『それがなんなのか知らないが〜旅立ちの歌〜』
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“いってくる” “いってらっしゃい”
それは、詩歌藩国にいつもどおりに雪が降る日だった。
葉崎京夜の元に一つの知らせが舞い込んできた。
共和国にセプテントリオンの強襲有り。
「そうか…。」
留学の準備を進めていたリワマヒにも動員が掛かったのを確認すると、即座に発つことを決めた。
部屋の中を感慨深げに見回す。
出発に備えいろいろなものを処分し、生活電化品ぐらいしか残っていない部屋は妙に寒々しく移る。
くすりと一つ笑うと、浮かぶ旅行鞄だけを引き連れて部屋の扉に向かう葉崎。
勢い良く扉が外から開かれる。
現れたのはポニーテールの少女。大きく肩で息をして睨む様な目で、いや、実際に葉崎を睨んでいた。
「どうしました、アルティニ?」
いつもどおりの声を聞いて、アルティニの肩が震える。
「この国を出るって聞いた。」
責める様なアルティニの声を聞いても、葉崎の表情は変わらない。
「えぇ。リワマヒに行きます。」
優しく微笑んだまま止まったような顔。
「おとーさんも、私の前から居なくなるんだね?」
責めるような声。
「えぇ。」
変わらない笑顔。
「嘘吐き。」
泣きそうな声。
「そうか?」
「ずっと守ってくれるって言った!」
堪えようとする雫が盛り上がる。
「そなたの事は護るし、例え何処に居ようとも想っている。」
男の口調が普段とは違うものに変わる。
「じゃあ!」
男の瞳に輝きが宿る。
「そなたが俺の娘である事は、何一つ変わらん。」
青い青い純粋な炎の輝き。
「だから、そなたが本当に助力が必要な時は俺の名を呼ぶがいい。」
それは、無限の優しさの結晶と
「だが、それ以外はそなたは自分で戦わなくてはならない。」
例え世界であろうとも邪魔する物を叩き潰す不遜さ
「涙を拭け。泣けばその無力が許されるのか?」
かつて、アルティニが聞いた言葉が蘇る。
「そなたは俺の娘だ。どこの誰がなんと言おうともだ。」
涙をぬぐうアルティニ。
「次は前を見ろ。」
顔を上げる。
「後は・・・出来るな?」
頷く少女。
「いってくる。」
「おとーさんいってらっしゃい。」
そして男は旅立った。その口元には嬉しそうに笑っていた。
〜FIN〜
[No.4090] 2008/03/03(Mon) 00:22:12 |