荒海の賢者 文章 - 鈴藤 瑞樹 - 2014/02/10(Mon) 22:33:01 [No.7848] |
└ 最後の部分については - 鈴藤 瑞樹 - 2014/02/11(Tue) 00:32:52 [No.7853] |
└ 【賢者と詩と歌の王】 - 鈴藤 瑞樹 - 2014/02/11(Tue) 00:30:45 [No.7852] |
└ 【賢者と仲間たち】 - 鈴藤 瑞樹 - 2014/02/11(Tue) 00:29:59 [No.7851] |
└ 【賢者と詩人】 - 鈴藤 瑞樹 - 2014/02/10(Mon) 22:34:08 [No.7850] |
└ 【賢者と花の娘】 - 鈴藤 瑞樹 - 2014/02/10(Mon) 22:33:23 [No.7849] |
【賢者と詩と歌の王】 海岸に建てられた小さな小屋の中、囲炉裏に火を灯し賢者が暖をとっている。 時刻は深夜、すでに新居祝いはお開きとなり、ノウスも寝息をたてている。 小さく、しかし鋭いノックが二回響いた。 「開いておるよ」 立て付けの悪い扉を開けて現れたのは九音・詩歌その人であった。 彼は膝を突き、こうべを垂れて言った。 「お初にお目にかかります 荒海の賢者殿」 「舞音の育ての親じゃな、話は聞いておるよ」 「娘が世話になっております」 「いや、むしろ世話をしてもらっておるが」 賢者の眼差しは鋭く、普段の飄々とした態度とは打って変わったものだった。 「まずは、感謝を。 南方の守りはいくら厚くしても困ることはありませぬゆえ」 「なに、釣りに良い場所を見つけただけのことじゃよ」 賢者が国の南側に居るのは理由がある。 帝国の最南端に位置する詩歌藩国は、その立地から攻められる場合は南から敵がやってくる。 国の北側にある首都を囲むように山脈が巡っていることもあり、防衛戦闘で最前線となりうるのは南方なのだった。 国の地形をみて賢者はすぐにこの海岸を拠点と定めたのはこのためだった。 ちなみに、賢者が釣り上げようとしていた近海のヌシとは南方防御を担っている水竜ソットヴォーチェの一体である。 「して、この年寄りになに用かね。 礼を言いにきただけではあるまい」 「はい、ひとつ預かっていただきたい物があり参上した次第です」 それは、剣のようにも見える芸術品だった。 宝剣といっても良いかもしれない。 少なくとも、実戦で役に立つようにはとても見えない剣だった。 なにかを切るための剣ではないのかもしれない。 もしくは、想像すらつかぬものを切るための剣とも言えなくもない。 「平和の剣かね」 「はい」 幾何学的な紋様が施された、不思議な剣だった。 柄には瞳のようにも見える蒼い宝石が埋め込まれている。 それを包み込むように、縛るように、緑色の布が鞘のように覆っている。 それはまるで草蔦が剣に絡みつくようにも見えた。 「いずれ、時がくるそのときまで、預かっていただければと思います」 「いずれとは?」 詩歌はまっすぐに賢者をみた。 その瞳には優しさと、強さが見てとれた。 「いずれ、遠くない未来には、すべてのTLOが心を持つ時代が来ます。 なればこの剣とも、話ができる日が来るでしょう。 『彼』を手に取って振るうのならば、本人が是と言うときでなければならぬと思うのです」 「道具である剣の声を聞くと?」 「道具ではなく友人として出会いたいと思っております」 賢者は優しく、優しく笑った。 「では、その時が来るまでしばしの間預かろう その日が来るまで決して紐解かれぬよう」 「ありがとうございます」 それが、賢者と藩王の最初の出会いだった。 [No.7852] 2014/02/11(Tue) 00:30:45 |
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