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「ようこそ、詩歌藩国へ。」 もう何度言ったか分からない台詞を、入国審査官は言った。 いい加減舌がつりそうだと思う。 そっと目の前にいる東国人観光客から視線を外し、彼の後ろを見る。 列が出来ていた。驚くべきことに最後尾が見えない。 最近観光客が増えたと思っていたが、これはあんまりではないかと思う。今日一日俺はトイレに立てないのではないか。 音楽祭当日早朝、エンリル空港は混雑していた。いや、大混雑していた。 燃料を馬鹿に食う航空機はこの国で殆ど使われていない。だから空港自体も随分こじんまりした規模である。目の前の現実と当初の予定が全くかみ合っていなかった。 「お預かりした検疫検査の結果と所持品検査の結果はいずれも問題ありません。貴方の入国を許可致します。」 もう何度押したか分からない判子を、入国審査官は書類に押し当てた。 いい加減手がつりそうだと思う。 ついこの間まで確かにあったのんびりした職場はどこにいったんだろう。 「ここを抜けるとシーカヤック交通網が御利用できます。サファイアラグーンのホテルに直行したいのでしたら是非どうぞ。体力に余裕がおありでしたら水竜の背に乗ってみてください。大変楽しい船旅になるでしょう。・・・・えぇ、そうです、ソットヴォーチェです。水竜達が音楽祭の間だけなら手伝うよと言ってくれまして。」 もう何度見たか分からない東国人観光客の驚いた顔を、入国審査官は見た。 西国人観光客よりは控えめなリアクションだなぁと思う。 「・・・まったく、ありがたいことです。シーカヤックだけじゃとても手が足りなくて。音楽祭が終わったら、ソット達もくたくたになってるでしょうね。なにか労いのご褒美でもあげないと」 入国審査官はにこりと微笑んだ。 自分だけが忙しいのではないと思い出した。 今日は全力で動く日だと思った。業務が終われば楽しい時間が待っているのだ。 うまい酒とメシと音楽が俺を待っている。 「では、良い音楽祭を。節度を失せず良き想い出が生まれることを。」 「はー、なんとも壮観ですねー」 駒地真子は頬に潮風を受けていた。 水竜の背に、彼女は立っている。薄く青みがかった白の短髪が揺れ、子供らしさの残る顔が微笑んでいる。 <そうですね、爽快です> 駒地の足元で幼い水竜が答える。声は出していない。聞こえるのはドラゴンシンパシーと呼ばれる人々だけである。 「いやー、それにしても恐ろしい。こんなにおいしいものが溢れているとは」 リンゴ飴を舐めながら、花陵が言う。 長い髪をお団子に編んだ女性が、両手にそれぞれリンゴ飴と蜂蜜飴の刺さった棒を握っていた。白い髪が陽光に映えた。 「あ、駒地さん。いる?ソットちゃんも。」 「いや、いい。見てるだけで十分。」 <ご好意だけ頂いておきます。> 即座に反応する一人と一匹。残念、おいしいのにと花陵は再び舐め始めた。 <そういえば、あのバンダナの人は今日一緒ではないのですか?> 「あ、森さん?うん、夕方までやることあるって」 <そうですか> 簡素な返事だが明らかに残念そうな子供の水竜。無意識だろうが大変かわいらしい。 駒地真子、視線を落とす。しゃがみこみ、たまらずぎゅーっ。 「駒地さん、次私も。」 花陵・駒地両名、撃沈。 [No.7352] 2010/03/31(Wed) 00:21:17 |
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