセージを送るのだった・・・。

正直、そこで終わるのだ。
鈴木と出会ったことにより、過去を振りきれ清算できた益田と美代子。
鈴木はどこへ行ってしまったのか、最後までわからないラストだが、きっと益田の手記を読み、CENSOREDなどしないでいてくれる、カワケン製作所での、初めて自分が生きた気がすると語った思い出がある限り、希望をもって、死でつぐなって逃げるのではなく、生きて贖罪の、そして立ち直りの人生を歩んでくれることを益田以上に願ってしまう。

重たいけど、深くてとても、良い一冊であった。

no.717
 

200/200件 [ ページ : << 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 ... 20 >> ]

- HOME - 新規投稿 - お知らせ(3/8) - 記事検索 - 携帯用URL - フィード - ヘルプ - メール - 環境設定 -

Rocket Board Type-X (Free) Rocket BBS