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all 産業育成作業ツリー - 鈴藤 瑞樹 - 2010/09/02(Thu) 20:52:14 [No.7577]
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星鋼京との連携 - 竜宮・司 - 2010/09/15(Wed) 00:21:29 [No.7593]
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美術館の紹介、理念、責務(修正1 - 竜宮・司 - 2010/09/13(Mon) 04:20:21 [No.7587]
美術院 - 鈴藤 瑞樹 - 2010/09/12(Sun) 21:04:33 [No.7586]
よんた藩国製の文房具輸入について - 鈴藤 瑞樹 - 2010/09/12(Sun) 20:06:07 [No.7585]
予定:ページタイトル用。 - 花陵ふみ - 2010/09/11(Sat) 19:02:12 [No.7582]
完成。 - 花陵ふみ - 2010/09/12(Sun) 00:17:25 [No.7583]
作業物でないけど、ひとつアイデア。 - 花陵ふみ - 2010/09/08(Wed) 10:35:18 [No.7580]
「デザイン」でくくると、よいかも。 - 花陵ふみ - 2010/09/18(Sat) 19:00:52 [No.7599]
シャッターアート - 鈴藤 瑞樹 - 2010/09/07(Tue) 22:11:38 [No.7579]
SS的なもの - 鈴藤 瑞樹 - 2010/09/02(Thu) 20:54:25 [No.7578]


SS 芸術祭前夜 (No.7577 への返信) - 士具馬 鶏鶴

夜半、一条の星もない。
詩歌の地は夜明かしの灯火が家々の窓から洩れている。
夜闇に染まる蒼海は夜景と別がない。
天から望めば、詩歌の小島が星のように見えたであろう。
暗夜に輝くそれは、ただの小島ではない。
詩歌藩国の新たな眼差し。
この国の歴史が、また一つ新たな友を迎えようとしていた。

イリューシア美術院というものがある。
巨大な敷地を紺碧のレンガ校舎が4棟と自然で占める。
一際明かりと喧騒に包まれている場所、音楽院にも引けをとらないだろう。
その優雅な姿とは、まったく似つかわしくない喧騒であった。

東棟


「くーっ!!ウィスタリアがなかなかでやしないっ!?誰か、誰か新しいの持ってない!?」
「やかましいぞ、アリス!!さっさと売店いってこいっ!!芸術祭開始まで売店はしまらねぇよっ!!!」
「この忙しい時に買い物になんていける訳ないでしょっ!?エドガー、あんた空気読みなさいよっ!!」
「そっちこそいい加減コソコソ人の絵の具使うのやめろっ!!」

混沌の様相を呈してる。
そこかしこで騒いでいるこの場所でも、ここは一際ひどい。
東棟、2階。洋画科と東国画科の共同アトリエスペースである。
巨大なスペースを埋め尽くすようにキャンバスが溢れている。
それぞれに未完成の絵が掛かっていた。
対面する学生の顔は鬼気迫るものがある。

「今日はいつになくカリカリしてるなぁ、天才小学生と秀才中学生」
「無理もないわ。アトリエに篭り始めてはや5日だそうよ」
「そりゃすげぇ・・・。まだ3日の俺らは楽なもんだな」

バンダナで額を被う銀髪の男と腰まで伸びた銀髪を首筋辺りで括った女。
両者の口調は穏やか、けれど目の下には隈があった。
どちらも年はハタチそこそこ。長身。
視線の先には一組の男女。
アリスと呼ばれた、長い銀髪を鬱陶しそうに括っている少女。年は10を越して間もないが、数年すれば誰もが振り返るようになるだろう。
エドガーと呼ばれた、短い銀髪を逆立てた男。年は15,6、精悍な顔つきに厳しい目元。美男子だが、少々話しかけづらい人物。
熾烈な舌戦の果て、アリスは席を立った。しぶしぶという顔付き。
アリスと入れ替わりに、見える影。

「補給物資だよ、ユリア、ドーグラス」
「お帰り、デニス」
「かえりー」

くせっ毛の銀髪、二人に比べて低い背の女が大きな紙袋を抱えていた。

「もうすごかったよ、売店。奥で品出しやってた女の子泣きそうな顔してた。はい、これ墨汁」
「おう、あんがとさん」

紙袋から瓶を取り出し、ドーグラスと呼ばれたドレッド男に手渡す。

「こっちはユリアね、ジャスパーグリーン」
「ありがとう」
「んじゃ次の買出しはドーグラスね」
「まかせとけ、ってもこれが最後だといいが」

親指を弱々しく突き上げた握りこぶし。親指には絵の具がついて固まっている。

「それで、グンナーのほうはどうでした?」
「あー・・・そうね、完成目前だったから灰になりそうだった」
「幸せだな・・・」

目が遠くなる三人。はぁ、はやく彼のようになりたい。

「そうそう、アーベルさんに会ったよ」
「へー、何しに?」
「明日の打ち合わせだって。初めての芸術祭だから学芸員も大変らしいよ」
「だろうなー。今まで音楽祭だったし」

その時。

「でっきたーーっ!!!エドガー、そっちは?」
「こっちも終わり、さっさと提出して帰ろう」
「エフテリア先生、どこかなー」
「きっと食堂でタカリでもしてるだろう」

絵を持ってアトリエを出て行く二人。

「うへー、あの二人が出来上がったか」
「それじゃ、そろそろ仕上げましょう」
「はーい」

また、彼らの戦いが始まる。夜明けは目前であった。


北棟


「てんちょー!!バイトが一人倒れましたーーっ!!」
「廊下に出しとけっ!!」
「店長、つり銭がありません」
「事務室行ってきてっ!!つり銭置かしてもらってるから!!」
「店長さん、神殿からの絵の具追加分届きました。よんた印です」
「お待たせしましたっ!!絵の具のお客様、ご注文承ります!!整理番号の順にお願いします!!」

人の山が見える。
学生寮として使われている北棟には売店がある。
それが原因だった。

『只今、追加分のよんた印絵の具が売店に到着いたしました。繰り返します・・・』

アナウンスが学院中に流されている。
さらに画材に飢えた学生が押し寄せるのは明白だった。

店内に残っているアルバイトは5人。
皆、この激戦を生き延びた猛者である。
そもそも雇ったアルバイトは確か15人だったはず。
厳選を重ね、いち早く作品を仕上げた連中だった。
一人、また一人と消えていった。

「店長っ!!見えました!!新手の学生です!!」

双眼鏡を覗き込むアルバイトが叫んだ。
遠くから音が聞こえる。
それは無数の足音。若者達の情熱が、空気を震えさせた。

「さぁ、みんな。もう一働き、がんばりましょう」
「「「「「はい!!」」」」」

店長は浮かべた笑みを消し、形の良い唇を引き締めた。
切れ長の目が燃え上がる。
最後まで流麗を貫き通さんとする女店主の戦いが、また始まる。


[No.7605] 2010/09/20(Mon) 15:17:41

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